スペシャルドラマ「侵入者たちの晩餐(ばんさん)」(1月3日放送)を見た。脚本はバカリズムで、演出は水野格と「ブラッシュアップライフ」による再タッグのサスペンスドラマ。エンタメ要素満載。
放送前に公表されていた簡単なあらすじは「家事代行サービスで働く平凡な女たちがある理由で豪邸に侵入するサスペンスドラマ」だった。
ところが、このドラマ、一筋縄ではいかない展開が待っていた。例えればミルフィーユの構造。ストーリーが新たな登場人物によって見え方が何層にも重なってくる。
”バンテージ・ポイント”(同名タイトルの映画を見ている人は判る)的に新たな登場人物たちによって、その見え方がガラリと変貌していくのがバカリズム脚本の醍醐味で何層にも入り組んだドラマの面白みが次々に伝わってくる。バカリズム脚本の会話劇も面白い。
第1章「経緯」第2章「侵入」第3章「後味」第4章「清掃」第5章「料理」から章建てで進み、第14章「人形」を経て、最終章「晩餐」へと着地する。
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豪邸に住む家事代行サービス会社「スレーヌ」社長の奈津美(白石麻衣)。この会社の従業員・亜希子(菊地凛子)は、社長の奈津美が推定3億円もの脱税をしているのではないかという情報を小耳にはさむ。
亜希子は、社長が豪勢に暮らしているのに自分たちは安い給料でこき使われ、劣悪な労働環境に不満を抱いているバツイチ一人暮らし。
脱税しているお金がタンス預金として奈津美の自宅に隠されているはずと思い、その隠し金を奪ったとしても訴えられないと考え、同僚の小川恵(平岩紙)と恵のヨガ教室の友人でサスペンスドラマが好きな江藤香奈恵(吉田羊)に「盗み」を持ち掛ける。
恵らは、泥棒はどうかと迷うので、奪ったお金の半分は、慈善団体に寄付をすれば、人助けになるという論理で、納得させるのだった。
奈津美が1週間旅行に出かけるというので、出かける前に、奈津美のマンションの合いかぎを作って侵入することにした。
奈津美がいない間に合いかぎでマンションに入り、部屋中のあらゆるところを探すが見つからず、奈津美に対する感謝状が目に飛び込んできた。それは、寄付に対するお礼の感謝を示すものだった。
奈津美は、脱税をするような人物ではなく感謝される人間だと思い、自分たちの浅はかさを悔いて、マンションを出ることにする。
そのころ、配達員の男が、以前から目をつけていたマンションの前に来ると、住人の不在を確認して、外の塀からマンションの4階までよじ登っていく。すると、なぜか窓の鍵が開いていて中に入ることができた。
マンションから出た亜希子ら3人は、マンションに戻って、せめてもの気持ちを示すために部屋の掃除をしようと引き返すのだった。もう一人の侵入者がいることなどつゆ知らずに…。
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第4章「清掃」では、豪邸に引き返した3人だったが、流れが徐々に変わっていく。もともとこぎれいな部屋だったが、汚れが溜まる窓の桟(さん)や、磨きをかければきれいさがわかる水道の蛇口やトイレの裏側などを丁寧に拭いていった。
第5章「料理」では、恵が冷蔵庫を開け賞味期限が近い余り物で料理を作り出すのだ。最初は、料理を作って、冷蔵庫に取り置きをしようと考えたが、それでは、侵入者がいたことを示すだけなので、3人で食べることにした。
第6章「呼吸」では、香奈恵がなんとソファーの上でヨガを始めるのだった。
第7章「美食」では、肉を料理するのにブランデーを使ったという恵。恵によると、度数が高いほど肉が柔らかくなるのだという。
第8章「重松」では、もう一人の侵入者・重松(池松壮亮)と3人が鉢合わせになる。この辺りはサスペンス要素で盛り上がる。3人に取り押さえられた重松は、両手両足を縛られ、ガムテープで口をふさがれてしまう。何ともトホホな姿。
第9章「潜伏」では、香奈恵がある写真を発見。奈津美と一緒に映っているのは香奈恵の元夫だった。離婚した元夫の浮気相手が奈津美だったとは。
そんな時、奈津美がまさかの帰宅。旅行というのは1週間先のことで、エステから戻ってきたのだった。夫を寝取られた奈津美に刃物を向ける香奈恵だったが、もう一人侵入者がいた。
その侵入者・毛利(角田晃広)が刃物を持った香奈恵を後ろから羽交い絞めにする。
奈津美も仰天する。香奈恵がどうやってこの家に侵入したのか、コンシェルジュの毛利がどうしてここにいるのか…。
第12章「毛利」で、何層にも入り組んだドラマの面白みをやっと理解することになる。
侵入した3人と、泥棒、アイドル時代のファンというコンシェルジュの5人に対して、奈津美は警察に訴えることはせず、「もういいよ」と5人の侵入者を穏便に済まそうとする。
第13章「藤咲」は、大どんでん返しがある。藤咲奈津美は、実は脱税した3億円ものお金を現金ではなく、あるものに変えていたのだった。もし訴えると、警察、国税などが徹底的に部屋を捜索して、探し出すことは明らかだと考えたのだ。
国税の家宅捜索が入って観念する奈津美
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菊地凛子、平岩紙、吉田羊といった、いずれも一癖ありそうな女優の共演が見どころだった。加えて、不憫ながらズル賢い重松を演じる池松壮亮。誰からもキモいといわれる毛利の角田晃広。初のヒール役・奈津美を演じる白石麻衣。
バカリズムが“豪邸侵入系ヒューマンサスペンスコメディー”と命名したとおりの展開となった。
<主な登場人物>
■田中亜希子:菊地凛子…家事代行会社「スレーヌ」の清掃スタッフ。
■小川恵:平岩紙…家事代行サービス会社「スレーヌ」の料理スタッフ。亜希子とは知り合い。ヨガ教室講師。料理が得意。
■江藤香奈恵(かなえ):吉田羊…恵のヨガ教室の友人。夫の浮気で離婚。
■藤崎奈津美…白石麻衣…家事代行サービス会社「スレーヌ」のCEOで元グラビアアイドル。豪邸の持ち主。実は脱税を隠していた?
■重松洋介:池松壮亮…秘密を抱えた配達員。会社が倒産。借金があり、利子の返済がやっとで、配達先の豪邸をターゲットに泥棒に手を染める。
■毛利貴弘:角田晃広…奈津美が暮らすマンションのコンシェルジュ。キモイ人物とみられている。
■刑事:野間口徹…亜希子を取り調べた刑事。
■荒井秀治:勢登健雄…香奈恵の元夫。奈津美の不倫相手。
■国税職員:日下部千太郎…奈津美のマンションに家宅捜索に入る。
■弁護士:角南範子…夫の不倫相手を訴えようとした香奈恵を止める。
■アナウンサー:渡邉結衣(日本テレビアナウンサー)…藤崎奈津美が脱税で逮捕されたニュースを伝える。
晩餐はコロッケでもよさそうなほどうまそうだった。
「Netflix」で鑑賞。
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