冒頭、英語で、事実に基づくという字幕が出る。
明治、大正、昭和という激動の時代を舞台に、大胆な発想や行動力で大事業を成し遂げていく男の姿を描いた、実話ベースの百田尚樹の小説を岡田准一主演で映画化した人間ドラマ。「ALWAYS 三丁目の夕日」シリーズや「永遠の0」の山崎貴監督が、焼け野原の東京を再現したVFXを駆使した映像で、その時代をリアルに映し出し物語を盛り上げている。
「永遠の0」で日本アカデミー賞では最優秀作品賞、監督賞、主演男優賞(岡田准一)など主要部門を独占したが、今回も賞レースに絡んでくるのは間違いなさそうだ。特に主演の岡田准一は主人公の国岡鐵造(モデルは出光興産創業者の出光佐三)の20代から90代までを声、風貌、演技とまったく違和感がなく演じて、驚きだ。
30代(34歳)でこの大役を務めることになる岡田准一は、三船敏郎やレオナルド・ディカプリオら名優の演技を参考にし、監督とのカメラテストを何度も行ったという。そのかいがあり、周囲からも60代にしか見えないと評価される演技を完成させた。
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玉音放送が響く中、銀座歌舞伎座裏に奇跡的に焼け残った国岡商店ビルから聞こえる鐡造の声。「愚痴をやめよ、戦争に負けてすべてを失おうとも日本人がいる限りこの国は再び立ち上がる。日本は石油を求め、石油をめぐる戦いに敗れた。今後この国が復活するためには石油が必要になる。だからこそ我々が働かなければならない」
主要燃料が石炭だった時代から、石油の将来性を予感して石油業に邁進してきた鐡造は、戦後、石油の販売ができない時にも誰一人クビにすることなく、ラジオ修理などあらゆる業種に仕事を見出しながら店員たちを鼓舞。
GHQや官僚的な石油公団にも屈することなく独自の経営哲学とその行動力により、石油販売網を拡大していくのだった。だが、やがてアメリカ石油資本のメジャーは鐡造を警戒し敵視するようになり、その圧倒的な包囲網で国岡商店の石油輸入ルートはすべて封鎖されてしまう。
そんな八方塞がりの状況の中、鐡造は国岡商店の至宝である「日承丸」をイランに送ろうとしていた。しかし、イラン石油を輸入することは英国を完全に敵に回すことでもあった。
英国の圧力により貧困にあえぐイランと自らを重ね合わせ、既得権益にあぐらをかく米英らメジャーとの本当の意味での戦いに突入する国岡商店。果たして、日承丸は英国艦隊の目をかいくぐり無事に日本に帰還することができるのか(MovieWalker)。
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国岡鐡造は、店員(従業員)からは、社長でなく「店主」と呼ばれる。
GHQの占領下の元、政府・官僚は、国策として、石油なども米国メジャーなど大手しか相手にせず、商店のようなちっぽけな業者は門前払いだった。国岡商店の店主・鐡造は、持ち前のプラス思考で一歩も引かず、メジャーが相手にしないのなら、とイランへ出向き石油の買い付けに打って出る。
店内では、唯一のタンカー「日承丸」が万一英国軍に捕獲されたら、今後仕事ができなくなり、リスクが大きすぎる博打(ばくち)に等しいという声が上がった。鐡造は「イラン行きが博打というならこれまでの仕事のすべてが博打のようなものだ」と決断は揺るがない。
店内には、鐡造以下の意気込み、気概を示す力強い言葉が歌のようにこだまする。
「国岡(くにおか)のもんや、石油持ってきたけ!」
鐡造の最初の妻となったユキ(綾瀬はるか)が、なぜ家を出てしまったのか、置手紙で明らかになるが、数十年の時を経て、ユキが亡くなって残した遺留品の中に鐡造に関連したものがあると届けに来た若い女性(黒木華)から見せられたものとは・・・。ユキは女性にとって大祖母(おおおば)だという。死期が迫った90歳代になった鐡造が、ユキが残したものを見て嗚咽するラストシーンも見どころだった。
原爆が投下されるシーンは、一口に原爆と言っても小さく分散された爆弾が投下され、家屋などが次々に破壊されていくシーンなどは強烈な印象を残す。
日承丸の船長・盛田辰郎(堤真一)は、英国が実質支配している戦場に飛び込むほどのイラン行きとなるが、一度戦争を体験した元復員兵と共に行先をイランに切り替えるのだが、「店主が行けと言うところに行くだけです」という気概と職務に対する男気を見せつける。
実はその前に国岡鐡造(岡田准一)は、盛田辰郎(堤真一)に対して「アバダンに行ってもらえないだろうか」と打診する。盛田は二つ返事で「はい、わかりました」と答える。鐡造は「イランのアバダンだぞ」と念を押す。盛田は「アバダンというところはイラン以外にないでしょう。店主が行けというところに行くのが、私の仕事です」というのだった。その後、アバダンから成果をもって帰国した盛田を出迎えた鐡造は、盛田の肩をたたいて「よくやった」とねぎらうと「行けと言われて、行って帰ってきたまでです。」といった会話だが、信頼関係が感じられた。
GHQの英語の通訳をしていた武知甲太郎(鈴木亮平)も、国岡商店の魅力に取りつかれたのか、商店の一員となる。国岡鐡造が「どうしてうちなんかに?」と聞くと、「どうしてでしょうね」と苦笑いでお茶を濁していたが・・・。鐡造という人物の生き方に惹かれたのではないか。
石油の販売会社でありながら、石油の輸入が途絶えた一時期、畑違いのラジオの修理も手掛けていたという事実も初めて知り興味深かった。