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「名作に進路を取れ!」…映画とその他諸々のブログです。

映画「ここに泉あり」(1955)今井正監督、岸恵子主演。

 
岸恵子「高崎映画祭」特別賞を受賞する要因の一つとなった「ここに泉あり」(1955)を見た。この映画は日本でも3番目に古いと言われる群馬交響楽団(地方楽団では最古)の誕生と楽器・音楽の持つ力を描いている。モノクロスタンダード、150分。
 
高崎の市民オーケストラが、群馬交響楽団へと成長する草創期の実話を舞台としたヒューマンドラマ。作曲家の山田耕筰、ピアニストの室井摩邪子がそれぞれ本人役で特別出演している。第29回キネマ旬報ベスト・テン第5位。
 
監督は今井正岸恵子岡田英次小林桂樹のほか、加藤大介、東野英治郎など名だたる俳優が出演。低予算映画で「撮影は苦労したが思い出深い」と岸恵子は3月27日の高崎映画祭授賞式で撮影当時のエピソードなども交えて語っていた。
 
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人心のすさみきった終戦直後、群馬県高崎市に生れた市民フィルハーモニーは、働く人や小学生に美しい音楽を与えようとしたがマネージャー井田(小林桂樹)の努力にも拘らず、楽団員の生活も成りたたない有様だった。
 
楽団で唯一人の女性佐川かの子(岸恵子)は、音楽学校を出たばかりのピアニストだが、田舎では腕が落ちるのを悩んでいた。新しく東京から参加したヴァイオリンの速水(岡田英次)は彼女を励ますが、彼自身も同じ苦しみを味っていた。
 
生活の苦しさに脱退する者もあったが、深山の奥の小学生や鉱山やハンセン病療養所などに出かけて、音楽を喜ぶ人々を見ると、一切の労苦も忘れた。
 
速水とかの子は結ばれて結婚したが生活は苦しく技術への不安も大きくなるばかりだ。軍楽隊上りの工藤や丸屋は、仲間の楽器を質に入れたり、チンドン屋になったりしたが、それでも頑張っていた。
 
井田は東京から山田耕筰指揮の交響楽団とピアニスト室井摩邪子を招いて合同大演奏会を開いた。余りに大きな腕の違いに一同は落胆したが、それから二年後、山田氏は旅の途中で彼等の練習所へ立寄った。
 
生活と闘いながら彼等は立派な楽団に成長していた。かの子は赤ん坊を背に、皆と一緒に、野を越え山を越えて、人々の心に美しい音楽を与えるため歩きつづけた
(MovieWalker)
 
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戦後まもない時代に、ピアノや、チェロ、バイオリンなど見たこともない山村の子供たちが初めて、楽団に触れ、楽器の紹介に目を白黒させて驚く様子がいい。今では考えられないが、楽団の音楽を聴いて、また山奥の分校に戻っていく姿を見送る楽団員の「この子らはもう二度と生の楽曲を聴くことはないだろう」という時代だった。
 

小林桂樹
演じる井田が、子供たちに楽器を説明するシーンが印象的だ。
 
「山にもいろいろ美しい花があるように、音も様々な美しい音を持っていますよ。これがバイオリンです。」と紹介しバイオリンの演奏の後、「バイオリンのお兄さんと言えるのがビオラです。」といった具合。
 
「お兄さんの次はチェロ、またはセロというものです。セロは、男らしく、力強い音を出しますね。」 「次は、おじいちゃんかな。コントラバスです。もっぱら低音をあつかいます」。「ホルンです」というと、子供たちからは、”でんでん虫”みたいだという声。「自然音を奏で、管弦楽ではなくてはならない楽器です」。「これがトランペット。そしてピアノは楽器の王様です」。
 
楽団の楽器の紹介が終わると、誰でも知ってる曲を全員で歌おう、ということになり、「赤とんぼ」を全員で合唱した。
 
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東京交響管弦楽団との合同演奏があり、ピアニストの演奏が華麗で抜群であるのを目の当たりにした時、同じピアノを担当するかの子(岸恵子)は、驚愕し自信を失うが、数年後には、かの子のピアノ演奏の上達ぶりは目を見張るものがあった。
 

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数年後、東京交響楽団の指揮者・山田耕筰が、軽井沢に出かけた折、列車の案内が「次は高崎」というアナウンスがあったとき、同行のスタッフに「あの高崎の楽団はどうしただろうか」「潰れたと聞いています」「降りてみようか」「どこへですか?」といった会話の後に、3年前に合同演奏会を行った市民交響楽団は存続していたことを知る。その演奏光景を見て、山田耕筰は自ら指揮をとり、その成長ぶりに驚くのだった。
 
 
ラストは、楽団が山の彼方に向かって歩いていく。
その光景は、「サウンド・オブ・ミュージック」の”すべての山を上れ”のように団員たちはキラキラと輝いていた。
 

岸恵子は、「ここに泉あり」の撮影時は21歳だったが、20歳の時の1953年から1954年にかけて映画「君の名は」3部作が大ヒットして以降、松竹の看板女優として絶大な人気を誇った。一方、「ここに泉あり」の撮影の年の1954年には有馬稲子久我美子とともに「文芸プロダクションにんじんくらぶ」を設立した。
 
「君の名は」はラジオドラマでも放送され、岸恵子が演じる真知子の”ほっかぶり”のようなマフラーは、”真知子巻き”として一世を風靡どころか、全国の女性が真似をしたといわれている。「君の名は」が放送される時間帯には、町の銭湯はガラガラになり、お風呂屋さんもお手上げだったようだ。1960年代半ばに「君の名は」はリメイクのテレビドラマとして放送されたが、これは見ていたが、すれ違いメロドラマに泣かされた記憶がある。
 
この8月には「君の名は。」のタイトルの新作アニメが公開される。「君の名は」とは無関係だが、新海誠監督の最新作「君の名は。」で、神木隆之介上白石萌音が声優に挑戦する。新しいファンが増大しそうだ。上白石萌音といえば「舞妓はレディ」で新人賞を受賞したが、ようやく始動、これからも注目されることになりそうだ。
 
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