「ラストレター」(2020)を見る。監督は「リリイ・シュシュのすべて」(2001)「花とアリス」(2004)など青春映画の佳作が多い岩井俊二。「ラストレター」も主人公の高校時代の初恋から20数年後の同窓会の再会をきっかけにした2つの時代の物語を描く。
主演は松たか子、福山雅治。共演は広瀬すず、森七菜、豊川悦司、中山美穂、神木隆之介など。松たか子の抑えた演技が圧巻。後半登場する豊川悦司が仕事もしないとんでもない暴力ダメ男を演じている。
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夫と子供と暮らす岸辺野裕里(松たか子)は、姉の未咲(みさき)の葬儀で未咲の娘・鮎美(あゆみ、広瀬すず)と再会する。鮎美は心の整理がついておらず、母が残した手紙を読むことができなかった。
裕里は未咲の同窓会で姉の死を伝えようとするが、未咲の同級生たちに未咲本人と勘違いされる。そして裕里は、初恋の相手である小説家の乙坂鏡史郎(おとさか・きょうしろう、福山雅治)と連絡先を交換し、彼に手紙を送る。
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スマホの時代で、手紙の存在が小さくなっているが、手紙も情緒があっていい。
高校時代に美人でマドンナ的存在だった姉・未咲と間違われた裕里だったが、未咲に想いを寄せていた鏡史郎を遠くから憧れで見ていた裕里との関係が高校時代と現在と並行して描かれている。
小説家を目指していた鏡史郎の小説のタイトルは「未咲」で、書籍化された唯一の本だった。
同窓会の後、見知った顔である乙坂鏡史郎(福山雅治)が裕里(松たか子)に話しかけてきた。「話をしたかったので追いかけてきた」と鏡史郎は言い、飲みなおさないかと誘われるが、ここでも正体は明かさず連絡先だけを交換して別れる。その後「25年間、ずっと愛していました」とのメッセージが届くが「オバサンをからかわないでください」と返信する。鏡史郎は、未咲の死を知らなかったのだが、裕里が未咲でないことは知っていたことが後から分かる。
帰宅後、夫の宗二郎(庵野秀明)から同窓会の様子を訊かれ「姉に間違われたけれど訂正できずにスピーチまでさせられた」と話し、風呂へ入る。
その時、ダイニングテーブルに置いた裕里のスマホに鏡史郎からの通知が届き、文面を読んだ宗二郎は浮気だと誤解して風呂場で裕里を問い詰め、その拍子にスマホが湯船に沈んでしまう。
スマホが使えない間に鏡史郎からの連絡が来ていたのではないかと考えた裕里は「夫があなたからのメッセージで浮気を疑いスマホを壊されたので、もし何かメッセージを送っていても読めていない」と手紙を書き、自身の住所は書かずに未咲の名前で投函する。こうして手紙のやりとりが続くのだが・・・
「ラストレター」は、亡くなった未咲が、娘の鮎美に残した封書だった。その封書の中の手紙とは、意外なものだった・・・。
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青春時代の初恋が後の何十年もの間、ひとりの男の人生に影響していたというのも驚き。その男と、初恋の相手の娘との出会いなど細やかに描かれている。広瀬すずと森七菜が高校時代と、現在のそれぞれの娘役の両方を演じているのも面白い。一見の価値ある映画だった。