映画「パトリシア・ハイスミスに恋して」(原題:Loving Highsmith、2022)はアメリカの人気作家パトリシア・ハイスミスの知られざる素顔に迫ったドキュメンタリー。
パトリシア・ハイスミスといえば「太陽がいっぱい」の原作者。その名が知られるようになったのはヒッチコック監督の「見知らぬ乗客」。近年では、ケイト・ブランシェット主演の「キャロル」がある。こうした名作映画の原作小説で知られるパトリシア・ハイスミスは、欧米ではアガサ・クリスティと並ぶ人気を誇る女性作家だ。
中でも偽名で発表した自伝的小説「キャロル」は、1950年代のアメリカでハッピーエンドを迎えた初のレズビアン小説となった。
偽名で発表したのは、ハイスミス自身の恋愛対象が女性であり、女性たちとの旺盛な恋愛活動を家族や世間に隠す二重生活を余儀なくされていたからだった。
アメリカ人であるハイスミスが、恋焦がれる相手「C」(頭文字=キャロルと思われる)をロンドンまで追いかけるが、そのプライベートを題材にしたのが「キャロル」だった。
フランスではレズは犯罪とされ、フランスを追われてスイスに逃げるということにもなった。
本作ではハイスミスの生涯を、生誕100周年を経て発表された秘密の日記やノート、貴重な本人映像やインタビュー音声、家族による証言、そしてアルフレッド・ヒッチコックやトッド・ヘインズ、ヴィム・ヴェンダースらによる映画化作品の抜粋映像を織り交ぜながら、彼女の謎に包まれた人生と著作に新たな光を当てるドキュメンタリーとなっている。
監督・脚本はドキュメンタリー監督、脚本家として活躍するスイスの映画監督、エヴァ・ヴィティヤ。
「未発表の日記を読み始めるうちに、彼女自身に恋をしてしまった」と監督が語るように、本作はハイスミスの生誕100周年である2021年に刊行された、彼女の恋愛生活を赤裸々に綴った日記を基に制作されている。
ナレーションを担当しているのは大ヒット・ドラマシリーズ「ゲーム・オブ・スローンズ」ドラマシリーズ「ウェンズデー」で知られるグウェンドリン・クリスティー。
楽曲はフランスのギタリスト、ノエル・アクショテが書き下ろし、ビル・フリゼールとメアリー・ハルヴォーソンが演奏に参加した。
女性作家のクールな仮面の下に隠された、惚れっぽく、傷つきやすく、愛を渇望し続けた、知られざる素顔が明かされる。
【パトリシア・ハイスミス プロフィール】
1921年1月19日、アメリカ、テキサス州フォートワース生まれ、ニューヨーク育ち。バーナード・カレッジ在学中より短篇小説の執筆を始める。1950年に発表した長編デビュー作「見知らぬ乗客」でエドガー賞処女長編賞を受賞、本作は翌年ヒッチコック監督により映画化。
1952年、クレア・モーガン名義で自らの体験を基にしたロマンス小説「キャロル」を刊行。その他の主な著書に「トム・リプリー」シリーズ、「水の墓碑銘」「殺意の迷宮」など。1962年よりヨーロッパに移住。1995年、スイスのロカルノで死去。74歳没。
【STORY】
トルーマン・カポーティに才能を認められ「太陽がいっぱい」「キャロル」「アメリカの友人」を生んだアメリカの人気作家、パトリシア・ハイスミス。
生誕100周年を経て発表された秘密の日記やノート、貴重な本人映像やインタビュー音声、タベア・ブルーメンシャインをはじめとする元恋人たちや家族によるインタビュー映像を通して明かされる、多くの女性たちから愛された作家の素顔とは――。
ヒッチコックやトッド・ヘインズ、ヴィム・ヴェンダースらによる映画化作品の抜粋映像を織り交ぜながら、彼女の謎に包まれた人生と著作に新たな光が当てられている。
代表的なキャラクターであるリプリー(「太陽がいっぱい」の原作に登場)について「リプリーは人を殺してもシラーッとしている。そして逃げる」と語っている。単に殺人を犯す悪者としてではなく、殺すべき理由があるとしている。
このドキュメンタリーでは、「リプリー」(1999)でリプリーを演じたマット・デイモンにフォーカスされていた。ドロンが一切出てこないのが残念だが「リプリー」のほうが原作に近いとは言われている。
2024年にはNetflixミニシリーズとして「リプリー」(全8話)が配信された。こちらは、主人公のリプリーにまったく魅力がなく残念(笑)。
「キャロル」で主演を演じたケイト・ブランシェット演じるキャロルはパトリシア・ハイスミスが恋焦がれた人物「C」をモデルにしているといわれる。
キャロル(ケイト・ブランシェット=右)
監督・脚本:エヴァ・ヴィティヤ
音楽:ノエル・アクショテ
キャスト:マリジェーン・ミーカー、モニーク・ビュフェ、タベア・ブルーメンシャイン、ジュディ・コーツ、コートニー・コーツ、ダン・コーツ
製作:2022年/88分/G/スイス・ドイツ合作
原題:Loving Highsmith
配給:ミモザフィルムズ
劇場公開日:2023年11月3日
■Netflixで配信中。
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