チャールズ・チャップリンの半生を描いた伝記ドラマ「チャーリー」(原題:Chaplin, 1992)を見た。チャップリンの名作である「キッド」「黄金狂時代」「街の灯」「モダン・タイムス」「独裁者」などの製作の舞台裏や、20世紀初頭のハリウッドスターが実名で登場するなど見ごたえがあった。すばらしいx100の映画だ。
サイレント映画の時代から赤狩りでハリウッドを追われるまで世界の喜劇王として活躍したチャップリン。アメリカを追放されて20年も経ってから、ハリウッドに招かれ、アカデミー賞で名誉賞を受賞するために会場の舞台裏で待つチャップリンの万感の想いを秘めた表情には泣かされた。
チャップリンを演じたロバート・ダウニー・ジュニアが素晴らしい。当時27歳で、若い時から晩年までを演じているが、同じ人物かと疑うほどのソックリぶりで味わい深い演技を見せている。この映画で、ダウニー・ジュニアは、英国アカデミー賞主演男優賞を受賞。またアカデミー主演男優賞の候補となった。
アッテンボローの製作会社に所属するダイアナ・ホーキンスの原案。
チャップリン自身の手による「チャップリン自伝」(新潮社・刊)と、この作品の歴史顧問も務めるデイヴィッド・ロビンソンの、徹底した調査に基づいて全生涯を再現したドキュメント「チャールズ・チャップリン」(文藝春秋・刊)を原作に、小説家でもあるウィリアム・ボイドと、ブランアン・フォーブス、「ミザリー」のウィリアム・ゴールドマンが共同で脚本を執筆。撮影は「存在の耐えられない軽さ」のスヴェン・ニクヴィスト。音楽は「ダンス・ウィズ・ウルブズ」のジョン・バリーが担当。
主演は「エア・アメリカ」のロバート・ダウニー・ジュニア。
ほかに「スニーカーズ」のダン・エイクロイド、「冬の恋人たち」のモイラー・ケリー、「ワンダとダイヤと優しい奴ら」のケヴィン・クライン、「ストリート・オブ・ファイヤー」のダイアン・レイン、のちに「バイオハザード」シリーズで有名になるミラ・ジョボビッチ、晩年のチャップリンにインタビューする架空の人物としてのインタビュアでアンソニー・ホプキンスらが共演。晩年のチャップリンにこれまで語られることのなかった疑問点をインタビュアが聞いていくという展開で進められる。
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ロンドンの芝居小屋の舞台を見つめる少年、チャーリー。
歌を歌っている最中に突然ハンナが体調をくずす。観客からは「音痴は、退場しろ」と野次が飛ぶ。即、クビを言い渡され、それ以降は二度と歌うことはなかった。その時、母の代わりに舞台に飛び出した少年(チャップリン)の見様見真似の芸に観客は熱狂した。
ハンナの発狂により、チャーリーと母と兄シドニーの、貧しくともささやかな幸福に満ちた生活は終わりを告げた。チャーリー(ロバート・ダウニー・ジュニア)は兄の勧めで名門カルノー一座に入り、看板俳優にのし上がった。
しかし、ヘティが結婚下という知らせや母の病気などで私生活は順調とは言えなかった。それでも親友のダグこと、ダグラス・フェアバンクス(ケヴィン・クライン)、エドナ・パーヴァンス(ペネロープ・アン・ミラー)など良い仲間に囲まれたチャーリーは、次々と傑作を撮り続けた。
ロンドンへの凱旋の途中ヘティの死を知ったチャーリーは、故郷への想いを断ち切った。アメリカに戻った彼は、サイレントからトーキーへの移行、世界恐慌などを前に次々と映画を撮り続け、リタ・グレイ、ポーレット・ゴダート(ダイアン・レイン)とのロマンスが世間を騒がせた。
忍びよるファシズムの影に怒りを感じたチャーリーは「独裁者」を発表し、FBIから政治的危険人物としてマークされてしまう。ようやく最愛の女性ウーナ・オニール(モイラ・ケリーがヘティと2役)と出会ったチャップリンだったが、父親認知裁判のスキャンダルに巻き込まれ、やがて吹き荒れる赤狩りの嵐の中、チャーリーは家族と共にアメリカを去り、政府は彼らの再入国を禁じた…。
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チャップリンの半生が凝縮されて詰まっていているのが興味深い。
「街の灯」の盲目の少女が、浮浪者を金持ちと誤解するアイディアのひらめきや、「黄金狂時代」のエピソードの誕生や、1929年の大恐慌により失業者が大量に生まれたことから誕生した「モダン・タイムス」や、ヒトラーの演説のニュースフィルムを見て、ヒトラーのものまねをして「独裁者」でヒトラー、ナチスを糾弾する映画を製作するなど、映画ファンをワクワクさせる。
タイトルだけは知っていた「チャーリー」を見るまでに四半世紀も費やしてしまった!(笑)。それにしても、チャップリンが出会った女性たちはみな魅力的で、美貌の持ち主だった。なかでも25歳で生涯を閉じたヘティ・ケリーを演じたモイラ・ケリーは、これまでに見た女優の中では、トップ3に入るほどチャーミングだった(笑)。デヴィッド・リンチ監督の「ツインピークス/ローラ・パーマー最期の7日間」(たしか見ている)に出演しているので再見もいいかも。
あくまでもサイレントにこだわったチャップリン。
しかし、映画界は、トーキーの時代へ。トーキーの時代に「音の出ない映画をだれが見るか」という助言に「英語がわからない日本人やロシア人が見る」というのには笑ってしまう。
映画の中で、ヒトラーのちょび髭はチャップリンを真似たものでは、という話があったが、実際は、労働者党の初期の幹部の一人ゴットフリート・フェーダーからまねたもの。奇しくもこの特徴は、後に映画「独裁者」で揶揄されることになった。
☆☆☆☆(文句なし!)
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