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「名作に進路を取れ!」…映画とその他諸々のブログです。

映画「現金<げんなま>に手を出すな」(1954)ジャン・ギャバン主演のフイルム・ノワールの傑作。

 
 
グリスビーのブルース”のテーマの曲でも知られるフランスのフイルム・ノワールの金字塔ともいうべき古典的名作「現金<げんなま>に手を出すな」(原題:Touchez pas au Grisbi、1954)をみた。かつてテレビの洋画劇場で見ているはずだが、この映画のジャン・ギャバンの中年のそろそろ枯れていく年代の渋さなどわからなかったかもしれない。
 
原題にある、”Grisbi”という言葉はフランスの俗語で「(せしめた)カネ、獲物、お宝」といったニュアンスを持つ。邦題をつけるにあたって敢えて「現金」という訳と「げんなま」という日本的俗語のルビを当てたのは名コピーと言われる。
 
ジャン・ギャバンにとっては、戦後の出演作品の代表作となるとともに、その後のギャングの親分といった役の元祖となる作品でもある。
 
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パリの裏町にマックス(ジャン・ギャバン)とリトン(ルネ・ダリー)の、仲のよい遊び人が住んでいた。二人はオルリー飛行場に運びこまれる五千万フランの金塊に目をつけその強奪に成功した。
 
そしてほとぼりのさめるまで隠しておき、いずれ現金にかえるつもりだった。
ところが、リトンがある日ナイトクラブの女ジョジィ(ジャンヌ・モロー)にうっかり金塊のことを口走ってしまったのだ。ジョジィは麻薬密売のボス、アンジェロ(リノ・ボリニ:リノ・ヴァンチュラ)の情婦だったのでマックスとリトンが金塊強奪犯人であることが筒抜けになってしまった。
 
 
アンジェロは早速二人を捕えて金塊の隠し場所をつき止めようとしたが、マックスは逆にアンジェロの動向を探って彼の企みを知った。翌朝、マックスはリトンを足止めして臓品故買商の伯父を訪れ、金塊の処置をつけようとした。
 
その留守中、リトンはジョジィへ報復に行き、アンジェロ一味にひどい目にあわされて拉致された。マックスは必死になってリトンの行方を探すが判らない。
 
そこヘアンジェロから、五千万フランと引換えにリトンを渡すという電話がかかって来た。金か友情か迷った挙句、マックスはリトンを救う決心をした。マックスは金塊を車に積みこんで指定の場所に赴いた。
 
リトンと引換えに金塊を受けとったアンジェロはその場で二人を射殺しようとし、烈しい車上の射撃戦が始まった。そしてアンジェロの車は火を発して一命を失った。
 
金塊はふたたびマックスの手に戻ったが、相棒のリトンは重傷、警官隊は刻々迫って来る。金か友情か、またしても迷ったマックスだったが、結局友情からリトンを連れ、金塊を捨てて逃げのびた。しかし重傷のリトンはついに絶命してしまうのだった(MovieWalker)。
 
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最初から最後までジャン・ギャバンのクールさと親分肌の人間的な魅力にあふれた映画だった。子分格の若い兄ちゃんが借金で困っていれがば、店のツケなどもポンと肩代わりする気前の良さ。
 
会食しているときに、「好きな曲をかけていいか」といってジュークボックス(LPレコードが懐かしい!)でかける曲が、”グリスビーのブルース”。この曲が映画の中で、数回使われるが、効果的で、侘しいムードを高めている。
 
 
マックスの相棒のリトンとは腐れ縁で20年もつきあっているが、リトンがヘマな男で、どうしてこんな奴を仲間に引き入れてしまったのかと、独白で思うシーンなどは秀逸だ。
 
実際、リトンは女でも誰でも誘われれば夜遅くまで酒を飲んでしまうが、マックスが、いいところで切り上げろと忠告をしているのだ。マックス自身は、そろそろやくざ稼業から足を洗おうと思っていて「(夜)12時過ぎはこたえるぜ」と自分の歳などを気遣って無理をしない主義なのだ。
 
昔からリトンの奴はヘマばかりしている。親分気取りだから始末におえない。厄介者を拾ったもんだ。20年も、もうごめんだ。リトンの奴め」といった心のうちの言葉がでてくる。マックスはリトンを隠れ家ともいうべき別宅にかくまうのだが、リトンが「本宅よりすごい」というと「ケチな投資さ」というマックス。
 
高級酒を取り出してくるマックスが、「肴(さかな)は、ラスクで我慢しな」といって、ラスクにバターを塗って酒を飲むシーンなどは味わいがある。「歯ブラシはこれを使え。歯磨きはそこにある」と言われてリトンは鏡の前で、自分の首やあごのたるみを見て、なんとなく老いを感じるシーンなどもいい。
 
 
マックスが機関銃を使って、アンジェロ一味と戦う銃撃戦も見どころだった。
マックスも硬派一辺倒ではなく、情婦がいて、若い女とも関係を持ったりと、色(女)とカネには不自由しないという立場にあって、ゆとりと風格、自信にあふれている。
 
ラストシーンでは、仲間のリトンも金塊も失ってしまうが、情婦のローラ(ドラ・ドール)とレストランで酒を飲んでいるときに、わずかに笑みを見せていた。
 
リノ・ヴァンチュラはこの映画でデビュー。
ヴァンチュラに感銘を受けたギャバンは、そのまま演技を続けるように助言したという。フィルム・ノワールやギャング映画に多く出演し、1980年代まで活躍した。
 
代表作には「冒険者たち」「シシリアン」「ラムの大通り」などがある。ジャンヌ・モローは、当時26歳とピチピチギャル(死語)だった。
 
ジャン・ギャバンは、「地の果てを行く」「望郷」「大いなる幻影」などで戦前から活躍、一時アメリカにわたりフランスに帰国後「現金<げんなま>に手を出すな」(1954)に出演した時には50歳で、1950年代はギャバンにとっては円熟期にあって人気・実力を誇った時期でもあった。
 
  映像の一部
 
「現金<げんなま>に手を出すな」(原題:Touchez pas au Grisbi)
製作国:フランス、イタリア合作
製作年:1954年
原作:アルベール・シナモン
脚本:アルベール・シナモン、モーリス・グリフジャック・ベッケル
音楽:ジャン・ウィエネル (主題曲「グリスビーのブルース」)
撮影:ピエール・モンタゼル
出演:ジャン・ギャバン:マックス
   リノ・ヴァンチュラ:アンジェロ
   ルネ・ダリー:リトン
   ジャンヌ・モロー:ジョジィ
   ドラ・ドール:ローラ
   ポール・フランクール:ピエロ
日本公開:1955年3月6日
上映時間:96分、モノクロ
 
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