女優のレベッカ・ホールが初監督した「PASSING 白い黒人」(2021)をみた。1920年代のアメリカ・ニューヨークが舞台で、あえてモノクロで、スタンダード画面なのがいい(サイズが4:3のアスペクト比)。
タイトルは、黒人が白人のふりをしてパスする(=通用する)ということ。
黒人たちの中には、白人として振る舞い、白人としての利益を享受する生き方を選択する者もいた。この行為は「パッシング」と呼ばれ、白い肌の黒人にとっては生き延びるためのひとつの手段でもあった。
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舞台は1920年代のニューヨーク。白人しか入れないところに時々訪れる黒人女性アイリーン(テッサ・トンプソン)は、ある日、そんな場所のひとつで昔の同級生クレア(ルース・ネッガ)に再会する。
クレアは完全に白人と偽って生きており、人種差別者の夫すら真実を知らない。だが、アイリーンを通じて久々に黒人コミュニティに触れたクレアは、そこからどんどんアイリーンの生活に入り込んでくるようになり、アイリーンは複雑な思いを抱えるようになる。
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アイリーンは、黒人の名前を捨てて、帽子を深くかぶり、どこへ行くにも黒人と思われないように注意していた。レストランで一人食事をしていると、自分を遠くならずっと見ている女性がいて、こちらに近づいてくる。
クレアは、白人男性と結婚しているが、この夫というのが大の黒人嫌いという差別主義者。クレアは、堂々と生きるアイリーンに対して羨望とある種の感情を抱いていることがさらりと描かれる。
クレア自身は見た目は白人だが、生まれてくる子供が黒かったらと怯え、生まれるまでの心痛・苦痛は生きた心地がしなかったという。私の子は黒いとアイリーン。
クレアは、息子たちに会いにハーレムまで来るというのだ。そして、クレアの夫もやってきて、妻の出自を知ることになるのだが・・・。結末は・・という映画だった。
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イギリス生まれの女優レベッカ・ホールが、なぜこの映画を監督したのかと思ったら、レベッカ自身が、母方の祖父から引き継いだ黒人の血が流れていたのだ。その祖父は、見た目が白人として通じることから、白人として生きてきた。
そのことについては家族の中でも触れてはいけない秘密のように扱われ、ホールは自分自身のルーツやアイデンティティについて、ずっと煮え切らないものを感じていたという。そうしたギャップについて考えている時に、この原作に出会ったようだ。
「白いカラス」(2003)なども同様の内容だった。最近の映画のテーマとして、多様性、マイノリティ、LGBTなどの扱いが多すぎないかと逆に思ってしまう。
原作はネラ・ラーセンという作家が1929年に執筆した小説で、作者自身もパッシングによって人種を揺らいで生活していたようで、それが反映されているといわれる。映画は全編がモノクロで構成されており、淡々としたなかにも緊張感が蓄積されていくようなストーリー。
Netflixも「ROMA/ローマ」や「MANK/マンク」などの白黒の良作を出しているが、「PASSING/白い黒人」もNetflixオリジナル作品として注目されそうだ。