有名作品でありながら見逃していた作品で、今見ても面白い!後にシリーズ化され4本の続編が作られた。
とくに増村保造監督の一作目は、”スパイ学校”そのものを描いた点が面白い。
1960年代の初め頃は「007シリーズ」を始め、世界的なスパイ映画ブームだった。
東宝は「国際秘密警察シリーズ」(三橋達也主演)、東映は忍者・裏切り者映画などを丹波哲郎主演で撮っていた。1968年に「陸軍諜報33」という中野学校出身のスパイが活躍する映画を製作。日活は1964年に「間諜中野学校 国籍のない男たち」。そんな中、大映は暗くて重い「陸軍中野学校」で日本のスパイ育成そのものを描いたのだった。
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「将来は何になりたいか?」「銀行員か会社員です」「この地図の中のXX島はどこにある?」「この地図にはありません」「地図の下の机の上には何がある?」「文房具、カバン、万年筆、湯飲み茶碗、タバコ・・・」「タバコはなんだ?」「チェリーです。マッチ、灰皿」「灰皿の中には?」「吸殻が2本ありました」・・・。「では、次にいくつかの質問をするからまとめて答えろ。一晩にどれくらいのお金を扱えるか。キリスト教と仏教の違いを5つ。共産主義の長所と短所はなにか。今、この場で腹を切れるか」・・・など奇妙な質問だった、と次郎のナレーション(回想)で物語が始まる。
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1938年10月、三好次郎陸軍少尉(市川雷蔵)は所属する連隊で草薙中佐(加藤大介)と名乗る男の訪問を受け、次々と質問を浴びせられる。1週間後、三好は陸軍省に出頭せよとの極秘命令を受け、母と許嫁の雪子(小川真由美)には出張と偽って東京に向かう。
変名を与えられた三好らは、軍隊用語は話さないようにしなければならなかった。訓練は柔道から飛行機の操縦までわたり、政治、経済、外交問題については大学教授の講義を受けた。しばらくして、彼らは九段から中野電信隊跡に移動した。
ここでは、諜報において必要な技術 - 変装、ダンス、更に名の知れた金庫破りによる窃盗術や生理学者による女の肉体を喜ばせる方法までもが教授され、サラリーマンの団体を装った遊郭での実習まで行なわれた。また、二つ以上の外国語の習得や、職業も洋服屋とコック(料理人)というように2つ以上を身につけさせられた。
過酷な訓練で自殺者を出しながらも1年間の訓練を終えた彼らに卒業試験として与えられたのは、英国領事館の外交電信暗号コードブックの内容入手であった。
さらに、出入りの中国人コックを買収して領事館に侵入し、コードブックを撮影して見事内容入手に成功した彼らであったが、コードブックの内容はすぐに変更されてしまった。参謀本部の前田大尉(待田京介)は、作戦に失敗した中野学校の存在に苦言を呈する。
ある晩、三好は雪子の元を訪れ、ホテルに誘い、毒殺してしまう。雪子の筆跡を真似て「私はスパイでした」という遺書を残して・・・。
そして身も心もスパイになりきった次郎たち十六名は、陸軍中野学校第一期生として世界各地にちらばっていった。ちょうど欧州では第二次大戦か始まっていた。
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CIA(=Central Intelligence Agency、米中央情報局)は、諜報機関の代名詞とも言える組織。アメリカには情報機関が多数ありインテリジェンス・コミュティーを形成しているが、その頂点でもある。
日本でそれにあたるのは公安警察か公安調査庁か内閣情報調査室(CIRO サイロ)そして防衛省情報本部(DIH)など。しかし海外の諜報機関に比べて規模が格段に小さい。また特殊工作(暗殺や破壊工作など)は行っていないとされる。
日本映画としては異色の映画で興味深かった。
小川真由美は、その後「女ねずみ小僧」シリーズなどでアクションもこなし活躍。
加藤大介も、「七人の侍」では、侍集めに奔走していたが「陸軍中野学校」でも、東大卒などの国際的に通用するエリートを集めていた。「通信研究所」という名前の学校と言っても施設は、古びた空家の建物で、”寺子屋”のような環境だった。スパイ教育が目的だったが、やがて、暴走して、殺人マシーンになる怖さも描かれる。
中野学校に集まった学生たちは、将来は医者、弁護士、政治家などになることも可能だったが、なぜ誰にも知られずに死ぬことも厭わないスパイになったのか? その理由とは・・・?
■主な出演者:
市川雷蔵- 三好(椎名)次郎
小川真由美- 布引雪子(次郎の恋人)
E・H・エリック- オスカー・デビットソン
ピーター・ウィリアムス- ラルフ・ベントリイ
村瀬幸子- 三好菊乃(次郎の母)
仁木多鶴子- はつ恵(バーのホステス)
三夏伸- 手塚(中野学校生)
仲村隆- 杉本(中野学校生)
井上大吾- 甲斐(中野学校生)
九段吾郎- 宮木(中野学校生)
喜多大八- 森(中野学校生)
佐山真次- 浜田(中野学校生)
南堂正樹- 中西(中野学校生)
河島尚真- 高山(中野学校生)
守田学- 連隊区司令部将校
杉森麟- 中野学校教官B
小山内淳- 中野学校教官F
大橋一元- 中野学校生A
伊達正- 金庫破りの名人
中田勉- 佐倉連隊准尉
高村栄一- 警視庁捜査係長
志保京助- 原口(洋服屋)
橋本力- 憲兵少佐
新宮信子- 伯爵夫人
三島愛子- 芸者A
田中三津子- 芸者B
松浦いづみ- 芸者C
穂高のり子- バーのマダム
松村若代- ラルフ邸の家政婦
上映時間:96分、モノクロ
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