「ハイヒールを履いた女」(原題: I, ANNA, 2012、劇場未公開)を見た。
イギリス、ドイツ、フランス合作。1時間33分。
ある殺人事件の鍵を握る謎の女と、彼女に惹かれていく刑事のサスペンスミステリー映画。「さざなみ」のシャーロット・ランプリングと「ユージュアル・サスペクツ」「仮面の男」のガブリエル・バーン共演。
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夫と離婚したアンナは、一人娘に勧められて「お見合いパーティ」に参加する。
そこでジョージという男性と意気投合して彼のマンションで一夜を過ごすが、ジョージは翌朝死体となって発見される。ジョージを殺害したのはアンナなのか。彼女に心惹かれる刑事のバーニーは密かに尾行を開始するが…。
監督・脚本を担当したバーナビー・サウスコームはシャーロット・ランプリングの実の息子。本作が監督デビュー作。
監督:バーナビー・サウスコーム
出演:シャーロット・ランプリング(アンナ・ウェルズ)、ガブリエル・バーン(バーニー・リード)、エディ・マーサン(ケヴィン・フランクス)、ラルフ・ブラウン(ジョージ・ストーン)、マックス・ディーコン(スティーヴィー・ストーン)、ほか。
映画のオープニング・シーンでクレジット(出演者)が出たあとに、映画タイトルの
「I, ANNA」と出るが、2つ目の「N」がくるりと向きを変え、後ろから見たような文字になる。これは主人公の「アンナ」がどこか”ヘン”ということを暗示したものか。
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ロンドンの街中。公衆電話ボックスに入ったアンナ・ウェルズ(シャーロット・ランプリング)が、元夫のサイモンに電話をかけている。彼女は娘のエミーと孫のキアラも一緒に会いましょうと提案するが、サイモンの返事は芳しくなかった。気落ちした表情で受話器を置くアンナ。
場面は代わり、アンナが1人でお見合いパーティの会場に来ていた。
「アレグラ」という名札を胸につけたアンナは、ジョージ・ストーンと名乗る男性に声をかけられる。2人の会話は弾み、アンナはジョージの自宅マンションへついて行く。しかし翌日、頭部を強打されたジョージが部屋で死亡しているのを隣人が発見。
通報を受けた刑事のバーニー・リードが現場に駆けつける。
バーニーはそこでアンナとすれ違う。アンナはエレベーターに忘れた傘を取りに来ていたのだった。一言二言、言葉を交わしただけでアンナに惹かれたバーニーは、電話ボックスから誰かに電話を掛けているアンナの姿を遠くから見つめる。アンナの履いている靴は赤かった。
アンナは帰宅するが、なぜか腕に激痛が走る。理由は思い出せない。
警察がジョージ殺害の容疑者を捜す中、バーニーはアンナの車のナンバーから彼女の身元を調べる。
警察はジョージの元妻ジャネットを訪ねる。
一方、バーニーも独自にアンナを尾行し始める。
尾行の間も、頻繁にアンナは電話ボックスから誰かに電話している。
デパートの寝具売り場で働いているアンナ。仕事中、彼女の脳裏に血まみれで横たわるジョージの姿がフラッシュバックする。
帰宅すると、一緒に暮らしている娘のエミーが孫のキアラをベビーカーに乗せて帰ってきた。エミーはお見合いパーティはどうだった?とアンナに尋ねるが、アンナは失敗したわと答える。
アンナを尾行するバーニーは、アンナが出向いたお見合いパーティに参加者のふりをして紛れ込む。ダンスをして語り合った2人。アンナの目に、バーニーとジョージの姿が重なって見える。
警察ではバーニーの同僚フランクスがジャネットとスティーヴィーを尋問するが、2人は事件への関与を完全否定。アンナと夕食を共にしたバーニーは、実はお見合いパーティの前にも君と会っているよと打ち明けるが、アンナは全く覚えていない。
バーニーの単独行動に不信感を抱いたフランクスたちは、アンナの経歴を調べる。アンナが事件に関係していると確信したバーニーは、アンナの家を訪れる。アンナはうろたえて泣き出し、全てを思い出す。
あの夜、ジョージに乱暴に襲いかかられたアンナは、部屋にあった美術品で彼を殴り殺していたのだった。
アンナの部屋を見渡したバーニーは、全てを理解する。
エミーやキアナと暮らしているというのはアンナの妄想だった。
アンナのエミーあての電話は、全て自分の留守電に掛けられていたのだ。
バーニーはジョージのマンションへアンナを連れて行く。ジョージを殺害した部屋に
1人足を踏み入れたアンナは、そこで過去の自分の姿を見る。
サイモンとの離婚のショックで、子守をしていたキアナからうっかり目を離してしまったアンナ。それが原因でキアナは交通事故死を遂げ、以来エミーとも離れてしまっていたのだった。
そんな哀しい過去を思い出したアンナは、そのままジョージの部屋の窓から飛び降りようとする。しかしそこへ飛び込んだバーニーがアンナの腕をつかみ、なんとか思い留まらせる。アンナはバーニーの胸に顔を埋め、大声で泣き出すのだった。
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ストーリーの前後が錯綜して、時系列通りに進まなかったり、現実と妄想や回想が入り混じったりで、やや混乱するが、点と点がやがて線になって結びついていく。サスペンス・ミステリーの常套手段。
孤独によって一人の女性が精神的にも破壊されていく姿を描いている。
ラストシーンでのランプリングの演技が見所。
この映画の当時、シャーロット・ランプリングは60代の後半だが、170センチとスタイルが良く、見合いパーティに参加しても男を惹きつける魅力を持つ。
タイトルとシャーロット・ランプリングの主演ということで見たが、映画館で見るには、やや不満といった映画かも知れない。
★★