fpdの映画スクラップ貼

「名作に進路を取れ!」…映画とその他諸々のブログです。

映画「しとやかな獣(けだもの)」(1962)を見る。川島雄三監督、若尾文子主演。

f:id:fpd:20201029155447j:plain

しとやかな獣(けだもの)」(1962)を見た。団地の一室を舞台とした新藤兼人のオリジナル脚本を川島雄三が映像化。キネマ旬報ベストテンでは6位。

出演は、伊藤雄之助山岡久乃若尾文子、川畑愛光、浜田ゆう子、高松英郎船越英二山茶花究小沢昭一など。詐欺一家と、さらに上手をいく悪女を描く。若尾文子がしたたかな悪女を演じる。

f:id:fpd:20201029155526j:plain

・・・

アパートが立ち並ぶ郊外の団地、前田家はその四階の一角を占めている。

元海軍中佐の前田時造(伊藤雄之助)は狭い団地の一室で妻(山岡久乃)と暮らしている。戦後どん底の生活を経験した時造は自分の殻にとじこもり、子供たちを踊らせ、金を集めさせるあやつり師になっていた。

息子の実(川畑愛光)には芸能プロで100万円以上の使い込みをやらせ、娘の友子(浜田ゆう子)は小説家・吉沢(山茶花究)の二号である。その友子が別れ話をもって帰って来た。友子を追って現れた吉沢にまだ友子への未練があるとみると、極力恐縮したふりをする時造夫婦だった。

実(みのる)は会社の会計係・三谷幸枝(若尾文子)と関係があった。その幸枝が、念願の旅館が開業の運びになったからこの辺で別れたいと言うのである。子供を抱え夫に死なれた彼女にとって唯一の道は思いきり体を使って生きるほかなかった。

男の誘惑に巧みに乗り、大いに貢がせる。実(みのる)との取引は既に終っていると幸枝は言い放つのであった。芸能プロにも辞表を出した。恩を仇で返したと社長の香取(高松英郎)が怒っても、幸枝は香取の尻っぽを握っている。彼は幸枝のために使い込んだ金のことで税務署の神谷(船越英二)を抱き込んでいるのだ。

神谷に払われた金がそっくり幸枝に戻ってくるのは、ホテルへ行って愛情の代償として貰うものであるから関係ないとうそぶく幸枝の見事さに、さすがの時造一家も感嘆するばかりだった。

しかし幸枝にはまり込んでいた実は嫉妬に歯をくいしばるのだ。税金未納の責任で神谷がくびになったと聞いて、幸枝は一瞬驚いた。香取や実(みのる)は当然罪に問われるだろう。それでも私は傷つくことはない・・・。

幸枝はキッパリと実たちに絶縁の言葉を残して去って行った。前田家の団らんの中に神谷が幸枝を探しに来て空しく帰った。友子と実がステレオで踊り時造とよしのがビールを飲んでいる頃、アパートの屋上から神谷の体が落下して行った。やがて団地に救急車のサイレンが聞こえてくるのだった。

f:id:fpd:20201029155609j:plain

f:id:fpd:20201029155630j:plain

f:id:fpd:20201029155656j:plain

・・・

若尾文子の存在感が大きい。野心の実現のために、男たちを利用して金を巻き上げる悪女ぶりを見せる。戦後復興から高度成長期を迎えた日本で化かし合い騙し合って生き抜く人々の姿を描いている。

f:id:fpd:20201029155729j:plain

幸枝(若尾文子)のセリフ「バンドラの箱の鍵はかけてきた。証拠がない事実なんて空気のようなものよ。見えやしないわ」とうそぶくしたたかさ。

時造(伊藤雄之助)が、家族全員の前で「バラックで雑炊ばかり食っていた生活は、犬や猫だって逃げ出すほどの生活で人間の生活じゃない」と語ると、家族の表情は固まって、画面が静止する。

時造のことばで「ニコヨン」(日雇い労働者)までやった、という言葉があったが、終戦後の混乱の背景をさり気なく語っている。カメラが、足元から見上げるように人物を捉えたり、真上から捉えたり、右往左往するさまを足元だけ映し出すシーンが印象的だ。

■キャスト:

三谷幸枝:若尾文子

神谷栄作:船越英二

前田友子:浜田ゆう子

香取一郎:高松英郎

前田実:川畑愛光

前田時造:伊藤雄之助

前田よしの:山岡久乃

ピノサク・パブリスタ:小沢昭一

吉沢駿太郎:山茶花究

マダムゆき:ミヤコ蝶々

 

■「若尾文子」関連記事:

fpd.hatenablog.com