「砂の器」(1974)が公開されたときには、東京の松竹セントラルという劇場で
観たが、感動して、"すばらしい映画を見た"という充実感でいっぱいになった。
黒澤明監督も、松竹・大船に ”野村”(芳太郎監督)というすごいのがいると、
一目を置いていたと聞いたことがある。
原作者の松本清張は、「映画が原作を上回った」とまで賞賛。
テレビでも何回か、渡辺謙の今西刑事役の主演のバージョン、音楽家にSMAP仲居を配した
シリーズなどがあったが、オリジナルの映画版には、及ばなかったようだ。
野村監督は、すでに名作として、数々の作品を生み出していた。
・ 宮本武蔵(1973)
・ 影の車(1970)
・ 暖流(1966)
・ 五瓣の椿(1964)
・ 拝啓総理大臣様(1964)
・ あの橋の畔で 第3部(1963)
・ あの橋の畔で 完結篇(1963)
・ ゼロの焦点(1961)
・ 張込み(1958)
・ 伊豆の踊子(1954)
などである。
・北陸の地(新潟県)で、母が去り、父と子がなぜ、生まれ故郷を捨て、巡礼の旅に出たのか。
・命の恩人をなぜ殺害しなければならなかったのか。
・"宿命”の音楽とともに、さまざまな場面が蘇る名作の1本である。
・人生とは、"砂で築いたような、はかない器のようなもの”なのか。
昭和の時代の、紛れもない傑作の1本として、記憶に残る。
個人の日本映画のランキングをつけるとすれば、黒澤明監督作品と
並ぶ日本映画トップ5の地位は不動だ。
ストーリー展開が、絶妙。
国鉄(現JR)蒲田駅・引込み線周辺で殺人事件が起こるが、前夜、被害者ともう一人
の連れのトリスバーでの会話「カメダは、相変わらずですか」の会話を聞き取った、
ウエイトレスの証言だけが唯一の手がかり。
さまざまな徒労、紆余曲折の末、犯人までたどり着くプロセスがすばらしい。
主演は、犯人を追い詰める刑事役に丹波哲郎、らい病の父
と共に放浪の末、苦学して、音楽家として成功を収める犯人に加藤剛、
父・子の命の恩人ともいえる巡査役に緒形拳、らい病患者で、
父親役の加藤嘉 、など名優が脇を固めている。
子役も、すばらしかった。ほかに、島田陽子、渥美清、森田健作、山口果林
父親と息子の絆。息子が大成して、病気で隔離された父と会うことはできず、音楽の中でのみ、
父親に会うことができたのだった。”宿命”のテーマ曲が圧巻。
映画が一転して、フラッシュバックされ、
父と子の流浪の旅の場面
に切り替わるところは、何回見ても、ハンカチが必要となる。
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四季を美しく映し出し、そこに「宿命」(という曲)をかぶせながら見せるところは本当に
素晴らしい。圧巻は加藤嘉(かとうよし)の演技。
丹波哲郎が、合同捜査会議の席上で、犯人と父親の現状について言及する場面で、
思わずハンカチで、目をおおうシーンは、胸に迫るものがある。 丹波の名演だ。
野村芳太郎監督の「砂の器」以降の主な作品:
・ 復活の朝(1992)
・ 危険な女たち(1985)
・ ねずみ小僧怪盗伝(1984)
・ 迷走地図(1983)
・ 疑惑(1982)
・ 真夜中の招待状(1981)
・ 震える舌(1980)
・ わるいやつら(1980)
・ 配達されない三通の手紙(1979)
・ 鬼畜(1978)
・ 事件(1978)
・ 八つ墓村(1977)
・ 昭和枯れすすき(1975)