「人生スイッチ」(原題:スペイン語: Relatos salvajes, 英語 Wild Tales、2014)を見た。アルゼンチンでは、歴代No.1ヒット作品と言われ、ブラックが効きすぎて、クセになりそうな映画だ。お下劣シーンも多く、見る人を選ぶ作品だが・・・。
アルゼンチン、スペインの合作で、監督はアルゼンチンのダミアン・ジフロン。キャリアは浅いようだが、オリジナル脚本を書く監督でもある。製作が、監督として有名なペドロ・アルモドバルである。
★感想:とてつもなく面白い映画を見てしまった!★
6編のショート・ストーリーは、約20分ほどの長さだが、どれも面白い。
つい口から出た言葉が、とんでもないことになる。
オムニバス映画で「おかえし」「おもてなし」「パンク」「Happy Wedding」 などの各話は額面通りではなく、まったく真逆の意味である。一筋縄ではいかない作品ばかりだ。
日本のやくざが「お礼はたんまりとさせてもらう」という場合の「お礼」がこの映画の「おかえし」(=復讐)と思えばいい。”10倍返しだぁ!”といったものに近い。
タイトルの意味は、人間に不幸のスイッチというのが仮にあったとして、それを押してしまったら、不幸の連鎖が起こりどんどんと最悪の不幸まで落ちていくということ。
”他人の不幸は蜜の味”という言葉もあり、他人の不幸をみるのは楽しいものという性(さが)もあって、その意味では、ブラックとはいえ、痛快極まりない映画ではある。
どのエピソードも強烈だが、特に、第3話は壮絶を通り越して、ことばも出ない。
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これから見ようとする人は、できれば以下はスルーしてください。
(詳細は書いていないので、自由ですが・・・。)
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第1話:「おかえし」
飛行機に乗った乗客のひとりにイサベル(マリーア・マルル)という女性がいた。通路を挟んで、横の男がなにかと話しかけてきた。すると共通の人物の名前が上がってきた。その名前を聞いて斜め前の中年女性も、その人なら教え子だという。
あるひとりの名前に、乗客全員が反応した。
しかも、その人物に対してだれもいい印象を持っていなかった。
実はそのある人物が、無料で航空券をそれぞれに送り付けていたのだった。その目的こそ、想像を絶する”おかえし”が待っていたのだった。
「一体何が起こったんだ」と不安そうな乗客たち。
第2話:「おもてなし」
あるレストランに一人の男がやってきた。対応したウエイトレスは、その人物に見覚えがあった。忘れもしない、やくざのとんでもない男で、田舎の自分の母親を誘惑しようとしたり、ロクでもない男だった。市長候補になっているとかで、2枚のポスターのどちらがいいかなど、横柄な態度だった。
「あんなろくでなしには猫いらずを盛ってやればいいんだよ」
店の年増の料理人の女は、刑務所の経験があるとかで、料理に「ねこいらず」を入れて食べさせてしまえとそそのかす。躊躇するウエイトレスを無視して、実行してしまう。ちょうどそこへ男の息子も合流して、猫いらずの入った料理を食べてしまう。
息子も男も腹の具合がおかしくなってきたので、ウエイトレスは、料理を温めるといって、持ち去ろうとするが、それが気に障ったのか、ウエイトレスに殴りかかってきた。そこで、年増の料理女は、ナイフを取り出して、男の脇腹を何度もグサり・・・。
第3話:「パンク (エンスト)」
高級車でハイウエイを走っていた男・ディエゴ(レオナルド・スバラーリャ)の前に、おんぼろ車が走っていた。男が追い越そうとすると、わざと前をふさぐように邪魔をしてきた。
男は、スキをみて、追い越していくが、そのときに、おんぼろ車の男・マリオ(ワルテル・ドナード)に向かって、「くそったれ」といい、中指を立てたポーズを示した。相手の男は「ナンバーは覚えたぞ。絶対に見つけ出しやる」と叫んでいた。やれやれと思った男の車が途中でパンクしてしまう。スペアタイヤもあって、念のため自動車修理会社に電話し現在地を知らせた。
そこに、おんぼろ車の運転手がやってきて、高級車のガラスに物をぶつけたり、威嚇してきた。男は、言いすぎた、謝るといっても一向に手加減しなかった。
おんぼろ車は、高級車の前を自分の車でふさいで動けないようにしていた。おんぼろ車男は、高級車のボンネットに乗り、ズボンを下ろして尻を出し、「大」を車の全面ガラスに吹きかけたり、「小」をふっかけたりと散々なことをした。高級車の男は、我慢の限界を超え、車を発進し、前のおんぼろ車を崖っぷちまで押していき、崖の中腹まで車を落下させてしまう。
