園子温監督の「ちゃんと伝える」(2009)を見た。
園子温監督というと、この映画の後に撮った「冷たい熱帯魚」などに代表されるように、過激でエロ・グロ・バイオレンスのイメージが先に立つが「ちゃんと伝える」は、まったく静かにゆったりと流れる映画で、日常を淡々と描いているのが意外だった。
病床の父親を見舞うサラリーマンが、自らも病に冒され、父親よりも余命が短いことを知り、残された時間をどう生きるべきか葛藤するドラマ。人気グループEXILEのパフォーマーとして活躍中のAKIRAが初の映画の主役に挑み、過酷な運命を受け入れる青年を演じている。
主人公が人生の終わりに体験する、家族や友人、恋人など大切な人々との心の触れ合いが観る者の胸を締め付ける。
(AKIRA)だったが、ある日、自らの体も病に冒されていたことを知ってしまう。父親・徹二(奥田瑛二)より病状は悪く、父親より余命が短い可能性が高いという不測の事態に襲われた史郎は、家族や恋人・陽子(伊藤歩)のことを思うばかりに、そのことを誰にも言えずにうろたえてしまう。
地元タウン誌の編集部で働く史郎は、高校サッカー部の鬼コーチとして知られた父が突然倒れ、病院に運ばれたと知り動揺する。厳格だった父との間に少なからぬわだかまりを抱え距離を置いてきた史郎だったが、以来毎日のように病室に足を運び、互いに心を開いて話し合うようになる。
そして、元気になったら一緒に湖に釣りに行こうと約束する。
ところがその矢先、史郎自身がガンを告知され、父よりも長く生きられないかも知れないと宣告されてしまう。父を気遣い、母・いずみ(高橋恵子)や恋人の陽子(伊藤歩)にさえもそのことを打ち明けられない史郎だったが…。
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同じシーンが、あとから繰り返して描かれるスタイルで、「セミの抜け殻」の意味、父の葬式の途中で、父を棺から出して、あるところに連れて行くという行為の意味などが、見るものに、ずしりとのしかかってくる。
徹二が、食事の最中に、あれっと、窓のほうに歩いていく。
徹二は独り言のようにつぶやく。
「ちゃんと伝えているよな。俺もちゃんと伝えないとな」と。
「何?どうしたの」と台所でいずみの声がする。
「ちゃんと伝えないとな」と徹二がもう一度つぶやく。
いずみは、息子の史郎が、毎日ばたばたと忙しく、朝晩の食事も一緒に取らないので、「あなたから史郎にもちゃんと伝えてよ、一緒に食事をするようにって」。
この映画では、親子間、恋人同士、医師と患者など、様々な場面で”ちゃんと伝える”ことが大切だということがテーマとなっていた。
家族でも友人でも、職場でも、ちゃんと伝えることは簡単なようで、なかなかできていないのが我々凡人だが・・・。日本人は、とかくちゃんと伝えるのが苦手だが、外国などでは、ことばに発して、伝えたことだけが初めて相手に伝わると考えたほうがいいようだ。