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映画「関心領域」(原題:THE ZONE OF INTEREST、2023)を見る(MOVIXさいたま)。

映画「関心領域」(原題:THE ZONE OF INTEREST、2023)を見る(MOVIXさいたま)。マーティン・エイミスの同名小説を原案に、第2次世界大戦下でアウシュビッツ強制収容所に隣接する屋敷で暮らす家族の平和な生活を描く。

ナチスドイツ親衛隊(SS)のアウシュビッツ収容所の隣に住む所長一家の生活を描きながら戦争、残虐なシーンが一切なく「見せない」ことで想像させる恐怖を描く。

監督はジョナサン・グレイザー。出演はクリスティアン・フリーデル「落下の解剖学」のザンドラ・ヒュラー、ラルフ・ハーフォースら。

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冒頭の数分間「オ〜オ〜オ〜」という抑揚のない合唱と伴奏の音だけが鳴り響く。やがて画面は完全にブラックアウト。小鳥のさえずりがかぶっていく…。観客にあえて聴覚に集中するよう促すような導入部。

いい加減不気味な音が3分間ほど続くと、暗い画面にタイトル文字が現れて、ようやく川原で家族がピクニックをしている実写の風景が現れ、本編が進行していく。

川や森に囲まれたプール付きの豪華な家。子供たちは川で泳ぎ、カヌーボートで渓流でカイを漕ぐ。ある時、川の水のなかに入っていた一家の主ルドルフ・ヘス(クリスチャン・フリーデル)が何かを発見して手に持った。

ヘスは家族全員に川から出るように告げると、家で体中をゴシゴシ、ゴシゴシと洗う。説明はないが、家の隣の焼却された何かであるようだ(毒ガスに汚染されたユダヤ人の歯型か?)。

ときどき、冒頭の音のような不吉で不気味な音楽が全編に流れる。
この家の壁の隣には、煙突があって、時々黒煙が出ている。それは、焼却炉から燃え上がる煙であり、何千という単位で持ち込まれる「荷」(=ユダヤ人をこう表現する)を焼却するアウシュビッツ収容所であることが明らかになっていく。

壁一つ隔てた隣の家で平和に暮らす家族。その家族の長がアウシュビッツ収容所の司令官ルドルフ・ヘスだった。

ルドルフが、家族で食事中に、息子の誕生日や、結婚記念日には参加できない可能性があると告げる。ルドルフに異動命令があったのだ。

           「異動が決まった。昇進だ」

「私は子供たちとここに残る。どうしてもというなら引きずっていくしかないわね」

この異動について、少し時間がたってから妻に伝えたところ、妻は猛反対。「あなた一人で行けば。私は子供たちとここで生活する」と言い張るのだ。

「私を連れて行くというなら、腕ずくで引きずっていくしかない。17歳の時からの夢の生活だ」というのだ。

ルドルフは、やや気が弱い性格か、妻の意見には逆らうことができず、自身の後任者が来ても現在の家は妻子が住み続けること、自身の異動先の住居は質素なものでいいという条件を約束してくれるように本部に手紙を送るのだった。

 

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冒頭のゴーゴーという音は、どうやら焼却炉が燃える音らしい(町山智弘の解説)。ルドルフ・ヘスの屋敷に一時的にやってきた母親が、家の使用人の女性について聞くと、地元のユダヤ人だと応えていた。

この使用人マニエラのルーティーンは、掃除や食事の準備のほか、ルドルフの飲み物の準備などうつむき加減に目立たず黙々とこなす姿が印象的だった。

母親が突然いなくなると、ルドルフの妻ヘ―トヴィヒは、発狂したように使用人のマニエラに当たり散らすところがすさまじい。

この映画のホラーのような怖さは、決して直接見せない怖さ。隣の建物で起こる阿鼻叫喚の叫び声や「早くしろ!」「来い!」といった怒号や「リンゴを奪ったな。さっさと出せ!」「川へ連れていけ!」と命令する声が聞こえる。

 

   妻ヘ―トヴィヒ・ヘスの大袈裟な作り笑いに一応耳を傾けるルドルフ

<あらすじ・ストーリー>
第2次世界大戦下のポーランドオシフィエンチム郊外。空は青く、誰もが笑顔で、子どもたちの楽しげな声が聞こえてくる。そして窓から見える壁の向こうでは大きな建物から煙があがっている。アウシュビッツ収容所の隣で幸せに暮らす家族がいた。

物語の主人公はルドルフ・ヘスクリスチャン・フリーデル)。アウシュビッツ収容所の所長。彼は妻ヘ―トヴィヒ・ヘス(ザンドラ・ヒュラー)と5人の子どもたちとともに、収容所から塀一枚隔てた土地に建つ瀟洒な一軒家に暮らしている。

たくさんの草花が生い茂り、よく管理されたヘス家の美しい庭の向こうには、有刺鉄線が巡らされた塀越しに収容所の見張り塔が覗いている。

抜けるような青空の下、塀の向こうからは得体の知れない重機の音にまじって、銃声や悲鳴が引っ切りなしに聞こえてくる…。

アウシュヴィッツ強制収容所を囲む40平方キロメートルは、ナチス親衛隊から関心領域と呼ばれた。

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<キャスト>
ルドルフ・ヘスクリスティアン・フリーデルアウシュビッツ収容所司令官。人事で昇格があり異動を命じられる。
■ヘートヴィヒ・ヘス:ザンドラ・ヒュラー…ルドルフの妻。恵まれた環境での生活に満足。夫に異動命令が出たが、現在の生活環境に執着する。
■オズヴァルト・ポール:ラルフ・ハーフォース
■ゲルハルト・マウラー:ダニエル・ホルツバーグ
■アルトゥール・リーベヘンシェルサッシャ・マーズ
■エレオノーア・ポール:フレイア・クロイツカム
■リンナ・ヘンセル:イモゲン・コッゲ

第76回カンヌ国際映画祭でグランプリに輝いたほか、第96回アカデミー賞で5部門にノミネートされ「国際長編映画賞」(日本の「パーフェクト・デイズ」が同時にノミネートされたが退けた)と「音響賞」を受賞した。

この映画は好みで賛否が分かれそう(個人的には映画自体が面白みに欠ける)。

終盤、リアルなアウシュビッツ収容所(現在は博物館として公開)のシークエンスが挿入されるが、その前の、ヘスが吐き気を催す場面があった。階段で移動した後、何度も立ち止まったのは、何か思うところがあったようだ。

大量殺戮を指揮したルドルフ・ヘスが、本当は吐き気を催すほどの気持ちがあったということか。

反転したモノクロ映像が時折流れるが、ユダヤ人のメイドが、収容所にリンゴを置いていったもの。

また、ルドルフが「ヘンゼルとグレーテル」の話を子供に読み聞かせるシーンは、「甘い誘いに乗って魔女の罠にかかってしまったヘンゼルとグレーテル。美味しい話には裏がある」ということが教訓と言われるが、魔女をユダヤ人に見立てているようだ。

 

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