「ある男」(2022)を遅ればせながら見る。第70回読売文学賞を受賞した、平野啓一郎の同名小説を映画化したヒューマンミステリー。明るさが全くない、ネクラ映画で、とにかく暗い映画。
ネットなどではなりすましというのがあるようだが、この映画も、暗い過去の自分を捨てて、他人に成りすまして人生を再出発しようとする人物を追う弁護士が、複雑な心理状態に追い込まれる話。
日本アカデミー賞で、主要部門を独占したように、2022年の最大の話題作の1本だったが、とくに俳優が見どころ。作品賞、監督賞のほか、主要な演技部門では、妻夫木聡が最優秀主演男優賞、窪田正孝が最優秀助演男優賞、安藤サクラが最優秀助演女優賞を受賞した。
とくに、名わき役の”トップ2”ともいえる柄本明とでんでんがいい。囚人役の柄本明の不気味で底知れぬ怖さと迫力は迫るものがある。面会に来た弁護士に「(弁護士風情が)あんた、何もわかっちゃいない」と凄むシーンはゾクゾクさせられる。
でんでんは、ボクシングコーチの役が檄はまり役でよく似合っている。主演の妻夫木聡は、弁護士役とエリート的な役だが、ラストシーンは考えさせられる余韻を残している。窪田正孝は、一見つかみどころのないような人物「ある男」で3役を演じ分けている。
清野菜名がなかなかいい。
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弁護士の城戸(妻夫木聡)は、以前依頼者だった里枝(安藤サクラ)に、事故で亡くなった夫の“大祐”の身元調査を相談される。
里枝によれば、疎遠だった大祐の兄(眞島秀和、厭味ったらしい役は秀逸)が、法要で遺影を見て別人だと告げたという。“ある男”の正体を追う城戸の胸には、真実に近づくにつれ複雑な思いが芽生える。
ラストシーンの「私は…」は、ある意味衝撃…。
ヒッチコックの交換殺人というのはあったが、戸籍交換屋なる人物がいるとは驚き。しかも1回のみならず2回も…。偏見や差別も描かれる。在日三世の弁護士城戸に対して、妻の母親は、「三世なんだから日本人よね」というのもきつい。城戸は苦笑いするしかない。
妻との間にはいつしか隙間風が吹き、スマホの履歴で妻の浮気を知ってしまう城戸が、戸籍を変えた元の人物「X」(=ある男)を調べるうちに、その気持ちは理解できると複雑だが共鳴してしまうような着地点だった。
「蜜蜂と遠雷」の石川慶監督がメガホンを取り、妻夫木聡、安藤サクラ、窪田正孝、清野菜名、眞島秀和、小籔千豊、柄本明、でんでん、など多くの演技派俳優が出演。
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