「ベケット」(原題: Beckett、2021)がNetflixで13日から配信開始されたので、さっそく見た。休暇で訪れたギリシャにて、悲劇的な事故に遭ったアメリカ人旅行者が、危険な政治的陰謀に巻き込まれ、命を狙われる逃走劇を描いたアクションスリラー。
「Born to Be Murdered」というタイトルで製作された映画の配給権をNetflixが2020年10月に獲得し、タイトルは「Beckett」に変更された。かつて「ベケット」(Becket、1964)という同名映画もあったが、原題のスペルも異なり、あちらはトマス・ベケット(リチャード・バートン)とヘンリー2世(ピ―タ―・オトゥール)を描いた伝記映画でまったくの別物。
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映画の監督、主演者などは後から知ったが無名というわけではなかった。イタリア人監督のフェルディナンド・チト・フィロマリノは、世界的巨匠ルキノ・ヴィスコンティの曾姪孫(そうてっそん=ヴィスコンティの兄弟のひ孫)で、「テネット」でセカンド監督を務めた人物。
出演は「テネット」のジョン・デヴィッド・ワシントン、「LOGAN/ローガン」のボイド・ホルブルック、「ファントム・スレッド」のヴィッキー・クリープス、「リリーのすべて」のアリシア・ヴィキャンデル。ジョン・デヴィッド・ワシントンの父はデンゼル・ワシントン。
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休暇でギリシャを訪れていたアメリカ人旅行者のベケット(ジョン・デヴィッド・ワシントン)とその恋人、エイプリル(アリシア・ヴィキャンデル)。
集会の影響で、混雑が予想されるアテネのホテルから移動した2人はデルポイを観光した後、次の宿へと向かう。
暗い夜道を運転していると、ベケットを眠気が襲う。気がつくと車は車道を外れ崖から転落。近くの民家に激突してしまう。
横転した車の中から、人影を確認するベケット。こちらを見つめる赤毛の少年に助けを求めるも、少年は奥から現れた金髪の女性に連れられ、どこかへ消えてしまった。
車の外に放り出されたエイプリルの様子を確認するベケット。エイプリルは呼びかけに反応しなかった。
ベケットが目を覚ますと、そこは病室だった。エイプリルに会いたいと看護師に訴えると、彼女が亡くなった事を知らされる。
エイプリルの遺体を大きな街へ移送するためにサインを求められるベケット。エイプリルに会いたいというベケットの訴えを一向に受け入れない地元警察を不審に思ったベケットは、エイプリルの父親へ連絡する。
亡くなった事実を伝えられないまま、電話を切ったベケットは警察の事情聴取を受ける。現場には誰もいなかったという警察に対し、ベケットは少年と女性がいた事を明かす。
男性の警官は不法移民が住み着いていたのだろうと推察し、捜索を約束する。
事故から2日経ち、激突した住居を訪れたベケット。悔やんでも悔やみきれない後悔に発作を起こした彼は、向精神薬に手を伸ばすが、謎の女性(レナ・キッツォポーリョ)から銃撃を受ける。
そこへ、ベケットの事情聴取を担当した地元警官が応援に来た。2人の警官は森へ逃亡したベケットを執拗に追いかける。必死の思いで追跡から逃れたベケットは駐車してあったバンの中で夜を明かした。
翌朝、住民に発見されたベケットは彼らの家で傷の手当てを受けた。そこへ警官が現れた。裏口から逃亡したベケットは山奥で養蜂家の夫婦に出くわす。
彼らの携帯電話を借りて、アメリカ大使館へ連絡するベケット。保護を求めるも救出には1日かかると告げられた。
ベケットは、今いる場所から大使館のあるアテネまで5時間かかることを知り、電車で大使館へ向かうことにした。
大使館へ向かう電車の中で、周囲に警戒しながら席についていると、隣へ警官(パノス・コロニス)が腰掛け、ベケットを押さえつけた。大使館へ何を連絡したのか、詰問する警官。ベケットは両腕を縛られていた。隙をついたベケットは急停車レバーを下ろす。銃を構えた警官と揉み合いになった後、警官の足を撃ち、電車から逃亡するベケットだったが…。
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この映画を見ていて思い出すのは「逃亡者」。
無実の罪を背負いながら真犯人を追うリチャード・キンブル。
「ベケット」=「逃亡者」+「北北西に進路を取れ」+「間違えられた男」÷3。
「ベケット」は「逃亡者」とヒッチコックの2作品「北北西に進路を取れ」「間違えられた男」を足して3で割ったような映画(笑)。まさに、身に覚えのない事件に巻き込まれる「巻き込まれ型サスペンス」。
電車、バス、車を使っての逃走劇がスリリングに展開する。
大使館員が車で安全な警察署に案内するというのだが…。
外国人旅行者が危険なときに、まず最も安全な場所と思われる大使館(この映画ではアメリカ大使館)の職員ですら怪しいというのがベケットの頭に徐々に浮かんでくるところもサスペンスタッチ。
ギリシャが舞台になっていて、ギリシャの経済的危機、政情不安定、警察とデモの衝突、などが背景に描かれるが、そのなかにマフィア抗争と誘拐事件が絡んでいたことで、ベケットに目が付けられ、とんだ災難、悲劇に巻き込まれたのだった。
間違えられた男だったことが明らかになったものの、交通事故は、ベケットの居眠り運転が原因であり、そのために恋人のエイプリルを失ったことを想い、涙を流しながら「俺が死ぬべきだった」と呟くベケット。
主演を務めたジョン・デヴィッド・ワシントンは、元プロバスケットボール選手という経歴を持つ俳優。
スパイク・リー監督作品「ブラック・クランズマン」(2018)での活躍も印象に残る。「ベケット」では、ほぼ全編を通してベケットの逃走劇を描いていて「テネット」(2020)に引き続き、ジョン・デヴィッド・ワシントン独特のアクションが堪能できる。特殊部隊や捜査官でもないただの観光客のベケットだが、追っ手の警官と格闘し、そのほとんどで相手を圧倒してしまうというのも元スポーツ選手という力を見せている。
「ファントム・スレッド」のヒロインに大抜擢された女優ヴィッキー・クリープスが「ベケット」でも信念を持った活動家を演じていて印象に残る。
公開・制作国:2021年8月13日/Netflix/アメリカ
監督:フィルディナンド・シト・フィロマリノ
脚本:フィルディナンド・シト・フィロマリノ/ケヴィン・A・ライス
主な主演:
ジョン・デヴィッド・ワシントン…ベケット
アリシア・ヴィキャンデル…ベケットの恋人エイプリル
ボイド・ホルブルック…大使館職員タイナン
ヴィッキー・クリープス…活動家レナ
レナ・キッツォポーリョ…女性狙撃者
パノス・コロニス…警官クセナキス
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