fpdの映画スクラップ貼

「名作に進路を取れ!」…映画とその他諸々のブログです。

映画「PASSION」(2008)を見る。濱口竜介監督(「ドライブ・マイ・カー」)作品。

f:id:fpd:20220410100034j:plain

PASSION」(2008)を見る。「ドライブ・マイ・カー」で賞レースを席巻した映画作家濱口竜介東京藝術大学大学院の終了作品として2008年に監督した作品。濱口が世界に発見されるきっかけとなった初期代表作。第56回サン・セバスチャン国際映画祭、第9回東京フィルメックスへ出品された。

出演は、河井青葉、占部房子、渋川清彦など、後の「偶然と想像」で常連となる役者や岡部尚、岡本竜汰など。男女5人の揺れ動く一夜を描いた群像劇。

渋川清彦は、群馬県渋川市の出身で「渋川」となったが、先日の「高崎映画祭」で、地元ラジオ放送局の女子アナとともに司会を担当していた。

渋川が、アカデミー賞授賞式のためアメリカ・ロサンゼルスにいる濱口監督とオンラインで会話している時に「濱ちゃん、眠そうだね(現地時間、夜中の2時)」などと気軽に話していたのは、監督の初期の作品から関わっていたのでツーカーの間柄だというのがよくわかった(笑)。

・・・
東京藝術大学大学院映像研究科作品(2008)。監督・脚本:濱口竜介/撮影:湯澤祐一/照明:佐々木靖之/録音:草刈悠子/編集:山本良子
・・・

f:id:fpd:20220410205333j:plain

中学校の数学の教師をしている果歩(河合青葉)は29歳の誕生パーティの際に友人たちと久しぶりに再会する。果歩はパーティの席で、婚約している智也(岡本竜汰)との結婚を伝えるつもりでいた。

f:id:fpd:20220410100241j:plain

  タクシーでパーティに向かう果歩と智也。

誕生パーティに参加したのは、果歩、智也のほか、唯一既婚者のタケシ(渋川清彦)、健一郎(岡部尚)、貴子(占部房子)の計5人。

パーティの席で、些細な会話から智也が果歩の友人の貴子(占部房子)と一時付き合っていたことが判明する。

貴子は、現在は健一郎と付き合っている。パーティの後に男どもは貴子の家になだれ込むことになった。智也が、あるゲームを提案する。質問者の質問に対して、本心を偽らず本音で答えるというものだ。これを契機にそれぞれが秘めていた心の本音が暴露されることになるのだが・・・。

f:id:fpd:20220410100914j:plain タケシ

・・・

卒業映画ということで、低予算で製作されたと思われる。映画の導入部などは、登場人物の顔のアップばかりが目立つ会話劇が中心になっている映画で、俳優も素人ぽさが目立ちイタイ演技に思えたが、後半は、本音を相手にぶつけるシーンで、かなりスリリングだった。

f:id:fpd:20220410101002j:plain 貴子

教師の果歩が、教室で、一人の生徒が自殺したことから「暴力」について言及し、延々と語り、生徒たちの反発意見などの葛藤は見所だった。ある生徒が顔面に傷があり、その生徒の後ろに座っている生徒が殴ったという。

果歩が、その生徒に対してこれまでに一度でも暴力をふるった人は起立してくださいというと、女子生徒を含めてほぼ全員が立ち上がった。

果歩は「暴力に対しては、暴力で返してはいけない」と説くが、生徒は「正当防衛もありうる」と反論。「それでも我慢するしかない」と果歩。このあたりは、ガンジーの暴力否定を表わしているのか分からないが、生徒たちの意見が優勢で、果歩は、その場を立ち去ってしまう。

「真実(まこと)」といったテーマも語られるが、強烈だったのは、智也が、果歩とともに果歩の母親と面会するシーンだ。その母親が、智也に対して「まず何か言いたいことがあるでしょう」と切り出すと、智也は「果歩さんと結婚させてください」という。

すると、母親は「やめたほうがいいと思います」というのだ(←強烈パンチ)。

「なぜですか?」と聞き返すと「あなたには誠(真実)がないからです」と更にガツン。「会うのは今回二度目ですが」と食い下がる智也に「一度会っただけでわかります。誠実ではない。空っぽな人です」と追い打ちをかける。

このことがあったからか、智也は、友人たちに同じペットボトルの水をそれぞれに飲ませ、”真実の泉”だと講釈をして「本音で話そう」ゲームを提案したのか。

智也は「オレという人間をどう思うか」とタケシに問いかけると「お前は、にやけて人を見下し、誠実さがない」ときっぱり。さらに「自分を常に安全地帯において卑怯だし、周りから見ると面倒くさい人間だ」と続ける。このあたりの火花パチパチは面白い。

智也自身は、確かに煮え切らない人物で、いらいらさせる性格。結果的に「好きな人ができた」と果歩に別れを告げる。果歩も、健一郎と一緒の時が自分らしくいられ、智也から別れを告げられたときは、むしろ良かったと思った。

f:id:fpd:20220410100728j:plain

f:id:fpd:20220410100611j:plain

果歩が、健一郎と工場の煙突の煙がもうもうと立ち込める場所の付近を歩いていた時に、健一郎から「果歩の好きなところ」は「目、髪、ちょっと変わっている鼻と耳…」など顔の様々なパーツの名前が挙げられていた。

f:id:fpd:20220410100645j:plain

果歩が同じ質問を智也に聞くと「嘘っぽく聞こえるかもしれないけど、目、髪、ちょっと変わっている耳と鼻…」と同じ答えが帰ってきたのに苦笑いする果歩。

登場人物の意中の人の矢印が全てずれているという現実のもどかしさ、おかしさ。全体に「偶然と想像」のタクシーの中の会話のように、会話劇のリアリティが印象的な映画だった。

濱口作品をこの数ヶ月で4本見た。

「PASSION」(2008)

寝ても覚めても」(2018)

「ドライブ・マイ・カー」(2021)

「偶然と想像」(2021)

※脚本参加「スパイの妻」(黒沢清監督)

たっふぃーさんのオススメ映画で、たっふぃーさんからDVDが届いた。

今後の作品に目が離せない監督だ。

 

■「にほんブログ村」にポチッとお願いします。

https://movie.blogmura.com/ranking/in    https://movie.blogmura.com/moviereview/ranking/in