「長いお別れ」(2019)を見る。監督は「湯を沸かすほどの熱い愛」の中野量太。原作は中島京子による実体験をベースにした同名小説の映画化。
レイモンド・チャンドラーのハードボイルド小説「ロング・グッドバイ」と同名タイトルだが別物。認知症の厳しい現実を突きつけられる映画。
昨年9月27日に亡くなった竹内結子が出演しているが、この映画のあと翌年公開の「コンフィデンスマンJP プリンセス編」(2020)が遺作になるとは、今も信じられない。
認知症を患う父親とその家族の姿を描く。出演は、蒼井優と竹内結子が姉妹、松原智恵子と山﨑努が両親を演じている。ほかに北村有起哉、中村倫也ほか。
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2007年、父・東昇平(山崎努)の70歳の誕生日で久々に帰省した長女の麻里(竹内結子)と次女の芙美(蒼井優)は、中学校校長も務めた厳格な父が認知症になったことを知る。
2009年、芙美はワゴン車でランチ販売をしていたが、売り上げは伸びなかった。麻里は夏休みを利用し、息子の崇と一緒に実家へ戻ってくる。昇平の認知症は進行していて「帰る」と言って家を出る頻度が高くなっていた。
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認知症というのが家族に対しても認識がなくなったり、やや誇張して描かれているのかとも最初は思ったが、現状はこの映画のようであるらしい。主人公の設定が2007年で70歳で認知症を発症ということで、「そのなに若く?」と思ったが、若年性アルツハイマーというのもある。
ジュリアン・ムーアの「アリスのままで」(2014)では、主人公がアルツハイマーと診断されるのは50代前半くらいだった。
スーパーに一緒に買い物に行ったときに、無意識にモノをポケットにしまい店員から万引きを咎められる事態も。認知症の父を取り巻く家族たちもそれぞれ悩み、課題を抱えている姿が描かれる。
麻里の悩みは崇の不登校。夫・今村新(北村有起哉)と息子・崇(たかし)とともにアメリカ西海岸で暮らしているが、不登校が発覚。両親が学校に呼びだされるが「不登校の原因の多くは、両親の不仲が原因だが、お宅はどうか」とストレートに聞かれる。
新は「問題ない」と英語で答えるが、英語を理解しない麻里は、完璧に通訳するように夫に求める。担任教師の言葉通りに麻里に伝えると、麻里は頭を抱える。「十分に話し合い、コミュニケーションが行われていない」と。
また、別の日に、息子が単独で、校長から呼びだされる。その時に、崇は校長から、自分のことを何でもいいから話すように言われる。その時に、祖父・昇平が認知症で亡くなったことなどを話す。校長は、認知症というのは、徐々に記憶が薄れていくと説明し、その期間のことを”長いお別れ”(Long Goodbye)というと説明がある。
次女の芙美は、仕事も恋愛もうまくいかないこと。教師だった父親は、教師になることを期待していたはずで、今はキッチンカーを始めたが必ずしもうまくいっておらず負い目を感じている。そんな時、父が「いい仕事だ」という言葉で救われる。長女はアメリカ、次女の自分が、母から呼びだされてすぐに駆けつけ、世話をしなければならない。
芙美は、下(シモ)の世話も自分がやると宣言する。洗面所で、漏らしたような父に「ズボンを下げるね」というと、父は、手を払うが「生娘じゃないんだから」とズボンを下げると、お尻には汚物が・・・(俳優も大変だ!)。
不登校となっている崇とのインターネットを通じてのコミュニケーションで、崇から見ればおじいさんの昇平は、難しい漢字を読めることで尊敬の念があり「漢字マスター」。言葉は通じないが、右手で「ハイ」というしぐさを見せると、ベッドの上で昇平は微笑むのだ。
いろいろと考えさせられる作品だ。お気に入り女優No.1だった竹内結子とは新作を見ることができず「永遠のお別れ」(泣)。