「神は見返りを求める」（2022）は、同じ年に公開された「ケイコ 目を澄ませて」の主演で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞した岸井ゆきのがムロツヨシとW主演ということで遅ればせながら見た。主人公二人が豹変する後半のバトルが見どころ。
監督は「純喫茶磯辺」「さんかく」「空白」などの𠮷田恵輔。
ムロツヨシ演じる心優しい男が、岸井ゆきの扮する売れないYouTuberの手伝いを買って出るが、やがて関係に亀裂が生じ、動画を通して互いを罵りまくるバトルへと発展して行く。
ムロツヨシが平凡なお人よしで終わるはずがない。岸井ゆきのも「ケイコ 目を澄ませて」のボクサーのイメージに固定されたくないと語っていたが（映画の撮影時期は「神は…」と重なる）、一筋縄ではいかない役柄を演じでいて、只者ではない力を見せていた。岸井ゆきののダンスも切れがいい。
前半は、ゆるゆるの進行で、淡々としていていたが、後半、本性をむき出しになる男と女のバトルがすさまじくなる。
かたや「見返りを求めない」が「見返りを求める」男に変わり、一度は「神」と崇めた「恩」を、手のひら返しの「仇で返す」女に変貌し、エゴのぶつかり合いとなるのだった。
火傷して入院中の優里を見舞いに来た田母神に対して、それまで罵ってきたが、最後に小声で「ありがと」という感謝の言葉があり、田母神は、その言葉を繰り返しスマホで再生するのだ。これが唯一の救いとなっている。
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人数合わせで合コンに参加した、神様と言われるほど人の良い男・田母神尚樹（ムロツヨシ）。
その合コンで酔いつぶれる底辺Youtuber・川合優里（岸井ゆきの）を介抱したことをきっかけに出会うが、優里はYoutubeが伸び悩んでいること、批判コメントに悩んでいた。
そんな時、優里はイベント会社に勤める田母神に動画撮影の協力をお願いし、人の良い田母神はそれに協力することになった。
撮影場所まで車を出し、優里に小道具としてジェイコブっぽいと言われるボロボロの着ぐるみを着てダンスして、その後の動画編集まで手伝う。
登録者数もあまり増えず、番組の評判もあいかわらずパッとしないままだったが、優里は献身的に手伝ってくれる田母神に感謝し「神」と呼ぶこともしばしばだった。
ところがある日、基準を満たしていないにも関わらず「裏メニュー」として生食用牛肉を出すお店を優里が番組で紹介してしまい、お店は閉店に追い込まれてしまう。
田母神の知り合いだって言うから提供したんだとお店に泣きつかれ、田母神も困り果てるが、泣いている優里を責めることもできない。
優里は下着姿になり田母神の背中に抱きつき、こんなことでしかお詫びできないと言うが、田母神は服を着るように言い、自分は「見返りなどいらない」からという。
「1年間で（YouTube）収入が1,500円か」と落ち込む優里。「将来、収益が出たとしても、優里ちゃんが思うように使えばいい」と言う田母神。
この「見返りはいらない」「売り上げは自由に使えばいい」のセリフが、あとから、優里の反撃ののろしになるとは…笑。
そんな中、ふたりの関係に微妙な亀裂が入り始める。本業が忙しく時間に追われるようになった田母神は、優里と番組について話し合う暇もなく、掛ける言葉もぞんざいなものになっていた。
ある日、優里は、田母神の同僚・梅川（若葉竜也）の紹介で、人気YouTuberチョレイ（吉村界人）・カビゴン（淡梨）と知り合い、彼らとの“体当たり系”コラボ動画により、突然バズってしまう。
裸になってボディペインティングするという内容に、田母神は心配し、優里に忠告するが、優里は聞く耳を持たない。それどころか、田母神に対して冷たい態度を取り始めるようになった。
イケメンデザイナ一・村上アレン（栁俊太郎）とも知り合った優里は、田母神を雑用係として扱い始める。田母神が、オリジナルのＴシャツを優里に渡そうとすると、村上は、くくくと笑いを抑えきれないほど皮肉っぽい笑みを見せる。
優里も、田母神のセンスは、今の若い人たちには通用しない、ダサいとはっきり言うのだ。
そんな中、田母神から借金を重ねていた男性が自殺。彼が最後に訪ねてきた時、田母神はお金を渡さず彼を追い払っていた。
彼の借金の保証人にもなっていたため、田母神はたちまち多額の借金を背負ってしまうことになる。そんな事情を知る梅川は、優里が相当稼いでいるらしいということを田母神にささやく。
田母神は優里を呼び出し、これまで、手伝いをするのに、ずいぶん自腹を切ってきたこと、生肉事件の時、お店に示談金を負担していたことなどを述べ、50万ほど渡してほしいと頼む。
すると、優里は見返りはいらないと言ったじゃないですか、とつっぱね、収益も私が思うようにすればいいよといったじゃないと反論。
見返りじゃなくて誠意を見せてほしいと田母神は主張するが、ふたりの会話は平行線をたどり、ついに決裂してしまうのだった…。
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「誠意」の「せ」の字も見せない岸井ゆきの扮する優里のふてぶてしさ。それゆえに怒りをつのらせ、思いがけない行動に出るムロツヨシ扮する田母神の必死さ。
YouTuber・ゆりちゃんを演じる岸井ゆきのは、売れっ子になるに従い、どんどん性格が悪くなっていく。性格が悪くなる半面、かわいさが増す。
田母神に対しての言葉でも「私は次元が違うところにいる。あなたは進歩していない」と小ばかにした態度を見せる。
一方の田母神に扮するムロツヨシは、お人よしにもほどがあるという性格を演じていて、いつものコミカルなキャラを封印。優里が豹変したと知るや「ゴッティ・Ｔ」として覆面をして、優里のバッシングを開始。
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登場人物にそれぞれ悪意があるところも面白い。
優里 梅川
優里：随分と世話になりながら、田母神を都合よく利用し、人気が出てきたらぽいっと捨ててしまう。
コールセンターの優里の同僚：優里のことを引き立て役感覚で連れ回し見下していた。
田母神の同僚・梅川葉：人や状況によって都合よく態度を変え、全方位に媚びへつらって、あることないこと悪口を吹き込む、いわば悪口の伝道師。
村上アレン：優里の成功はすべて自分のおかげだと言う、傲慢な新しい「神」。
YouTuberのチョレイとカビゴン：撮影のために他者を危険な目に晒すことを厭わない、悪気も罪悪感もないからこそ質が悪い。
【主要人物】
■田母神（たもがみ）尚樹：ムロツヨシ
主人公。イベント会社に勤める。合コンで知り合った優里がYouTubeの再生回数に悩むのを見かねて手伝う。
■川合優里：岸井ゆきの
底辺YouTuber「ゆりちゃん」。コールセンター勤務。田母神にYouTubeの登録者を増やす手伝いをしてもらい、良きパートナーとなっていく。
■梅川葉：若葉竜也
田母神と同じイベント会社勤務の後輩。優里に人気YouTuberのチョレイとカビゴンを紹介する。
■チョレイ: 吉村界人
人気YouTuberコンビ「マイルズ」の一員。
■カビゴン：淡梨
人気YouTuberコンビ「マイルズ」の一員。
■村上アレン：栁俊太郎
新進気鋭のデザイナー。ニューヨーク帰り。
【監督・脚本】吉田恵輔
【出演】ムロツヨシ、岸井ゆきの、若葉竜也、吉村界人、淡梨、柳俊太郎、田村健太郎、中山求一郎、廣瀬祐樹、下川恭平、前原滉
※「Netflix」で鑑賞。
