映画「チップス先生さようなら」(原題:Goodbye Mr. Chips, 1939)を見た。
天下の美女で「ミニヴァー夫人」(1942)でアカデミー賞主演女優賞を受賞したグリア・ガースンのデビュー作であるのに日本では劇場公開されすに、2004年にDVDが発売されただけである。
グリア・ガースンの映画では「心の旅路」(原題:Random Harvest, 1942)が印象に残る。この作品は、アカデミー賞作品賞・監督賞・主演男優賞(ロナルド・コールマン)・主演女優賞(ガースンと共に主演だったスーザン・ピータースが受賞)・脚色賞・作曲賞・美術賞を受賞した名作だ。「キュリー夫人」(1943)も、ガースンの代表作だ。「キネマ旬報」の新春特別号(1950)の表紙も飾ったことがある。
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一般に「チップス先生さようなら」といえば1969年版のピーター・オトゥール主演映画が知られているが、あちらはリメイク作品(テレビで、部分的に見た)で設定も第二次大戦前夜に変更されミュージカル映画となっている。
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「チップス先生さようなら」の原作は、ジェームズ・ヒルトンが1934年に発表したイギリスの小説。19世紀の末から20世紀の初頭にかけて、全寮制男子校のパブリックスクールで教育に携わった1人の男性教師の半生を描いた作品。
チップスは退職後も学生たちとの交流を続けている。かつては理想に燃えていたが、必ずしも学生には好かれなかったようだ。チップスが変ったのは娘ほどの年が離れたキャサリンと結婚してからだったが、二人の幸せは長くは続かなかった。それでもチップスはウィットに富む教師となった。
今回見た1939年のロバート・ドーナット主演作「チップス先生さようなら」では、ドーナットはアカデミー賞主演男優賞を受賞。同じ年に製作された「風と共に去りぬ」のクラーク・ゲイブルが有力視されていたが、ゲイブルを退けての受賞だからすごい。
1939年版は、83歳になる元教師チッピング(愛称チップス)の回想で始まる映画で、58年間教師を務め、生き字引として、15年前に引退したものの、現在も学校と関わる回想録の映画でもある。
現役の教師時代に、生徒の名前を聞いただけで、その父親や祖父の名前まで遡ることができ、生徒から尊敬を集めた教師だった。新米時代こそコチコチの硬い印象だったが、ジョークが大受けして、いたずら好きの生徒たちからも信頼を集めていく。
「”ある人”からも言われていた」と述懐する。
その”ある人”こそ、若い時に恋に落ち結婚したものの、出産で母子ともに亡くなった妻のことだった。
時は経ち、いつの日か、戦争が終わるまでの条件付きながら、校長になり「約束を果たした」のだったが・・・。
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さりげない会話の中に、史実を感じさせる言葉が登場する。
・生徒の「家に電話を引いた。まだ使えないが」(イギリスで電話回線が引かれたのは1890年~1900年始め)。
・「ビクトリア女王の葬儀がある」(1901年1月22日)。
・「南ア戦争が始まった」(1899年~1902年)。
チップス先生にとって、生徒たちが出兵して、戦死したというニュースほど無念だったことはないだろう。16歳で卒業と同時に、兵隊に出て亡くなった生徒もいた。「二十四の瞳」の白石先生と同じ心境だったろう。
見ごたえのある映画だった。
ほとんど未見に等しいピーター・オトゥールの「チップス先生さようなら」(1969)も見たくなった。
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