「社葬」(1989)を見た。大新聞社の後継者争い、内幕をシニカルに描いたブラックコメディ。会社版「仁義なき戦い」。監督は舛田利雄。「お葬式」にも似たドタバタ劇とユーモアもあるが、最後に大どんでん返しが待ち構える。
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全国紙の「太陽新聞」内部では太田垣(若山富三郎)会長派と岡部(高松英郎)社長派の間で派閥争いが激化していた。ある日、定例役員会で社長派から太田垣会長の代表権と名誉会長職の解任が提出され、取締役販売局長の鷲尾平吉(緒形拳)の棄権により一票差で可決された。太田垣はショックで緊急入院。社長派が喜んだのも束の間、今度は岡部社長が芸者相手に腹上死。社内は大混乱に陥り、さらに社葬の実行委員長として鷲尾(緒形拳)が命ぜられる。
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映画の冒頭では、満員電車から大量のサラリーマンがあふれでて、オフィスビルに向かう姿が映し出される。チャップリンが「モダンタイムス」で予言した通りだ。大手新聞社の輪転機が回る。北陸・富山の雪の中、新聞を運ぶ車がスリップ。
「日本の新聞はインテリが作ってヤクザが売る」と字幕がでる。北陸新聞の配送車と太陽新聞の車が正面からぶつかり合い、お互いにののしり合う。
それぞれ拡販団がいて、部数拡大のための拡材も「3年縛りで洗濯機」「5年縛りで冷蔵庫」などといった言葉が飛び交い、新聞社の販売部門では「洗濯機500台用意しろ」などといった命令が飛び出す(そういえばかつて、1か月でもいいから購読して、と洗剤が置かれて行ったこともあった。笑)。
新聞社の後継社長を巡って、抗争が繰り広げられるが、そうそうたる俳優が出演している。若山富三郎、芦田伸介、緒形拳のほか、十朱幸代、高松英郎、根上淳、小松方正、中丸忠雄、野際陽子、江守徹、加藤武、佐藤浩市、イッセー小形などである。当時、バラドルとして人気のあった井森美幸も意外な役で出演している。
緒形拳が、赤坂料亭兼置屋の十朱幸代にスキーに誘われる。緒形拳は、さっそく、会社の部下にスキー道具一式を買わせる。部屋にあったテニスセットはその部下にくれてしまう。「テニスの彼女とは別れたんですか」(笑)と部下。後に「スキーセット」も手放すことになるのだが(笑)。十朱幸代の妖艶な美しさが印象的で、緒形拳とのラブシーンもある。
妻(吉田日出子)には、葬儀の打ち合わせで2日間かかると言い訳をする。そもそもスキーに行くのでセーターを着こんでラフな格好で出かけようとすると、葬儀打ち合わせなら、と背広を着せられるおかしさ。不在中に、会社から何度も電話があり、「本当はどこへ行っていたんですか」と妻に問い詰められるが、はぐらかす。
妻のほうは、息子の大学入試が気がかりで、手いっぱい。「上智がダメだったみたいで、青学、慶応は大丈夫かしら」。社葬が終わるころ、忙しくしている緒形拳のところに妻がやってきて両手で大きな輪を作る。
「受かった」と言おうとしているのだが、緒形拳は、両手で「X印」のしぐさ。緒形拳は、会社が首になるかもしれないと妻に言っていたので「X」は、首はなしになったと伝えたかったようだ。チグハグさが笑いを呼ぶ。
豪華キャストだが、ほとんどの俳優が亡くなっている(30年の時を感じる)。
字幕の「日本の新聞はインテリが作ってヤクザが売る」は、当時の大新聞から批評その他、完全に黙殺されたが、映画賞のシーズンになり毎日新聞社の毎日映画コンクールで松田が脚本賞を受賞。映画雑誌では公開時から評価が高くこの年の多くの映画賞を受賞している。
■受賞歴
第63回キネマ旬報ベスト・テン9位
第44回毎日映画コンクール日本映画優秀賞、監督賞(舛田利雄)shaso、脚本賞(松田寛夫)
第14回報知映画賞監督賞(舛田利雄)、助演女優賞(吉田日出子)
第13回日本アカデミー賞日本映画優秀作品賞、助演女優賞(吉田日出子)
第9回藤本賞・奨励賞、製作(佐藤雅夫、奈村協、妹尾啓太)
第2回日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞主演女優賞(十朱幸代)