↑ 下は「寝ずの番」の臨終シーン(噺家の一番弟子を演じた笹野高史=右)
「笹野高史」の名前と顔が一致したのは、比較的最近だった。
あの風貌では(笑)「男はつらいよ」シリーズで見ていても、気に留めることなく、
おっさんの脇役の一人として、長い間名前もまったく知らなかった。
その存在感と演技力で、名前を覚えることになったのは2006年4月公開の「寝ずの番」だった。
この映画は、マキノ雅彦(津川雅彦)監督の第1回作品。
笹野高史は、噺家として名人芸を示した。本物かと思うほど、うまかった。
最近の「おくりびと」では、銭湯の常連客・正吉で、50年も通っているという近所の普通のおっさんを演じている。一人で、湯上りのあと、「詰め将棋」をやるのが「日課」でひとり言をぶつぶつ言っているが、難しい詰めを解決したときに「できた!」と声を上げる。
それに反応するように、銭湯の女経営者・ツヤコ(吉行和子)が、「できたの?」と声をかけてくる。
長い間の自然な人間関係が伺える。後に正吉が、亡くなったツヤコを火葬で送り出すときに、ツヤコの息子につぶやくシーンがある。
「実は1年前のクリスマスのときに、一緒にケーキを食べてとツヤコさんが言ってきたんだ。そして、ケーキを食べたが、「そういうこと」だったんだ」と述懐するくだりである。なかなか、味わいのあるシーンだった。「そういうこと」というのは、自分の死を予感して、見送ってくれる人がほしかったということ・・・。息子とはけんかが絶えなく、家を出たきりほとんど戻らない・・。
息子は、母親が亡くなってはじめて、親の深い愛情を理解して、棺、火葬場で号泣するのだが・・・。
笹野は、1985年に「男はつらいよ 柴又より愛をこめて」に出演して以来、山田洋次監督作品の常連者となった。本人は、「ワンシーン役者」を自称しているという。声がかかった映画は、断らないという。 ”ワンシーン”に心血を注ぐため、そのシーンでの存在感は抜群だ。”ピリリ”とした一言が、異彩を放つことが多い。
2007年には山田監督の「武士の一分」で第30回日本アカデミー賞最優秀助演男優賞をはじめ数々の賞を受賞した。
また、「どんな役にもカッコよさがある」をコンセプトにしているといい、台詞の裏に隠された役の深みを知るために台本の余白部分には、担当役の履歴書を自分なりに書き込んでいるのだという。
ひごろからの役作りへの強いこだわりが感じられる。それが画面にもにじみ出る稀有な役者である。
この人が出ているだけで、映画に奥行きと深みが出る。
脇役の重要さを感じさせる俳優である。
主な出演作品(☆は見た作品と独断による映画評価)
麻雀放浪記(1984年) ☆☆☆☆
男はつらいよ 柴又より愛をこめて(1985年) ☆☆☆
男はつらいよ 幸福の青い鳥(1986年) - 市役所の職員 役
男はつらいよ 知床慕情(1987年) - 大家 役 ☆☆☆
男はつらいよ 寅次郎物語(1987年) - 旅館の主人 役 ☆☆☆
男はつらいよ 寅次郎サラダ記念日(1988年) - 泥棒 役 ☆☆☆
釣りバカ日誌(1988年~) - 前原運転手 役 ★★
ぼくらの七日間戦争(1988年) - 丹羽満 役 ★★
上海バンスキング(1988年) - 松本亘(バクマツ) 役 ☆☆☆
男はつらいよ 寅次郎心の旅路(1989年) - 車掌 役
男はつらいよ ぼくの伯父さん(1989年) - ホモの男 役
男はつらいよ 寅次郎の休日(1990年) - 内藤 役
男はつらいよ 寅次郎の告白(1991年) - 釣り人 役
男はつらいよ 寅次郎の縁談(1993年) - 琴島の駐在警官 役
学校(1993年) - 夜間中学校教員 役
男はつらいよ 寅次郎紅の花(1995年) - 箕作伸吉 役
学校の怪談 (1995年)
劇場版 重甲ビーファイター(1995年) - 向井健三 役
虹をつかむ男(1996年) - 十成修次郎 役
美味しんぼ(1996年) - 富井文化部副部長 役
岸和田少年愚連隊(1996年) - 杉山先生 役 ☆☆☆
虹をつかむ男 南国奮斗編(1997年) - 平山肇 役
静かなるドン THE MOVIE(2000年) - 川西部長 役
しあわせ家族計画(2000年) - 警備員 役
ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃(2001年)
アカルイミライ(2003年) - 藤原耕太 役
半落ち(2004年) - 刑務官 役 ☆☆☆☆
隠し剣 鬼の爪(2004年) - 医師 役 ☆☆☆
パッチギ!(2005年) - チェドキの伯父 役 ☆☆☆
寝ずの番(2006年) - 笑満亭橋次 役 ☆☆☆☆←日本映画で、お腹の皮がよじれ、
涙が出るほど笑ったのはこの映画が初めて。DVDも買おうかな。
地下鉄に乗って(2006年) - 岡村会長 役
早咲きの花(2006年) - 資料館職員 役
武士の一分(2006年) - 徳平 役
魍魎の匣(2007年) - 今出川欣一 役
象の背中(2007年) - 高木春雄 役
犯人に告ぐ(2007年) - 津田良仁 役 ☆☆☆
やじきた道中 てれすこ(2007年) - 杢兵衛 役
転々(2007年) - 畳屋のオヤジ 役 ★
図鑑に載ってない虫(2007年) - モツ煮込み屋の親父 役
犬と私の10の約束(2008年) - 皆川 役 ★★
カンフーくん(2008年) - 黒校長 役
歓喜の歌(2008年) - 伊藤茂 役
母べえ(2008年) - 小菅 役 ☆☆☆
花影 (2008年)
ハッピーフライト(2008年) - 丸山重文 役 ☆☆☆
おくりびと(2008年) - 火葬場の職員 役 ☆☆☆☆
百万円と苦虫女(2008年) 喫茶店経営者 ☆☆☆☆
ゲゲゲの鬼太郎 千年呪い歌(2008年) - 井戸仙人 役
イキガミ(2008年) - 石井課長 役
次郎長三国志(2008年) - 法印大五郎 役
劒岳 点の記(2009年) - 大久保徳明 役 ☆☆☆
ディア・ドクター(2009年) - 曽根登喜男 役 ☆☆☆
追加:
プリンセス・トヨトミ(2011)☆☆☆