「セッション」(原題: Whiplash、2014)は、監督・脚本がデイミアン・チャゼル、主演は「ラビット・ホール」のマイルズ・テラー。第87回アカデミー賞で5部門にノミネートされ、J・K・シモンズの助演男優賞を含む3部門で受賞。
原題の「Whiplash」は「ムチ打ち症」の意味で、ジャズの有名曲の題名でもあり、作中で何度か演奏される練習曲の一つ。また首に大きな負荷がかかるドラマーの職業病でもある。
チャーリー・パーカーという、34歳で急逝した「モダン・ジャズ(ビバップ)の父」とも言われる人物がいるが、音楽指導者のフレッチャーは第2のパーカーを育てるという信念のもとにバンド・メンバーと対峙するが、その指導法、言動は狂気にみち、度を超えたものがあり、ドラマーの卵、ニーマンが反撃に出る、いわばニーマンの成長ストーリー。
【あらすじ】
19歳のアンドリュー・ニーマン(マイルズ・テラー)は、バディ・リッチのような「偉大な」ジャズドラマーになることに憧れ、アメリカ最高峰の音楽学校、シェイファー音楽院へ通っていた。
アンドリューを男手ひとつで育てている父ジムも、良き理解者としてアンドリューを支えてくれている。
ある日アンドリューが教室で1人ドラムを叩いていると、学院最高の指導者と名高いテレンス・フレッチャー(J.K.シモンズ)と出会う。
後日、アンドリューが学ぶ初等クラスをフレッチャーが訪れ、自身が指揮するシェイファー最上位クラスであるスタジオ・バンドチームにアンドリューを引き抜くのだった。
迎えた練習初日、フレッチャーは開始早々バンドメンバーに罵詈雑言を浴びせはじめ、1人を退場させる。
フレッチャーは一流のミュージシャンを輩出するのに取り憑かれ、要求するレベルの演奏ができない生徒に対し、人格否定や侮辱を含めた罵声や怒号も厭わない狂気の鬼指導者だったのだ。
その矛先はさっそくアンドリューにも向けられ、ほんのわずかにテンポがずれているという理由で椅子を投げつけられてしまう。
さらに他のメンバーの目の前で頬を引っ叩かれ、屈辱的な言葉を浴びせられると、アンドリューは泣きながらうつむくほかになかった。
しかしアンドリューはこの悔しさをバネに、文字通り血のにじむような猛特訓を開始するのだった…。
・・・
J.K.シモンズが演じる鬼コーチ、フレッチャーの罵詈雑言のすさまじさは、バンドメンバーを委縮させてしまうほど強烈。まるで映画「フルメタル・ジャケット」のハートマン鬼軍曹の徹底的な叱責と罵倒、殴る蹴るの体罰にも匹敵するほどの心身ともに過酷を極めるものだった。
しかし、アンドリューは、その厳しさゆえに、逆にフレッチャーに対して反発心と闘争心がふつふつとわいてくるところがラストシーンの壮絶な”セッション”へとつながっていく。
このセッションでは、指揮者のフレッチャーからアンドリューが主導権を奪い、演奏を続けると、「主客転倒」の構図となり、他のバンドメンバーもその勢いと気迫に押されてスタンダード曲である「キャラバン」を演奏しはじめる。
初めはためらいながら指揮を取るフレッチャーだったが、アンドリューの鬼気迫る魂の籠ったドラミングを前に、やがて歓びの表情を浮かべるのだった。
このラストは、あの罵詈雑言の塊のような鬼の指揮者が、アンドリューを理解した瞬間で、いわばどんでん返しのエンディングだった。
JVC(のちにパナソニック・グループとなった日本ビクターのブランド)ジャズ・フェスティバル、ニューヨークの有名なジャズ喫茶「ブルーノート」、カーネギーホールといった固有名詞が出てきて興味深い。
フレッチャーによると、コンサート演奏などで成功すれば、スカウトから一流のブルーノートなどへの出演の声が掛かるが、逆に失敗すれば、スカウトは、失敗した人物も一度見たら忘れないというのだった。
アンドリューの一家はアンドリュー以外は、それぞれの社会で成功を収めており、音楽を目指すアンドリューは、兄弟たちからも下に見られるという立場。なかなか理解してもらえないもどかしさやストレスがあったかもしれない。
そんなアンドリューが、交通事故にあいながら血まみれになっても、コンサート会場へ駆けつけて、死に物狂いで演奏する姿は圧巻だった。
【キャスト】
アンドリュー・ニーマン :マイルズ・テラー
テレンス・フレッチャー:J・K・シモンズ
ジム・ニーマン:ポール・ライザー
ニコル:メリッサ・ブノワ
ライアン・コノリー:オースティン・ストウェル
カール・タナー :ネイト・ラング
フランクおじさん :クリス・マルケイ
Mr.クラマー:デイモン・ガプトン
エマおばさん:スアンヌ・スポーク
寮の隣人:マックス・カッシュ
・・・
いつかの「どんでん返し映画」投票に「セッション」が上がっていたので再確認のためみた。椅子が投げられたり、ビンタが繰り返されたりの暴力のほか、言葉の暴力・罵詈雑言がすさまじい。
最後に救いがあったのが良かった。
「U-NEXT」で鑑賞。
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