不倫による生命保険金殺人を取り上げた倒叙型サスペンスの先駆であり、その後の多くの映画・テレビドラマに影響を与えた。倒叙というのは、物語が現在から過去に移っていくもので、すべてが終わってしまった後に主人公が告白するモノローグ形式で進行する。
「郵便配達は二度ベルを鳴らす」などの作家ジェームズ・M・ケインの小説を「皇帝円舞曲」のビリー・ワイルダーと「見知らぬ乗客」のレイモンド・チャンドラーが脚色、ワイルダーが監督。”ワイルダー監督に凡作なし” で、とにかく引き込まれ面白い。
主演は「スピード王(1950)」のバーバラ・スタンウィックと「ジャバへの順風」のフレッド・マクマレイで、「飾窓の女」のエドワード・G・ロビンソンが共演。
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深夜のロサンゼルス。フル・スピードで走ってきた車がパシフィック保険会社の前で止まり、肩をピストルで射ぬかれた勧誘員ウォルター・ネフ(フレッド・マクマレイ)がよろめきながら下りてきた。
ネフは会社の自室に入り、テープレコーダーに向かって上役バートン・キース(エドワード・G・ロビンソン)に宛てた口述を始めた――。
数カ月前、ウォルターは会社に自動車保険をかけているディートリチスンを訪ねたが不在で、夫人のフィリス(バーバラ・スタンウィック)に会った。
翌日フィリスはウォルターのアパートを訪れ、夫を殺してそれを事故死と見せ、倍額保険を取ろうともちかけた。足を怪我したディートリチスンは、近く開かれるスタンフォード大学の同窓会へ汽車で行く予定だった。
最初は当惑するウォルターも、フィリスの肉体の魅力に負けて、ついに計画を手伝う破目になった。保険に入ろうとしないディートリチスンからサインを詐取して保険証書を作った2人は、犯行当夜のアリバイを作って実行に入る。
ディートリチスンと同じ服装をしたウォルターは、フィリスの運転する自動車に忍び込み、車に乗った彼を撲殺。代わって松葉杖をつきながら汽車に乗った。展望車に乗り合わせた男がいなくなったすきをついて汽車から飛び降り、自動車で先回りしていたフィリスとディートリチスンの死体を線路に運び、松葉杖を置いて立ち去った。
計画は的中し、ディートリチスンは過失死と認められた。
だがただひとり、キースが死因を怪しんで調査を始めた。そしてディートリチスンの娘ローラ(ジーン・ヘザー)の恋人ニノ(バイロン・バー)に嫌疑がかかり、ローラも行動を監視され、ウォルターはディートリチスン家に近づけなくなった。
ハラハラさせるシーンもある。
ひそかに連絡をとってフィリスと会っているうちに、ウォルターは次第に不安を感じ、ある夜いらいらした気持ちでフィリスと会ったとき、ついに2人の間に争いが起こりフィリスはウォルターを撃つ。ウォルターはピストルを取り上げ彼女を射殺した。
・・・ウォルターの告白が終わったとき、キースが入ってきた。彼にとっては信頼するウォルターであったが、殺人の罪は裁かれねばならない。キースは受話器をとり、警察に電話をかけた(MovieWalker)。
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この映画では、見所が多いが、主人公のネフ(フレッド・マクマレイ)と、上司で勘の鋭いバートン・キース(エドワード・G・ロビンソン)のタバコを吸うシーンがハイライト(タバコだからハイライトというシャレではないが)となっている。
キースがタバコを取り出して、いつもポケットを探るシーンが出てくる。その度に、ネフが、火のついたマッチを差し出すのだ。火のついたマッチを受け取ってタバコに火を付けるという場面が少なくとも5回以上あった。ネフが毎度のことなので、「マッチはタバコ屋にあるよ」というと、キースは、「ポケットに(マッチを)入れておくと爆発するからな」という返事だった。最後には、あの「さらば友よ」のようなタバコに火をつけるシーンも登場する。
主演のバーバラ・スタンウィックは、フレッド・マクマレイ扮する保険セールスマンをそそのかして夫殺しを手伝わせる人妻役で、それまでのイメージからは想像も出来ないようなファム・ファタール(運命の女、危険な女)を演じて、3度目のオスカーにノミネートされた。1944年度のアメリカの女優の最高所得者となった。人柄の良さでも知られ、うるさ型の女優が多いこの業界で男優からもスタンウィックとの共演を望む声が多かったという。
エドワード・G・ロビンソンは、ギャングの親分などの役が多いが、この映画では、保険金申請に対して、どんな不正も見逃さないという鋭いカンで目を光らせる猛者の役だった。自分の中に、”小さな男”というのが潜んでいて、保険金受け取り詐欺などの可能性があると、その小さな男がそれを知らせるのだという。いかなるトリックもこの男には通じないようだ。
主な出演者:
■ウォルター・ネフ - フレッド・マクマレイ: 保険外交員。
■ジャクソン - ポーター・ホール: ディートリクスンが死亡した事件の証人。
アカデミー賞では、作品賞、監督賞(ビリー・ワイルダー)、主演女優賞(バーバラ・スタンウィック)、脚本賞(レイモンド・チャンドラー、ビリー・ワイルダー)、撮影賞 (白黒部門)、録音賞、作曲賞(ミクロス・ローザ)の7部門でノミネートされた。
文句なしの傑作だ。
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