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「名作に進路を取れ!」…映画とその他諸々のブログです。

映画「アースクエイクバード」(原題:Earthquake Bird、2019, Netflix)を見た。

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アースクエイクバード」(原題:Earthquake Bird、2019, Netflix)を見た。イギリス人作家スザンナ・ジョーンズの小説を原作にしたサスペンス。またまた日本語のタイトルが意味深だがわかりにくい。そういえば「バタフライエフェクト」なんていうのもあった。

監督はウォッシュ・ウエストモアランドで「アリスのままで」では監督・脚本を担当し主演のジュリアン・ムーアアカデミー賞主演女優賞。製作総指揮は「ブラックレイン」を監督したリドリー・スコット

舞台は1980年代後半の東京。ある日、日本に住むイギリス人女性リリーが行方不明となり、数日後に東京湾で死体となって発見された。彼女の友人であったルーシーに容疑がかけられるが、この2人は日本人カメラマン禎司(テイジ)をめぐって三角関係になっていた。原作者は日本に在住経験があり、日本のバブル期の1989年の新宿などを違和感なく切り取っている。

出演は「エクス・マキナ」「リリーのすべて」のスエーデン女優アリシア・ヴィキャンデルエルビス・ブレスリーの初孫で「マッドマックス 怒りのデス・ロード」のライリー・キーオ、「HiGH & LOW THE MOVIE 2/END OF SKY」の小林直己(旧芸名:NAOKI三代目 J SOUL BROTHERS)、佐久間良子など。

 

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日本で翻訳会社に勤めるルーシー(アリシア・ヴィキャンデル)は満員電車のつり革につかまり、何日間かの休暇の後出社した。会社の同僚から、ニュースを見たかと言われるが、知らないというと、新聞記事を見せられた。海で女性の死体が発見されたというニュースだったが、日本に来て間もないリリー(ライリー・キーオ)というルーシーの知り合い女性ではないかというのだった。

警察がやってきて、ルーシーは殺害の容疑をかけられて警察署に連行されてしまう。ルーシーは取り調べを受ける中で、それまでに起きたことの経緯について語り始めるのだった・・・。

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回想形式で物語が進む。

ルーシーはある日、歩いていると、一人の男に写真を撮られる。ルーシーは「私を撮ったでしょう。許可もなしに」と男に詰め寄ると、男は「許可を取る必要はない」と突っぱねる。男は禎司(小林直己EXILE、三代目 J SOUL BROTHERS)というそば屋で仕事をする写真が趣味の男で、そのミステリアスな雰囲気に惹かれ、禎司のスタジオを兼ねた自宅に通い、被写体となる日々を重ねる。そんなある日、ルーシーは友人から、日本にやって来たばかりだというリリーという女性を紹介された。

ルーシーとリリーの2人は共に過ごす中で友情関係を深めていくが、ある日リリーと禎司が出会ってしまい、意気投合してしまったことから3人の関係は少しずつ歪になっていく・・・。

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日本に住み、日本的な慣習に慣れて日本語を理解して生活している女性ルーシーと、日本の習慣も言葉もわからない観光できた女性リリーの異なる”日本感”の違いが面白い。また、取り調べの警察官などの、外国人は日本語を話さないというステレオタイプの先入観も出鼻をくじかれる描かれ方で興味深い。

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写真が趣味の男は、これまでにも多くの女性の写真を撮り続けてきたが、鍵のかかったキャビネットにファイリングしてあり、ルーシーが、あるファイルを見て驚愕する。普通の写真をアップでとったかと思うと、写真を見ているうちに、その被写体の人間が精神を病んで、死にゆく姿を撮しているような写真が収まっていた。

男が撮りたかったのは、死ぬ前にじたばたと暴れる人間がだんだん静かになり、動かなくなっていき、さらに死を迎える瞬間までを撮ろうという変態的な嗜好が垣間見えたのだ。

この静寂と平穏を「地震の鳥」(タイトルのEarthquake Bird)になぞらえている。男のアパートは、突然大きな地震に襲われる。地震のあとの静寂の中で、鳥のさえずるような鳴き声が聞こえるというのだ。地震の揺れが収まった後に、平穏の訪れを告げるかのように聞こえてくる鳥たちの鳴き声。

ルーシーが経験する幻覚のような描写と現実の描写がシームレスに描かれていくので、理解するのが難しいところも多い。ルーシーの感情の「揺れ」を描いているとも言える。幼小時のトラウマが影響しているようだ。8歳の時に身近な人が亡くなったのは自分に責任があると思い込み3年間、しゃべるのをやめたということがあった。環境を変えようと、11歳で日本語の勉強を始めた。その後も、階段から落ちて亡くなった習い事の師匠の山本さん(佐久間良子)など、自身の周りで何人もの人が亡くなる。しかし、それらはネガティブに考え過ぎた思いすごしであることが明らかになる。

ルーシーは、誰か自分に関わりのある人が死んだ際に、その直前に自分がその人にした事件とは何も関係のない行動が、その人の死を招いてしまったのではないかと考えてしまう思い込みがあった。

階段から落ちて亡くなった習い事の師匠の山本さん(佐久間良子)など5人の人が自分と関わって命を落としたとルーシーは警察で語っている。

ラストシーンでは、山本さんが命を落としてしまったのは、習い事の師匠の一人によると、自分がワックスで階段を磨いたのに、それを事前に報告しなかったと嘆く様が描かれている。ルーシーはそれを聞いて言葉を発することはなかったが感情を抑えつつも涙を拭い、目の前のその女性は、まさに自分自身を投影しているものと思ったのだ。殺意など全くなかったが、自分の行動が他人の「死」を生んでしまったのではないかという罪悪感だった。

自分のトラウマや不安、罪悪感は誰にも理解されないものだと思い込んできたのだが、自分と同じ罪悪感を背負って生きるその女性に出会えたことで、ルーシーは、その人を通じて自分を「赦そう」と思ったのかもしれない。

 

主な登場人物:

ルーシー・フライ:アリシア・ヴィキャンデル

…日本人の写真家と恋に落ちた外国人女性。 

リリー・ブリッジズ:ライリー・キーオ 

禎司(ていじ):小林直己三代目J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE)

ボブ:ジャック・ヒューストン

なつこ:祐真キキ

山本:佐久間良子

加藤:岩瀬晶子

小口:山村憲之介

亀山:室山和廣

ナイトクラブ歌手:クリスタル・ケイ

監督:ウォッシュ・ウェストモアランド 製作総指揮:リドリー・スコット