「マダム・フローレンス!夢見るふたり」(原題:Florence Foster Jenkins、2016)を見た。実話をベースにした、ニューヨーク社交界の顔にしてソプラノ歌手でもあった女性、フローレンス・フォスター・ジェンキンスをモデルにしたドラマ。
監督は「クィーン」「あなたを抱きしめる日まで」などのスティーヴン・フリアーズ。出演は、アカデミー賞の常連メリル・ストリープ、「アバウト・ア・ボーイ」などのヒュー・グラントのほか、レベッカ・ファーガソン、サイモン・ヘルバークなど。
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しかし、その歌唱力は音痴というしかないレベルであった。
夫シンクレア(ヒュー・グラント)は、マスコミを買収したり、理解者だけを集めた小規模なリサイタルを開いたりと、病を抱えながらも夢を追う彼女を支えていた。そんな中、フローレンスがカーネギーホールで歌いたいと言い始め・・・。
事実として、フローレンスは“史上最悪のオペラ歌手”と呼ばれた。
音程とリズム感が全くなく、一音たりとも持続的に発声できない。
しかし、彼女はその破天荒な歌で大変な人気を博した。
1944年のニューヨークの最高峰カーネギーホール公演は、今も同館のアーカイブで一番人気という。チケットは即完売し、ホールの外には入りきらない客が列をなしたという。フローレンスを絶賛したのコール・ポーターなどの音楽家。オペラ史上トップ歌手エンリコ・カルーソーは、彼女を「称賛と尊敬されるべき歌手」と評している。
これを映画化したのが「マダム・フローレンス!夢見るふたり」。
フローレンスを演じるメリル・ストリープは、「マンマ・ミーア!」や、ジョナサン・デミの傑作映画「幸せをつかむ歌」ではあっと驚くロック姉ちゃん(オバさん)役を快演し、歌う女優としての地位が確立されている。
しかし、今回は音痴のオペラ歌手。オペラのコーチのもとで2カ月アリア歌唱特訓を積み、最後の2週間で音程を外す練習をしたという。わざと音痴に歌うというのは困難な作業に思える。
フローレンスはいわば“裸の王様”。
潤沢に金を落としているオペラ界の人々と演奏者を集め、豪華な衣装を着た彼女が登場。その強烈な音痴っぷりに初めて聴く者は衝撃を受け、思わず外に出る聴衆も。しかし、フローレンスを守ろうとする夫や執事をはじめとする強力なガードで、歌がヘタクソと思われていることを彼女には知らせないようにする。
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聴衆をお金で買収したり、フローレンスの歌を酷評した新聞(ニューヨークポスト)を買い占めて、フローレンスに見せないようにするなど夫の涙ぐましい努力。
フローレンスがあるとき「昨日のカーネギーホールの歌を聴いた。コメディとしておもしろかった。新聞の悪評など気にしないほうがいい」と耳にして、新聞スタンドに向かう。すると新聞はすべて売り切れ。新聞スタンドのおっさんが「背の高い英国人が全部買っていき、ごみ箱に捨てていた」という。フローレンスは、ごみ屑箱を探して、ついに新聞を見てしまう。そして、ふらつきながら歩き卒倒してしまう。
マダム・フローレンスは、19歳の時に遊び人の男と結婚。この最初の夫から梅毒を移され、50年も生きてきたのだった。頭はスキンヘッドで、カツラをかぶっていた。
フローレンスがお気に入りだった伴奏ピアノを弾くピアニストのコズメ・マクムーンが、フローレンスの夫シンクレアに、一つ聞いてもいいかと遠慮がちに聞く。「マダムがいつも持っているバッグの中には何が入っているのか?」と。シンクレアは「それはいえない」だった。後で、そのバッグの中身がわかるのだが・・・。
カーネギーホールに招待された海軍兵士などの聴衆のあいだで、フローレンスの歌は「絞め殺されるネコの声だ」「お袋よりひどい」といったあざ笑うような声が上がり、フローレンスは歌う意欲がなくなり声を止めてしまう。
すると、スタークの妻アグネスが立ち上がり「拍手をしよう。盛り上げよう」と聴衆に訴え、聴衆全員が「ブラボー!」と立ち上がるのだった。
フローレンスは、ベッドの上で、最後に夫シンクレアに言う。
「どんなに悪声と非難されても(カーネギーホールで)歌った事実は消せない」。
どんな役を演じても、メリル・ストリープは、成り切ってしまうところが凄い。最近、偶然だが、レベッカ・ファーガソン(写真)の出演している映画をよく見ている。
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