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<span itemprop="headline">映画「金環蝕」(1975)再見。</span>



山本薩夫監督の「金環蝕」(1975)を、40年ぶりに再見した。

この映画は、池田隼人総理大臣の時代に起こったダム建設に関連した汚職事件をモデルにしている。登場人物も、ほとんどが実在したモデルがいる。

例えば、京マチ子が演じるのは池田隼人夫人(映画では寺田峯子・寺田首相夫人)である。出しゃばり女として映画では描かれている。そのわけは、人事には口を出さないが、業者の入札などは、夫である首相にとって有利になるように、自分の名刺(首相夫人)に「xx建設にお願いしますね。」と”権力をかさに着たような”メモ書きをして、決定権のある人物などにゆさぶりをかけるのである。

タイトルが出る前に、画面に「周りは金色の栄光に輝いて見えるが 中の方は真っ黒に腐っている」という文字が現われる。それが金環蝕であり、この物語の主題だった。


                                                 金環蝕


豪華俳優によるオールスターキャストだが、いかにもエリート然としたメガネの奥で鋭い眼光をみせる仲代達矢演じる星野官房長官が主役のようにも見えるが、この映画で、歯ががたがたの出っ歯で前科4犯の闇金業者・石原を演じる宇野重吉が主役といってもいいくらいでその役作りには、圧倒される。

配役が画面で次々に現れるが、最初に男優の名前がずらりと並び、後半は女優の名前が出てくるというように分かれていた。



・・・
昭和39年5月12日、第14回民政党大会で、現総裁の寺田政臣(久米明は、同党最大の派閥・酒井和明(神田隆)を破り、総裁に就任した。

この時、寺田は17億、酒井は20億を使った。
数日後、星野官房長官の秘書・西尾(山本學)が、金融王といわれる石原参吉(宇野重吉)の事務所を訪れ、二億円の借金を申し入れたが、石原は即座に断った。

そして、石原は星野の周辺を部下と業界紙の政治新聞社長・古垣(高橋悦史)に調査させ始めた。政府資金95%、つまりほとんど国民の税金で賄っている電力会社財部(たからべ)総裁(永井智雄)は、九州・福竜川ダム建設工事の入札を何かと世話になっている青山組に請負わせるべく画策していた。

一方、竹田建設は星野に手を廻して、財部の追い落しを企っていた。
ある日、星野の秘書・松尾が、財部を訪れた。彼は寺田首相夫人の名刺を手渡した。それには「こんどの工事は、ぜひ竹田建設に」とあった。首相の意向でもあると言う。

その夜、財部は古垣を相手にヤケ酒を飲んだ。古垣は財部の隙を見て、首相夫人の名刺をカメラにおさめた。昭和39年8月25日、財部は任期を一カ月前にして、総裁を辞任した。彼の手許には、竹田建設から7000万円の退職金が届けられていた。

新総裁には寺田首相とは同郷の松尾が就任し、工事入札は、計画通り竹田建設が落札し、5億の金が政治献金という名目で星野の手に渡された。

そんな時、石原は星野へ会見を申し込んだ。すでに星野の行動全てが石原メモの中に綿密に記されていた。この会見で、星野は石原に危険を感じた。

数日後、西尾秘書官は名刺の一件で、首相夫人に問責され、その西尾は自宅の団地屋上から謎の墜落死を遂げた。警察は自殺と発表した。

昭和39年10月6日、寺田首相が脳腫瘍で倒れ、後継首班に酒井和明が任命された。ある日石原はマッチ・ポンプと仇名される神谷代議士に呼び出された。

神谷は、福竜川ダム工事の一件を、決算委員会で暴露するといきまいた。
石原は神谷に賭けることにした。昭和40年2月23日、決算委員会が開かれた。

参考人として出席した松尾電力会社総裁らは神谷の追及にノラリクラリと答え、財部前総裁は、古垣と会ったこと、名刺の一件を全て否定した。

一部始終をテレビで見ていた石原は、古垣に首相夫人の名刺の写真と、石原がこの汚職のカギを握っていること、を古垣の新聞に載せるように言った。

彼は星野らが自分を逮捕するであろうことを予測したのだ。派手に新聞に書きたてれば、よもや彼らも自分と心中はすまいと睨んだのだった。

だが、その夜、古垣は、義弟・欣二郎に殺され、何者かに古垣の原稿と名刺写真のネガを持ち去られてしまった。翌朝の新聞には「三角関係のもつれ」とあった。石原参吉がついに逮捕された。「数億の脱税王」などと新聞記事は大見出しをつけていた。


民政党本部幹事長室で、斎藤幹事長(中谷一郎)は、神谷代議士(三國連太郎)に2000万円渡し、三カ月ほど外遊するように、との党の意向を伝えた。翌日の決算委員会に、すでに神谷の姿は無かった・・・。

