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「名作に進路を取れ!」…映画とその他諸々のブログです。

映画「空気人形」(2009)

 
「空気人形」というタイトルだけでは、映画を見る気がおこらなかった。
 
しかし、日本アカデミー賞で、ベ・ドゥナ(1979年生まれ)が優秀女優賞に入り、最優秀は獲得しなかったが、印象に残るという評価をあちこちで目にして、ようやくきょう見た。ベ・ドゥナは、韓国女優。
 
「空気人形」は、まったくベ・ドゥナの映画。この女優については、まったく知らなかったが、1999年に日本映画「リング」のリメイク版「リング」で、貞子役を演じて、映画デビューしている。シリアスな作品からコメディーまでこなす実力派・個性派ということで、日本映画では「リンダ・リンダ・リンダ」(未見)にも出演している。有望女優の一人のようだ。
 
映画は電車の車内(遅い時間で乗客は少ない。)で、窓にもたれて座る疲れ切った中年の姿を延々と映して始まる。
 
何やら、映画全体のムードが、暗く重苦しい雰囲気。その男は、しかし、アパートに帰る時には「今帰ったよ!」と元気な声で、部屋に入る。 そして、食卓に座り、奥さん(らしき女性)と向き合って座り、「今日は、風呂はやめとこうか」など、どこにでもある平凡な家庭の一シーンだ・・・・・。
 
そこの食卓に座っているのが、人間ではなく「人形」であるということを除けば・・・笑。
 
この映画は、見方によっては、好みが分かれることになる映画かもしれない。
 
「人形」といっても、5,980円くらいの、空気を膨らまして、等身大の女性になる、疑似人間、俗にいう”○○○ワイフ”といわれるものだ。男にとっては、性的処理のはけぐちのための”空気人形”だった。(その部分を模したプラスチックを水道蛇口で何回も洗浄するシーンが出てきて、なんとも哀しい?笑)そんな人形が、ある日“心”を持ってしまうというストーリー。
 
心を持ってからは、主が昼間仕事中は、家にある洋服(おもにメイド服)を着て、嬉々として、外に飛び出して、様々な生きた人間を見るが、これらの人たちがいろいろ問題を抱えている人たち。そんな中、ビデオのレンタルショップで店員と目があって、そこで働くようになる空気人形。ある時、何かの拍子で、空気の元栓が外れて、人形がしぼみかけてしまう。水泳の浮き輪の空気が抜けたようにしぼんでしまうのである。
 
そこに、店員が口で、空気を吹き込むが、そのあたりはすこし、なまめかしい官能?がある。人形の何かを感じる変化も・・・。
 
店員は、アルバイトが人形と知っても驚くことはなく、「自分も同じだ」とつぶやく。人形は、同類がいることに驚くが、所詮人間でも、人形なみか、人形以下の状況の人が多いというのか・・・。
 
レンタルショップには、いろいろな客が来て、「おすすめ」を店員に聞いてきたりする。
 
DVDで”警察もの”の派手なやつはない?・・・だったり。
「XXが主演で、○○の内容は、なんというタイトルだっけ・・・。といった具合。
 
(それだったら、guchさんか、たんたんさんか、fpdにでも聞いてくれ・・・と言いたくなる。爆)
 
アルバイトの人形さんには応えられるはずもなく、店長が、素早く「あれは、XXXで、それは○○で・・」と的確にぽんぽん出てくる。(タランティーノ監督もビデオ・レンタルで昔バイトをしていたということで、日本映画も、やくざモノなどを見まくっていたので、「キル・ビル」のラストに、梶芽衣子の歌:修羅雪姫、がでてきても当然なわけだ。笑)
 
この店長が、独り言で「仁義なき戦い」はよかったというシーンがある。
あの、メインタイトルの曲を口ずさむのである。「タンタン、タンタン、タンタン、タンタン、タンタン、タンタン、ッタータタタ、タンタン、タンタン、タンタン、タンタン、タンタン、タンタン、ッターーッタッタタ、タンタナタンタン~」(というんですが・・・。)(※1)
 
アルバイトの人形さんは、とにかく一生懸命、映画のタイトルをメモしておぼえる。
 
そして、なにげなく、口をついてでてくるのは「タンタン、タンタン、タンタン、タンタン、タンタンタン、ッタタターーン、タタタンタンタンタン~」なのである(爆)。「仁義なき戦い」の大ファンとしては、にんまり!
 
脱線しました。
 
ベ・ドゥナの動きは、ちょこまかして、いかにもロボットぽく、言葉も、たどたどしい日本語。愛らしさもある。見るもの聞くものがすべて新しいわけで、日本人が人形を演じるのでなく、韓国人、それも芸達者なベ・ドゥナが演じたからこそ、生きてきた映画といえるかもしれない。ベ・ドゥナの表情も、人形に似ていて、人形が人間に代わってもすんなり受け入れられてしまうところが、すごい。
 
この映画では、いろいろな人間が、まるで人形のように「代用品」の生き方をしているのではないかと思っている人が多く登場する。背景となる街も下町で、セピア調のカラーが「3丁目の夕日」のよう。庶民の生活の断面も見せる。人形が、人間の世界の言葉、生活に不慣れで、最初は、言葉なども物まねで覚えていく、いじらしさ。
 
監督は、「誰も知らない」是枝裕和。「歩いても 歩いても」に続く作品。
 
人間のはかなさ、切なさにあふれた小品というところか。
 
☆☆☆
 
※1:「仁義なき戦い」のメロディはこちら:出だしの派手なところではなく、「タンタンタンタンタン~」は最後のところ(サビ)の部分。