車で逃げようと準備していると落下した車からドアをこじ開けて、逃げようとする車の中に乗り込んできて格闘が始まる。そしてその車も、おんぼろ車の上に落ちてしまう。おんぼろ車男は、車に男を首つりにして、車にガソリンをまき、燃やそうとした。
そこへ車の修理のトラックがやってきたが、崖ぶちの車は炎上していた。警察がやってきた。車の中には丸焦げになった人間が二人並んでいた。性別さえ識別できなかった。警官の一人が言う。「痴情のもつれですかね」。
第4話:「ヒーローになるために」
ビルを爆破する職人の男・シモン(リカルド・ダリン)は娘の誕生日のためにケーキを買った。ところが、わずかな時間の間に車は、レッカー車で運び去られていた。
何と、3回も車を持っていかれたのだ。黄色い駐車禁止地区ではなかったと主張しても、役所では聞く耳を持たなかった。支払いを済ませたが、車は渋滞に巻き込まれてしまう。
ケーキを買っている間に車をレッカー車で持っていかれた男 (「瞳の奥の秘密」など日本でも知られるリカルド・ダリン)
途中で、家に電話をかけ、何度も遅れると電話をした。
誕生パーティには、十人くらい来ていて、奥さんからは「もう客は帰るからいい」といわれる始末。あるとき、男は車のトランクに何か詰め込んでいた。そして喫茶店で、車がレッカー車に運ばれるのを見ていた。4度目だ。レンタカー会社が実は、レッカー車でお金儲けをしていて、その利益の一部が政治家に還元されているらしいのだ。
レンタカー会社で、次々に車が運び込まれてくる。運転手などがにやついていると、敷地の向うのほうで、大爆発が起こった。
4度、レッカー車に持っていかれた男がダイナマイトを仕掛けておいたのだ。この男シモンは工場のエンジニアで、不要工場の爆破などの専門家だった。
第5話:「愚息」
サンティアゴという息子が酒帯運転で、身ごもった女性を引いてしまった。家に帰ってきて「大変なことをしてしまった」と泣きじゃくる。
父親は、お抱えの使用人がいて、弁護士と相談して、使用人が車を運転していたということにして、検視官、弁護士にお金を握らせて解決しようとした。テレビでは、ニュースで「ハンドルを握った殺人鬼」と大々的に報道されていた。しかも身ごもった女性は亡くなった。
足元を見た弁護士は、顧問料以外に特別の仲介料を出せと欲が出てきた。検視官、弁護士が法外な要求をしてくるので、この話はなかったことにするといいだす。息子に、正直に話してもらう・・・と。
それでは弁護士などは話が違うと報酬を下げてきたが・・・。
結局、話し合いがついて、使用人が身代わりになり、フード帽をかぶって、警察の車に乗ろうとした時、怒り狂った市民の一人が、ナイフでフード帽男の横腹を何度も刺してきたのだった。
第6話:「Happy Wedding」
結婚披露宴は、盛り上がるはずだった。花嫁ロミーナが出席者のテーブルの遠くのほうの視線の先に、夫アリエルが親しそうに話をしているロングヘアの女が見えた。
あとで夫に問いただす。「あのロングヘアの女はだれ。寝たのか」と何度もくいさがって聞くと、白状して「寝た」と返事。怒り狂った花嫁は、会場を後にしてビルの屋上に。そこに中年男で休憩中のシェフが現われる。
「これからどうするか、わかったでしょう。会場に戻って、家に帰る。離婚する」だった。わずかな会話だが、心が静まって、その男と屋上で関係を持ってしまう。そこへ探しに来た夫アリエルが現われる。
マザコン気味の女々しい姿を見せる新郎だが、金もあるし、仮面でもいいか・・・と思ったか新婦。
花嫁ロミーナは、ゲス野郎には「毎日男をとっかえひっかえしてやる」というと、ゲス女めと「ゲス対決」の大喧嘩になるが、とにかく会場へ戻る。
アリエルが、謝罪して、ロミーナに手を差し伸べると、なんと二人は踊りだし、結局、元のさやに納まった。招待客たちは、しらけたのか、帰り始めてしまう。
こんな映画あるのか。「アリエール!」。
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この映画の評価などを見ると賛否両論があるようだ。
また、結婚式を控えているカップルは見てはならない、というコメントもあった。
確かに、すべてが不幸のどん底に陥る話。
日本で昨年の今頃公開された時には、専門館かミニシアター系で公開された。タイトルだけ見ると、何か元気をくれそうなタイトルあるいはポジティブな意味にとられそうだが、相当えげつない、それでいて面白い映画だ。
☆☆☆
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