MOVIXさいたまにて。期待通りの満足の映画だった。
好みの分野で、邦画の現時点の今年度のベストワン!。
”敵”が隠蔽するなら、自分たちで調査、告発するしかない!・・・男たちの熱血社会派&企業ドラマ。書きたいことはやま山あれど、未見の人にネタバレになるので控えめにしました(笑)。
壮大なドラマを2時間キッチリにまとめられ、従業員80人ほどの小さな運送会社と財閥系の巨大企業の攻防が骨太なタッチで描かれ、突き刺さるようなセリフの数々に何度も胸が締め付けられた。”これぞ映画!”の醍醐味。
池井戸潤の小説は次々とテレビドラマ化され、数回から10回(話)に分けて放送され高視聴率を稼いできた。映画化が実現しなかった最大の理由は、壮大な物語を1本にまとめるのが困難とみられていたからだという。WOWOWのドラマ版「空飛ぶタイヤ」は以前見ている。
主人公は赤松運送の赤松社長(長瀬智也)。ある晴れた日、赤松運送の従業員が運転するトレーラーのタイヤが外れ、宙に飛ぶ。その先には、道路脇を楽しそうに話しながら歩く母娘。このシーンが何度も登場する。
”空を飛んだ”タイヤが、母親を直撃。女性は死亡してしまう。
警察は車両の整備不良を疑い、赤松運送の社内捜索を行う。
ところが警察は、整備不良を証明するような証拠を発見できず、その後呼び出しもない。赤松社長は、当初整備担当社員を疑っていたが、整備士の綿密な整備記録ノートにより、記録点検チェックは万全であったことから、車両自体の構造上に欠陥があると確信。巨大企業、ホープ自動車相手に戦いを挑む。
・・・
群像劇としても見ごたえがある。
長瀬智也が、熱い思いを秘めつつも、感情は内に秘め、押し殺すような演技で熱演。あわせて、名バイプレイヤー総出演とも言えるような脇役陣が素晴らしい。
ほかに赤松運送の専務で番頭役の笹野高史、赤松運送と同様、ホープ自動車のトレーラーの脱輪事故で運送会社の責任とされた運送会社関係者たちを演じる柄本明や佐々木蔵之介、ホープ自動車関係のディーン・フジオカ、ホープ銀行の高橋一生、個性派のムロツヨシ、津田寛治、木下ほうかなどが出演。それぞれのポジションで見ごたえがある。
ホープ自動車の一方的な調査に納得できない赤松社長は、過去にも同様な事故があったことを知り、事故リストを入手し、一社一社、聞き込み調査を行うのだった。門前払いされることが多い中、一人だけ、ホープ自動車に疑問を持っている人間がいた。相沢(佐々木蔵之介)という男だった。赤松社長は、自動車自体の構造的欠陥が原因であると考えるようになるのだった。佐々木蔵之介は「超高速!参勤交代」では主演を演じたが、この映画では、特別出演か友情出演のようなワンカットのみだった。要所要所に大物俳優を使っているぜいたくさ。
ホープ自動車の内部にも、社に疑問を持つ人間もいた。
大企業VS中小企業という構図、とくに中小企業の熱血社長が、窮地に立たされながらも自分たちが信じる正義のために熱い思いをたぎらせる展開は、原作者・池井戸潤作品の得意技だ。
・・・ 以下ネタバレもあるので、これから見る人はスルーを。
胸に刺さったシーン(ほんの一部):(反転)
■ホープ自動車のカスタマー戦略課課長・沢田悠太と赤松社長との会話:
沢田から、赤松はホープ自動車が、事故を起こした部品を赤松運送に戻すまでには、社内のシステム上時間がかかることから、部品返却までの保証金を提示される。事業資金3,000万円の融資を銀行から断られた時でもあり、万事休すの状態。そんな時、喉から手が出るほど欲しい資金。赤松社長と同席していた専務・宮代直吉の「金額を言っていただかないと検討するもなにも」というと、提示されたのは「1億円です」だった。驚く宮代は赤松社長の顔を見る。願ってもないことに内心ホッとした様子で・・・。ところが、ところが、ところが、だ。後日、赤松社長は、これを断るのだ。沢田は、予想外の返答に、金額に不満があったから断られたと思ったのか「いくらなら」と聞き返してきた。赤松は「人一人が亡くなっているんですよ。大企業は、札束で横っ面をたたくようなことをするんだ」。このあと、表に出てきた宮代専務は社長に言う。「あんな返事でいいんですか。社員を最も大事にしていると言いながら、断るなんて。」と強く社長を責めるのだ。
