本やネットで書かれているので、新しい発見はなかったが、映画「第三の男」を50回は見たというのは初めて知った。
「私ってミーハーなのね。ジョセフ・コットンがかっこよくて・・・」はいいとしても、何回も見たのは、「今夜の酒は荒れそうだ」という字幕がいたく気に入ったようす。英語ではなんて言っているんだろうと確認する意味もあった。字幕って面白いな、と思うきっかけになったという。
「いまでも、こんな訳はできませんよ。」と一応謙遜していたが、ネット上における、数々の誤訳批判など意に介せず、「元の意味を変えずに、主人公の気持ちになって(=演じるつもりで)セリフを、字幕制限字数一行13文字に収めているというのだが・・・。
しゃべった内容はほとんどが、ネットの中に自伝のような文章があったので以下に紹介。
・・・
「私を決定的に映画ファンにした一本の映画が「第三の男」。本当に素晴らしく、50回位見ました。字幕もほとんど覚えてしまって、その中にひとつ印象的なものがありました。戦後のウィーンの話で、ある男がウイスキーのグラスを持ちながら、「今夜の酒は荒れそうだ」と言ったのです。
私は父が戦死。当時はそんな家庭はごまんとありました。男のいない家庭で育ち、酒が荒れるという表現を知りませんでした。かっこいいセリフだなあと、懸命に聞き取ると”I shouldn't drink it. It makes me acid” 。
これを飲んじゃいけない。この酒は私をacidにする。
“Acid”は酸ですし、ダブルミーニングで機嫌を悪くするという意味があります。字幕は直訳ではなく、エッセンスを実にうまく表現しているということをその場で意識し、面白いという感触を得ました。
大学を出て映画しかないというので、字幕という職業を志したのです。
ところが、当時劇場用の字幕をやっているのはすべて男性。5~6人の男性が塀の中にいて入る術がない。
長期戦を覚悟しましたが、20年間入口のない塀の外をうろつき、映画の仕事に就けませんでした。他にも映画の仕事はあります。でも、私は字幕の仕事にこだわったのです。まず英語が関係しているそれにフィクションの世界に入ってドラマを作る、そこが私には魅力でした。
大学を出て10年間は映画界に近づけず、10年を過ぎてやっと映画会社でパートのアルバイトにありつきました。英語はお茶の水と津田塾で勉強し、書いたり読んだりはまあまあ出来たので、レターを書くようなことをしていました。
ある日、俳優が来日することなり映画会社はパニック。それで「あなたやって」と言われ、会話は出来ないと抗議しましたが記者会見に出され、しゃべれなくて、しどろもどろ・・・。
せっかくアルバイトにありついたのに、こんなヘマをして、もうクビだと思ったのに、次に誰か来たら、あれでいい、またお願いしますと言われてびっくり。
会話力はゼロでしたが、映画のことは知っていたので、題名、監督から俳優全部の知識がありました。知識があると会話は何となく通じるもの。この仕事が一人歩きし始めたのです。
でも、字幕はさせてもらえない。映画会社は社運を懸けて何百万円も払って映画を買うのですから、やはり頼んで安心な翻訳者を選び、素人の練習台にはさせてくれない。
字幕が出来ないままに通訳として動き出してしまいました。
当時は「地獄の黙示録」というベトナム戦争を扱った大変な話題作を撮影中で、アメリカから日本を中継してフィリピンにロケに行く。日本に立ち寄るといつも私がガイド兼通訳のようなことを頼まれ、可愛がっていただきました。
1979年に完成した「地獄の黙示録」は衝撃的な映画で、CGなどに頼らず人間の手で作った最後の大スペクタクル映画です。
出来上がるまでに2年以上を要した大作でしたが、コッポラ監督は私が字幕をやりたいという事を知っていたので、私は知りませんでしたが、「彼女にやらせて」とひとこと映画会社に言って下さっていたのです。それで、ほとんど素人だった私にその大作が回ってきたのです。(「”鶴の一声”だったわけですね」と関口宏。)
(この映画は、難解で、監督も最後のまとめで苦労したようだが、戸田も十分に理解できていなかったという。)
字幕でブレイクするのには年月がかかりましたが、仕事は忙しくなりました。
一本に一週間、お情けでせいぜい10日ほどしか時間をもらえない時も。しかも一人でやる。助手は使いたいけど使えない。なぜならばドラマが崩壊してしまうからです。
欧米では吹き替えが常識です。日本人はなぜ字幕を好むのか。外国への好奇心と憧れが強い。俳優の本当の声を聞きたいと思う。しかし、最近は若者の活字離れで、字幕より吹き替えが好まれる傾向が強くなっています。美しい日本語、日本文化を守るためにも、ぜひ立場ある人たちが若い人たちを指導していただきたいと願っています。
・・・
外国俳優で、「家族ぐるみの付き合いというのはリチャード・ギア」だという。
有名俳優と並んだ写真をスクラップ帳で紹介していたが、得意げなはしゃぎぶりは女子高生並みだった(笑)。
インタビュアの関口宏も、かつては多く映画を見ていたようだが、この十数年くらいはあまり見ていないような印象で、「英語が出来るからって、字幕ができるとは限らないんだ?」と素人っぽい質問を向けるものだから、待ってましたとばかりに、戸田奈津子も得意になって「英語力は必要だが、それは30%くらいで、日本語力が70%だ」などと語っていた。
日本語の表現力・知識がなければ、いい字幕は生まれないことだけは確かなようだ。
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
「にほん映画村」に参加しています:
ついでにクリック・ポン♪。