映画「落下の解剖学」(原題:Anatomie d'une chute/Anatomy of a Fall、2023)はフランス映画で、第76回カンヌ国際映画祭でのパルムドール(最高賞)とゴールデングローブ賞の2冠に輝いた法廷サスペンス映画。
夫が不審な転落死を遂げ、彼を殺害した容疑で法廷に立たされた妻の言葉が、夫婦の秘密やうそを浮かび上がらせる。
果たして、夫の死は事故、自殺、他殺か?…が争点となる裁判では、我々観客が陪審員の立場になって判断を迫られる。
メガホンを取るのは「ヴィクトリア」などのジュスティーヌ・トリエ。主演のザンドラ・ヒュラーは、トリエ監督の「愛欲のセラピー」でタッグを組んだドイツの女優。
上記2冠のほか、英国アカデミー賞では脚本賞を受賞。ザンドラ・ヒュラーは、同賞で主演女優賞、別の映画「関心領域」では助演女優賞のWノミネートを果たしていた。
アカデミー賞でも主演女優賞にノミネートされているなど、いま勢いのある女優の一人。
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人里離れたフランス・グルノーブルの雪山の山荘で、視覚障がいをもつ11歳の少年ダニエル(ミロ・マシャド・グラネール)が血を流して倒れていた父親サムウェルを発見し、悲鳴を聞いた母親サンドラ(ザンドラ・ヒュラー)が救助を要請するが、父親はすでに息絶えていた。
当初は転落死と思われたが、その死には不審な点も多く、前日に夫婦ゲンカをしていたことなどから、妻であるベストセラー作家のサンドラに夫殺しの疑いがかけられていく。
息子に対して「ママを信じて!モンスターなんかじゃない」と必死に自らの無罪を主張するサンドラだったが、事件の真相が明らかになっていくなかで、仲むつまじいと思われていた家族像とは裏腹の、夫婦のあいだに隠された秘密や嘘が露わになっていく。
裁判では、サンドラは旧知の弁護士が弁護を引き受けるが、検察側の厳しい追及(かなり憎たらしい)に無罪を勝ち取ることができるのか…。
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一筋縄ではいかない映画だった。
サンバのようなリズムの大音響の音楽、サンドラの腕のアザ、現場検証の再現、夫が服用していた薬の存在、USBに夫が残していた夫婦の会話のやりとり、息子の二転三転する証言の真実性、妻の証言の信ぴょう性、介護犬スヌープの存在、様々な要素が絡み合って、陪審員たちは結論を導く。
人間的な温もりがあり穏やかな性格に見えるサンドラ目線で物語を見ていると、物語が進むにつれて、何かあるなという疑念にとらわれていく。
後の裁判における検事(アントワーヌ・レナルツ)の追及で、隠れていた闇や秘密が次々と明るみに出て、見る側も真相について疑問が湧き上がってくるからだ。
裁判では、最後に11歳の息子が証言をすることになるが、母親を守るために証言を変えたのかも追及されるが…。結末には賛否も含めて様々な意見があふれそう。
練りに練った脚本が良く、英国アカデミー賞の脚本賞受賞に続いてアカデミー賞でも期待がかかる。
主演女優賞は「哀れなるものたち」のエマ・ストーンで決まり!とみていたが、ザンドラ・ヒュラーの圧巻の演技がすさまじく、逆転するならこの女優か。もう一人、アネット・ベニングの「ナイアド ~その決意は海を越える~」を見たばかりだが、60代半ばで、165キロメートルの海を泳ぐ過酷な演技で、これもすごい。
※「MOVIX さいたま」で鑑賞(2月24日8:15~)
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