「アイズ・オン・ユー」(原題:Woman of the Hour、2024)は、「マイレージ、マイライフ」(2009)でアカデミー賞助演女優賞にノミネートされたアナ・ケンドリックの初監督作品。Netflixオリジナル映画。
題材と脚本に夢中になったアナ・ケンドリックが、ほかの人が監督をやらないなら自分がと監督してしまった作品。
実在の連続殺人鬼の起こした事件を主題にしているが、フェミニズム運動(男女平等)を推進しているアナ・ケンドリックにとっては、1970年代に若い女性(未成年含む)を狙って性暴力&殺人を犯したとされて逮捕、実刑判決を受けた恐ろしいシリアルキラーの話は恰好の題材だったようだ。
殺人者の名前は「ロドニー・アルカラ」と言い、捜査では少なくとも8件の殺人事件に関与したとされているが、実際は130人以上の被害者がいるのではないかという指摘もあることが最後のテロップに流れる。
この殺人者は、1970年ごろに流行ったヒッピースタイルの長髪で、ニタニタして薄気味が悪い人物で、関わりたくない人物だが、カメラ撮影と称して、若い女性に近づき、暴力を振るい殺人を犯すという卑劣漢。
不気味な殺人鬼を演じるのはダニエル・ゾヴァットという俳優。外見、雰囲気が気持ち悪いほどだが、言葉は巧み。
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1977年、ワイオミング州の雄大な平原。ひとりの女性がある長髪の男に写真を撮られていた。まだ出会ったばかりのようで、男はシャッターを切りながら「君のことを聞かせてほしい」と促す。
その女性は別れたばかりのボーイフレンドと嫌なことがあったばかりのようで、思い出したのか涙をみせる。男は優しく言葉をかけ「君は綺麗だよ」と落ち着かせる。
女性は気を取り直してまた過去を語る。出産前に関係が途絶えて放置されてしまったこと、この苦しさを誰にも話せなかったことなど。
すると男はゆっくり近づき、その女性の首におもむろに手をかける。意味がわからず一瞬茫然とする女性。しかし、危険を察した女性は走って逃げようとするが、男はすぐに押し倒し、首を絞めていく。そして動かなくなった女性に人工呼吸をした後、息を吹き返した女性を再度襲うという鬼畜。
1年後の1978年。ところかわって、シェリル・ブラッドショー(アナ・ケンドリック)は演技を学んでいてそれを仕事にしようとしていた。今はやる気のなさそうな2人の男の前に立ち、オーディションの面談の最中。
「ヌードはOKだよね」「いいえ、脱ぎません」といって、その場を立ち去ってしまう。
そんな中、シェリルは、テレビ番組「ザ・デートゲーム」という番組の出演者に選ばれる。それは独身男性3人の中から独身女性がひとりを選ぶという内容。
全く俳優としての力量は何の関係もなく、しかもくだらない女性蔑視な空気に従うしかない状況に嫌気がさすが、実はさらに厄介な問題が潜んでいた。
その出演する独身男性の中に、若い女性を執拗に狙う連続殺人鬼が紛れていたのだった。そして、司会者に促されてシェリルが選んだのは…。その時には、まさかそんな人物とは知る由もなかったが、まさにその男だった。
番組からは、選ばれた人物と二人に対して旅行のプレゼントがあった。番組が終了し帰ろうとすると、男が「電話番号の交換をしようと」と申し出る。シェリルが番号のメモを男に渡す。男は、受け取ったメモの数字が判別できないから、口で言ってくれと言ってきた。
(デタラメの番号を書いたので)「見せてくれれば直す・・・」というのだが、男は「旅行に行く気はないな」と責めてくる口ぶり。「ないです」ときっぱり言い、自分の車に向かおうとすると、足早に追いかけてくる男。
番組で2番目の男から「3番目の男には気をつけろ」と耳打ちされていたので、恐怖が湧いてきたのだが…。
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アナ・ケンドリックの意気込みは感じるが、実話の映画化の難しさも感じる。原作に手を入れたとは言うが、薄気味悪い人物の手口を複数紹介しただけにとどまっている。
テレビの番組自体も、ご都合主義で、司会者からして、台本通りに質問して、ニコニコしていればいいと女性蔑視がある。
ところが、そうした風潮への女性シェリルからの反撃がテレビ番組で行われる。
番組のメイク担当のベテラン女性が何十年も番組を見てきたが「上から下まで、下らない人間ばかりだから、台本にないことなど、思っていることをズバリと言ったほうがいい」といわれたシェリル(アナ・ケンドリック)が矢継ぎ早に1番目、2番目、3番目の男に質問するのが痛快。
「相対性理論について…」などのほか、極めつけは「女性の存在をどう見るか…」が、3人の男の本音を浮き彫りにしていくのだ。
1番目の男は、一般教養もなさそうで回答もしどろもどろ。2番目の男も回答も今一つ。3番目の男は、テキパキと求められる答えを返していたのだった。
番組自体がやや低俗で、出演女性も軽く扱われており、そういった扱いに反発したフェミニズム向けの映画と言えるかもしれない。
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原題と異なる邦題にした意味が不明。カタカナの邦題は「あなたに注目」といった意味か。いい意味では果敢にフェミニズム運動を進める「あなたの発言・行動に期待」なのか、悪い意味で、映画の殺人鬼からみて「(獲物として)あんたにくぎ付け」なのか(笑)。ユー(You)というのが、君なのか、あなたなのか、おまえなのか日本語の難しいところ(笑)。
1時間35分という短さだけはいい。
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