映画「ヒッチコック」(2013)は、サスペンスの帝王アルフレッド・ヒッチコックとその妻で編集者・脚本家のアルマ・レビルの関係性を描きながら、傑作サスペンス「サイコ」(1960)の成功の裏に隠された知られざる物語を描く伝記ドラマである。
しかし、その斬新さゆえになかなか資金も集まらず、数々の困難に直面。その過程で最大の理解者のはずの妻との関係まで揺らぎ始めていく。ヒッチコックに扮するのは名優アンソニー・ホプキンス。妻のアルマ役にヘレン・ミレン。「サイコ」のシャワー・シーンで有名な女優ジャネット・リーをスカーレット・ヨハンソンが演じる。
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「北北西に進路を取れ」(1959)の完成プレミアで注目される中で、ヒッチコックは次回作「サイコ」の製作に取り掛かっていた。撮影に当たって、製作者、スタッフ、キャストを集めて右手を挙げて宣誓させる。「私は、口を閉ざして、映画の筋は決して洩らしません。友人、親戚、マスコミなどに」とヒッチコックの言葉を復唱させた。また、原作本を可能な限り買い集めて、その結末などを知らせないようにした。
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特にシャワーのシーンでは「音楽はいらない。”めまい”のようなロマンティック映画ではない」と声を上げるヒッチコック。完成した試写をドアの影から覗き見し、恐怖に声を上げる観客に満足するヒッチコック。ヒッチ爺さんは「のぞきが趣味ではないか」と思われる。「裏窓」もそうだし、「サイコ」のファーストシーンもそうだ。
「サイコ」の映画の中で、ノーマン・ベイツが壁穴から覗くシーンがあり、それを再現するためにヒッチコックが穴から覗いてみていると、アルマが壁にどうしてそんなに大きな穴を開けるのかとヒッチコックにたずねると「よく見えるようにだ」というのがおかしかった。
一般公開にも念を入れた宣伝方法をとる。
劇場主にも、途中入場を認めない。エンドロールの終了後、幕がしまってから30秒間は場内を暗くしておくことを徹底させた。
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「サイコ」製作当時のヒッチコックを取り巻く状況がさまざま描かれるところも興味深い。「めまい」を事情(妊娠)で降板したヴェラ・マイルズに対してヒッチコックは「グレース・ケリーのような大女優にしたかった」と語ったり、妻アルマが、共同脚本家と浮気をしているのではないかと疑ったり、シャワーのナイフのシーンで激怒したり・・・。当時、映倫ではトイレの撮影も許可していなかったこと、映倫を納得させるために嘘をついたことなど、面白い。
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30年間、陰でサスペンスの帝王を支えてきた自負があるところを見せた。
ヒッチコックが、主演女優に次々とブロンド女優を使い、アルマに対して浮気疑惑を抱いていることに対して「私は妻アルマよ。契約のブロンド女優とは違う」というのが、夫婦の力関係もあらわしている。アルマは、映画が失敗すれば家もプールも手放すことになるので、赤い水着を買ってプールで泳ぐところもすごい。
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映画の成功の後に、記者たちの質問に対してヒッチコックは
「観客の歓声は企画の段階で聞こえていた」と答えていた。
スカーレット・ヨハンソンは、初めて見たのは「ロスト・イン・トランスレーション」
(2003)で、ヨハンソン19歳の時だったが、現在まだ29歳という若さで、ハリウッドではトップスター女優の地位にあり、この「ヒッチコック」でも堂々とした演技を見せている。当初は、あまり好みの女優ではなかったが「マッチポイント」(2005)「私がクマにキレた理由」(2007)「それでも恋するバルセロナ」(2008)などで完全に見直した女優の一人だ。
映画の中で、配給会社のパラマウントは、MGMが「北北西に進路を取れ」で成功を収めていたので、「MGMのような作品を」とヒッチコックに求めていたのだが、「サイコ」がマザコン男が、女装して女を殺す映画と知り、出資に難色を示す。しかし、エージェントのすごいところは「社長、話は簡単です。これがヒッチコックの次回作です。乗りますか、辞めますか?(Are you IN or OUT?)」だった。
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「サイコ」 は、公開当時の日本における評価は低く、キネマ旬報ベスト10では、なんと35位だった。
というところで、ヒッチコック(アンソニー・ホプキンス)の肩にカラスが止まるシーンで終わる。次回作はもちろん「鳥」(The Birds、1963)である。
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