■柚木雅史(事故被害者の夫)が葬式に訪れた赤松社長らを、「顔も見たくない」と追い払う。その時に「あなたたちはそれでも人間ですか。自分たちのことばかり考えている。・・・なんでなんだ。なんで、自分たちなんだ。死にたがっている人間は何人もいるのに。家に帰って、いるはずの家族がいないということを考えたことがあるのか。」と地面に崩れ落ちる。のちに1億5,000万円の裁判を起こす。あとで、ホープ自動車の不正が明るみに出て、赤松運送の落ち度はなかったことが判明。自宅で焼香を許され、柚木が赤松らに謝罪する。
■赤松がはじめて沢田と面会した時に皮肉ったっぷり言うセリフ。
「沢田さんて存在してたんだ!」。
それにしても、大企業では、課長・部長・社員などは、モノが言えない世界。
そんな中でも、内部告発する勇気のある人物もいた、というのが救いだった。
テレビドラマ「正義のセ」では、新米検事の上司・責任者で人がいい人物を演じていた寺脇康文は、港北中央署刑事を演じていたが、態度の悪さ・がさつさで、嫌な人物だったが、最後に証拠を持って、諸悪の根源のような人物にグーの音も出ないほど迫るシーンは、圧巻だった。見直した!(笑)。
この刑事が、事務所の捜査令状で運送会社、ホープ自動車を捜索するときの決まり文句「みなさんのご迷惑にならないようにてきぱきとやれよ」もなかなかいい。
原作者の池井戸潤は、元銀行マンだが、よほど恨みつらみがあるのか、融資課長の憎たらしさ、いやらしさを描いたら天下一品。貸し渋りのあと、会社が危ないと見ると助けるどころか、期限付きで貸付け金回収にまわる。そんな融資課長に、「3億円」の全額返済の小切手を渡すと、「後で後悔しますよ」と最後まで捨て台詞。別の銀行が融資を引き受けたからだ。しかし、どんな時も、捨てる神、拾う神があるものだ。
長瀬智也の「中小企業をなめんなよ!」は凄みもあり、後で効いてくる。
なにかと理由をつけて、会おうとしなかった。会社の方針が決まっているので、担当者レベルであっても、進展はないから無駄だと判断していたからだ。
ついに沢田との面会にこぎつける赤松(右)
赤松社長とホープ自動車の沢田の対決という構図だったが、沢田は、自社内の不正に築き、結果的に赤松運送を救う手助けをすることになった。
赤松社長が沢田に聞く。
「自分だけの調査資料だけでは、今回のようにはならなかった。ホープ自動車の中に、告発者がいたのではないか。」すると沢田は「知らないな」だった。
赤松は、沢田に「あんたの顔など二度と見たくない」というと、沢田も「俺も同じだ」と言って、反対の方向に歩き出す二人。中小企業と大企業、相容れない立場、メンツもあるだろう。言葉にこそ出さなかったが、巨大組織のウミを出したという点では、どちらも、目に見えない巨悪に対して、一定の同じような”共闘”意識や満足感はあったに違いない。
・・・
映画のモデルとなっているのは2004年に起こった「三菱自動車リコール隠し事件」である「大手企業の不祥事もみ消し」事件。
リコールというのは、購入した商品が不良品だった場合、販売元に無料で修理をしてもらえる制度。一般的には販売元が自主的に欠陥品であったことを公表し、無料で改修作業に取り掛かる必要がある。しかし、自社の品位が落ちることを危惧した三菱自動車はそれを隠蔽し、自己の責任は運送会社の整備不良であると、国交省に報告していたのだった。
・・・
エンディングでかかるサザン・オールスターズの主題曲「闘う戦士(もの)たちへ愛を込めて」は、6月25日のデビュー40周年記念日を目前に控えた新曲。
池井戸作品ならではの痛快なエンディングをさらに盛り上げ、曲のタイトルどおり、映画を離れたところでも「矛盾を感じつつ、ストレスを抱えながら」も社会で働く、すべての「闘う戦士(もの)たち」への讃歌とも言える作品となっている。
■映画「空飛ぶタイヤ」(2018)
■公開:2018年6月15日
オールスターキャストとも言える出演陣
■出演:
長瀬智也・・・赤松徳郎(赤松運送社長)
深田恭子・・・赤松徳郎の妻・赤松史絵(ふみえ)
笹野高史・・・宮代直吉(赤松運送専務)
寺脇康文・・・高幡真治(港北中央署刑事)
小池栄子・・・榎本優子(週刊潮流記者)
柄本明・・・野村征治(野村陸運社長)
木下ほうか・・・ホープ自動車
大倉孝二・・・高嶋靖志(赤松運送)
浅利陽介・・・柚木雅史(事故被害者の夫)
谷村美月・・・柚木妙子(事故被害者)
佐々木蔵之介・・・相沢寛久
六角精児・・・谷山耕次(赤松運送整備課長)
近藤公園・・・長岡隆光
升毅・・・巻田三郎
木下隆行・・・益田順吉(自動車ディーラー)
田口浩正・・・平本克幸
津田寛治・・・濱中譲二
ほかにも多数。
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