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「名作に進路を取れ!」…映画とその他諸々のブログです。

映画「イワン雷帝」(第1部:1944、第2部:1946、ソ連)セルゲイ・M・エイゼンシュテインの遺作。

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イワン雷帝」(原題:英:Ivan the Terrible、1944/1946)を見る。「エイゼンシュテインに進路を取れ!」。ソ連最大の映画作家モンタージュ理論の完成者として著名なセルゲイ・M・エイゼンシュテインの遺作となった作品。タイトルはてっきり「イワン皇帝」と思い込んでいたが「イワン雷帝」。この呼び方は、イヴァン4世(イワン公)が残虐で冷酷な性格を持ちロシア史上最大の暴君として語られていることに由来する。

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(第一部、1944)

16世紀中ばのロシア。イヴァン4世(以下、イワン大公)(ニコライ・チェルカーソフ)は世襲貴族達の分割政治を打破し、専制君主による帝政の確立を計った。戴冠式に次いでイワン皇帝はアナスタシア(リュドミラ・ツェリコフスカヤ)を王妃に迎えた。

1552年、イヴァン4世はカザン・ハン国の征服を達成。しかしイワン大公はカザンからの帰国の途で命に係わる大病を患ってしまう。 ここで後継者問題が起こる。妻の「ザハーリン家」と伯母エフロシニアの「反ザハーリン家」が対立を深める。エフロシニアは、その子ウラジミル(パーヴェル・カドチニコフ)を帝位につけようと大衆の指導者マリュータをそそのかし、イワンへの謀反を画策するのだった。

この対立が悲劇を生む。伯母エフロシニアが妻アナスタシアに毒を盛り、毒殺してしまうのだ。イワンは悲しみにくれ退位し、モスクワを離れる。 それに対し、民衆はイワンに戻ってくるように懇願。

(第二部、1946)

モスクワに帰ったイワンは、精力的な政策を画したが、貴族団は皇帝への反逆の狼火(のろし)をあげた。イワンはこの頃になって妻である王妃の死が毒殺であったことを知った。しかもその首謀者が叔母エフロシニアであることも知る。イワンは民衆の懇願により、即位に返り咲く。イワンは大貴族の権力と戦うために、恐怖政治を行う。そこでイワンの残虐で冷酷な性格が浮かび上がってくる。

エフロシニアは今やイワン殺害を計っていた。ロシア教会の大司教に皇帝の裁きを下すように頼み込む。「これはお願いではなく要求です」というものだった。

ある酒宴の夜、ウラジミルに刺客をつけて宴会に送りこむが、事情を知ったイワンはウラジミルに皇帝の正装をさせ、刺客は間違ってウラジミルを殺してしまった。エフロシニアは半ば発狂。国内の邪魔者を抹殺したイワンは、外敵との戦いを神に誓ったのであった。

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映画は、モスクワを守るための皇帝イワンの闘いの記録を描いたもの。貴族たちは、モスクワは野蛮人と決めつけ、新たな皇帝の地位はポーランドのために開けてあると対抗する構図。イワンの伯母であるエフロシニアの存在感が大きい。モスクワ公(イワン)はおごり高ぶったとして、息子のウラジミルに、皇帝になれば世の中を思うようにできるとそそのかすところがすごい。

イヴァン4世(イワン公)は大貴族の専横を抑えるために粛清、恐怖政治をおこなったが、大貴族の勢いを止めることはできなかった。その結果、イヴァン4世の死後は大貴族がモスクワ国家をしばらく実質的に支配することになった。

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1925年に「ストライキ」を発表して以来、「戦艦ポチョムキン」「十月」(別名「世界を震がいさせた十日間」)、「全線」(別名「古きものと新しきもの 全線」)、「メキシコの嵐」「アレクサンドル・ネフスキー」等で名声を博したエイゼンシュテインの長篇作品。

この作品は元来3部作の構想をもって企画された。エイゼンシュテインはその準備と製作に各々3年の期間を費し、ようやく第一部と第二部を完成するが、第三部の準備中に急逝した。

第二部は彼の歴史的解釈の誤りが指摘されたため、若干の改変が加えられたといわれる。また英国ではこの作品が政治的な思惑で上映禁止の処分をうけたという。作曲のセルゲイ・プロコフィエフは世界的な作曲家で「キージェ中尉」以来映画音楽でも積極的な活動をしてきた。とくに「アレクサンドル・ネフスキー」における彼の作曲はすでに映画から独立した交響楽としてもひろく演奏されている。

主役のニコライ・チェルカーソフレニングラードプーシキン記念アカデミイ劇場の専属俳優。その他「人生案内」のミハイル・ジャーロフソ連人民俳優アンブロシー・ブーチマらが出演。異色あるキャストは「母」(1926)や「アジアの嵐」の作者として著名なフセヴォロド・プドフキンが一俳優として狂信者に扮している。モノクロで、一部カラー、スタンダードサイズ。