昭和40年3月21日、死去した寺田前総理の民政党葬が行なわれ、酒井総裁が、厳粛な表情で故・寺田を讃える弔辞を読んでいた(MovieWalker)。

・・・


政界と業者(この映画では、ゼネコンといわれる建設会社)との癒着や、利権を巡るわいろ、政治新聞社への賛助金名目による懐柔(自分たちに都合のいい記事を書かせる)などが描かれ、50年たった今でも、「政治とカネ」の問題が後を絶たないことに驚かされる。

政治の中枢にいる人物が、表に出せないカネを工面するため、ヤミ金融から2億円もの調達を頼んだり、腐りきった裏の世界も描かれる。「腐ったリンゴは、隣のリンゴを腐らせる」というセリフッも印象に残る。

金融業者が、金にものを言わせて、情報を集め、その情報をネタに政治家から巨額のカネを払わせようと暗躍していた。その闇金業者は、”乱世の英雄”と言われたり、星野官房長官仲代達矢)に言わせれば、”ただの火事場泥棒”ということになる。


金融業者の石原(宇野重吉)は、「自分の目で、星野を見てみたい」と”爆弾”情報を握っていることをにおわせて、料亭で星野と石原が同席するシーンは圧巻だった。

石原にしてみれば、内閣を倒すくらいのネタをもって臨んだのだが、石原は、全く動じることもなく、小ばかにしたような薄笑いの態度で、「どうせ首相夫人の名刺か何かでしょう」と言って、退席してしまうのだ。

一方でダム建設に絡んで、入札に関して虚々実々の不正や、駆け引きも行われていた。

建設案件に対して複数の指名された企業に対して「ロワーリミット」を設定する会議でも不正があった。「ロワーリミット」というのは、最低落札価格のことで、落札選考基準からみて、その誤差のパーセント比率の中で、最も高い金額で設定した会社が請け負うというシステムだ。

「うちの会社では、ここまで安くできます」というのは、はじかれる仕組みになっているわけで、国の見積もり提示予算に対していかに誤差が近くで提示するかがポイントとなる。

その誤差というのが、「6.5%」「7%」「7.5%」「8%」・・・といったロワーリミットをどれにするかというのを決める際に、「封筒の中身のパーセントをすべて7%に」するという特定の会社に有利にあるように工作が行われたのだ。

今は亡くなった俳優が多いが、見ごたえがあった。

出演者:
星野康雄(官房長官):仲代達矢 
石原参吉(金融王):宇野重吉 
神谷直吉(陣笠代議士):三國連太郎
朝倉節三(竹田建設専務):西村晃
古垣常太郎(日本政治新聞社社長):高橋悦史
松尾芳之助(電力開発後継総裁):内藤武敏
財部賢三(電力開発総裁):永井智雄
古垣欣二郎(常太郎の異母弟):峰岸徹
若松圭吉(電力開発副総裁):神山繁
西尾貞一郎(内閣秘書官):山本學
大川吉太郎(通産大臣):北村和夫
斎藤荘造(幹事長):中谷一郎
小島(電力開発理事):根上淳
小坂老人(花柳界の情報屋):吉田義夫
小野(有力紙記者):鈴木瑞穂
島田(有力紙記者):前田武彦
宗像(電力開発技師):田豊
早川義信(衆議院決算委員長):嵯峨善兵
寺田政臣(首相):久米明
酒井和明(後継首相):神田隆
正岡(電力開発理事):高城淳一
中村(電力開発理事):五藤雅博
広野大悟(副総理):河村弘二
金丸(青山組常務):上田忠好
脇田(石原の部下):早川雄三
荒井(石原の部下):矢野宣
青山達之助(青山組社長):原田清人
黒尾重次郎(寺田派幹部):外野村晋
平川光正(寺田派幹部):山本武
党総裁選議長:花布辰男
安原内閣秘書官(西尾の同僚):山本清
小松内閣秘書官(西尾の同僚):小美野欣二
警視庁警備課員(首相夫人警護):田村貫
寺田峯子(首相夫人):京マチ子
萩乃(石原金融王の妾):中村玉緒
吉千代(星野官房長官の女):安田道代
遠藤滝子(古垣兄弟の女):夏純子
加代子(石原金融王の妾):大塚道子
時枝(吉千代宅の家政婦):中村美代子
かつ江(石原金融王の妾):長谷川待子
電力開発副総裁の女:川崎あかね
西尾悦子(西尾秘書官の妻):原田あけみ
星野の女:笠原玲子

☆☆☆


白い巨塔」「不毛地帯」「華麗なる一族」が山本薩夫監督の個人的なベスト3作品。
やはり山崎豊子の原作というのが強みだ。



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