「シネマ・オブ・スリープ」(原題:CINEMA OF SLEEP、2021、カナダ)を見る。SKIPシティ国際Dシネマ映画祭の国際コンペ10作品の1本。タイトルは「スリープ(眠り)から始まる物語」で、決して眠くなるような映画ということではない(と思う。笑)。
巧妙な仕掛けを堪能できるヒッチコックの「サイコ」風サスペンスドラマ。古き良き時代のアメリカ映画への憧れやオマージュが描かれる。監督の「サイコ」「カサブランカ」「マルタの鷹」「望郷」やチャップリン映画などへのリスペクトが強く感じられる。
・・・
アフリカのナイジェリアからアメリカにやってきた男アンソニーは、モーテルで目を覚ますと、手が血まみれになっていた。ベッドの隣には女の死体。驚いて気が動転するアンソニー。全く同じ人物による映像が小さな映画館のスクリーンであった。
観客の一人として、スクリーンを眺めている男がアンソニー。二人の刑事がやってきて、男に手錠をかけた。男は、周りの観客に「起きろ!」と声をかけるが、観客はすべて座椅子にぐったりと眠っている。
場面は変わって、男が目覚める。夢だったのか。男の手は震えている。夢ではない。ベッドにぐったりした女がいる。状況がつかめずオロオロする男。スマホが2台あった。
ナイジェリアにいる妻オモニに電話をかける。妻によると、家に売春婦がいてトラブルになっているといい、弟ジョンや子供のケミもどうしたらいいか分からず困っているという。
アンソニーは、家の避難場所を教える。モーテルの外で、警察のパトカーの明かりが見える。ドアをノックする音が聞こえた。アンソニーは、ベッドの下の横板を取り外し、女をベッドの下に引っ張り込んで隠す。スマホの一つもベッドのシーツの中に隠した。
「夜中に失礼」といいながら、2人の刑事が入ってきた。夢の中で映画を見ていたときにいたスミスとジョーンズと名乗る刑事だった。「アメリカに来た目的は? 女を見なかったか」と女の写真をみせアンソニーに問いかける。そして、様々な”状況証拠”によって、アンソニーは追い込まれていくのだが・・・。
・・・
映画は、いきなり「サイコ」の不安を煽るような音楽で始まる。息もつかせぬ導入部には引き込まれる。映画の画面は、昔ながらのスタンダードサイズ(4:3)。横長のスクリーンを見慣れていると、まるで、真四角に見える。
なぜか冒頭で、チャップリン映画のワンシーン(チャップリンが大勢の乗客に混じって船でニューヨークに向かうシーン)がある。かつては自由な国アメリカは夢の国に映ったのだろう。
主人公アンソニーも、生まれた国ナイジェリアでも、ナイジェリア映画があって「ノリウッド」と呼ばれているというが、やはり映画といえばハリウッド映画。
アンソニーが知り合った女に「カサブランカ」の映画について「あれは、欧州からの難民の映画だ」と説明していた。女は東アフリカのエリトリアという国の出身で「エリトリア映画は、戦争映画ばかり。ナイジェリアの映画はロマンチックな映画があって羨ましい」といったセリフもある。
「映画の世界に逃避すると、悩みなんて吹っ飛ぶ」という会話。そういえば学生の頃など、現実逃避で映画館に通ったということも否定できない(笑)。ただ、この映画では、一時夢の世界にとどまっても、厳しい現実に引き戻されるという会話も続く。
アンソニーは「マルタの鷹」のサム・スペードのハンフリー・ボガートの大ファン。そんな映画にまつわる小ネタは映画ファンには面白い。
小さな伏線が徐々に回収されていき、全貌が明らかになっていく。女は実際に存在したのか、実は夢の中だったのか、などは、ある意味では「フライトプラン」的でもある。
■監督:ジェフリー・セント・ジュールズ
■出演:デイヨ・エイド、ゲテネシュ・ベルへ、ジョナス・チャーニック、オルニケ・アデリイ、デイヴィッド・ローレンス・ブラウン、リック・ドブラン、ジョン・B・ロウ
■製作年/制作国:2021年 / カナダ / 105分