映画「大いなる幻影」(原題: La Grande Illusion、1937)を再見。第一次世界大戦中、フランス軍の戦闘機がドイツ軍に撃墜され、捕虜となった将校たちの物語。貴族出身のドイツ軍将校ラウフェンシュタイン大尉(シュトロハイム)は、捕虜となったフランス軍将校ボアルデュー(ピエール・フレネー)らに、階級的な共感を抱き、礼儀正しく扱う。一方、労働者階級出身のマレシャル中尉(ジャン・ギャバン)とは理解し合えず、そこに「階級」というテーマが浮かび上がる。
捕虜収容所からの脱走を図る彼らの試みや、戦争における人間関係、友情、階級の違い、そして「戦争の不条理さ」が描かれていく。
外国語映画として初めてアカデミー作品賞にノミネートされるなど世界的に高く評価された反戦映画の傑作。
ジャン・ギャバンが主演をつとめ、サイレント映画時代の名匠エリッヒ・フォン・シュトロハイムがラウフェンシュタイン役で圧倒的な存在感を見せた。
第一次世界大戦でのフランスとドイツの戦いを背景に、ドイツ軍捕虜となったフランス人の収容所生活と階級意識、彼らとドイツ人将校との国境を超える友情を描いて、鋭く人道主義的立場から戦争を批判した反戦映画でもある。
日本では、1938年に輸入されたものの検閲により上映禁止となり、第二次世界大戦後の1949年に公開が実現した。同年のキネマ旬報ベストテンでは第2位にランクインされている。
軍幹部同士は敵味方であっても互いに貴族の出身ということで対応も紳士的。
スイス国境まで逃げきろうとするマレシャル中尉(左)とローゼンタール中尉
<あらすじ>
第一次世界大戦の欧州戦線、ドイツ軍の捕虜となったフランス軍人、労働者のマレシャル中尉(ジャン・ギャバン)と貴族のド・ボアルデュー大尉(ピエール・フレネー)は、偵察飛行中に撃墜されて、ドイツ軍の捕虜になる。
その際、彼らを撃墜して捕らえた部隊の指揮官だったのが、ドイツ貴族のラウフェンシュタイン大尉(エリッヒ・フォン・シュトロハイム)であった。
ドイツ軍人ラウフェンシュタイン大尉は、戦前の上流社会のつながりから、ド・ボアルデュー大尉の親類のことも承知していた。戦争以前からの、同じ「貴族」階級に属する者として、国籍を超えた親近感を持っていたのだ。
ということから、マレシャルとド・ボアルデューの二人が、捕虜として彼の部隊本部に連行されてきた際には、ラウフェンシュタインは、二人に対して極めて紳士的に、まるで旧知の友人を遇するかのように丁重に接し、およそ「敵軍の捕虜」という感じの扱いはしなかった。
その後二人は「捕虜収容所」へ移送されて、他のフランス軍捕虜たちと一緒になり、ここで、ユダヤ人銀行家のローゼンタールたちとも合流する。
やがて祖国のために脱出を繰り返し、ラウフェンシュタインは、ド・ボアルデューを撃たねばならなかったことを残念に思っていた。彼の脚を狙ったが外れてしまったことを悔やみ、そのことをベッドのド・ボアルデューにも謝罪した。
ド・ボアルデューは「いや、気にしないでください。私があなたと同じ立場だったなら、同じことをしましたから」と答えるのだった。ド・ボアルデューは息を引き取り、マルシャルはローゼンタールはともにドイツ国内を逃げ回る。
その後、脱走したマルシャルとローゼンタールの二人は、徒歩で中立国のスイスを目指していたが、空腹と寒さと疲れのために、危険だとわかっていながらも、とある野中の民家の馬小屋に入り込んだ。だが案の定、その家の主婦エルザ(ディタ・パルロ)に見つかってしまう。
エルザは、戦争で夫を失ったドイツ人寡婦で、幼い娘と二人暮らしであった。エルザは、疲れ果てている二人に食事を与えて、ケガで歩けなくなっていたローゼンタールの治療もしてやり、二人をフランス人の逃亡者だとわかっていたが、ドイツ軍に通報することはせず、そのまま彼らの面倒を見てやった。
そして、やがてエルザとマルシャルの間に愛が芽生える。だが、逃亡者である二人がこのままこの家に止まれば、いずれドイツ軍に見つかることになる。
エルザたちに迷惑をかけることになるのがわかっていたから、マルシャルは「戦争が終わったら、必ず君たちを迎えに来る」と約束して、エルザたちに別れを告げて、再びローゼンタールとスイス領を目指して歩き出す。
まもなくスイス領まで来た時に、ローゼンタールがマルシャルに「本気で、あんな約束したのか?」と問い、マルシャルは「もちろんだ」と答える。
だが、ローゼンタールは「俺たちは、国へ帰っても、また軍人として働かなくてはならないし、戦争がすぐ終わるなんて保証はどこにもない。戦争が終わったら、なんていう期待は、大いなる幻影だよ」とそう言うのであった。
そして、二人は、国境付近でドイツ兵に発見され、高みから背中を狙撃されそうになるが、そのドイツ軍の分隊長は「撃つな。あそこはもうスイス領だ。運のいい奴らだ」と狙撃をやめさせる。二人は無事スイス領内へと入っていく。
・・・
タイトルの「大いなる幻影」というのは、階級の幻影(=大いなる幻影)のことで、戦争の中でも貴族的価値観が通用するという幻想。
また、人間性と連帯ということで、敵味方を越えた友情や人間のつながりも描く。国家間の争いの虚しさと、反戦メッセージとともに、階級社会の崩壊を暗示している。
またマレシャル中尉が「平和になったら、きっと君たち母娘を迎えに来る」と約束した言葉に象徴される「理想」や「希望」としての「平和」は、いつでも「大いなる幻影」でしかない、ということを語ったものともいえる。
そうした中で、民族とは、階級とは、戦争の悲惨さ、国家とは、などのさまざまなテーマが浮かび上がっていた。
のちの収容所、捕虜・脱獄映画に多大な影響を及ぼしたと見られ、特に脱走のためにトンネルを掘るシーンや、土をズボンに入れてバラまくなどは「大脱走」に見られる。名作は今見ても色あせない。
<主な登場人物>
■マレシャル中尉:ジャン・ギャバン
■エルザ:ディタ・パルロ
■ド・ボアルデュー大尉:ピエール・フレネー
■ラウフェンシュタイン大尉:エリッヒ・フォン・シュトロハイム
■ローゼンタール中尉:マルセル・ダリオ
■カルティエ:ジュリアン・カレット
アマゾンプライム配信中。
■「にほんブログ村」にポチッと!お願い申し上げます。