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「名作に進路を取れ!」…映画とその他諸々のブログです。

映画「ヒルビリー・エレジー 郷愁の哀歌」(原題:Hillbilly Elegy、2020)を見る。エイミー・アダムス主演。

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ヒルビリー・エレジー 郷愁の哀歌」(原題:Hillbilly Elegy、2020)を見る。監督は「ラッシュ/プライドと友情」「ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー」のロン・ハワード。ラストベルトの白人労働者家庭のドラッグと暴力にまみれた子供時代を回想したベストセラーの映画化。

主演は「メッセージ」のエイミー・アダムス。共演は、久しぶりに見る気がする「危険な情事」のグレン・クローズ。この二人のすさまじい怪演ともいえる演技が見どころでアカデミー賞候補になりそう。

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ヒルビリー」って何かなと思ったら、アメリ中南部アパラチア山脈地方の人たちを「山人、山の地方の人」といった意味でヒルビリー(ズ)というらしい。山の音楽がヒルビリーと呼ばれた時代もあったようで、ロックンロールと融合すると「ロカビリー」となる。なるほど。

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映画は麻薬に依存する母親の元で希望のない少年時代を過ごした主人公が、名門大学のロースクール進学のチャンスを掴むが、ある事情で就職を控えて故郷に戻る必要が生まれ、そこで辛い少年時代の自分と向き合う覚悟を決める、というストーリー。

主人公の少年時代の1997年当時と、現在(2011年)が同時に描かれる。主人公は子供のころは、近所の悪ガキたちからいじめにあったり、母親からも暴力を受けた。警察沙汰になっても、子供は「母からの暴力はなかった」とかばうが、母親の薬物中毒依存症は直らなかった。祖母も亡くなったが、主人公は、家族の再生に取り組み、ついには母親も現在までの7年間、一切の薬物にかかわらなくなった。

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サブタイトルに「郷愁の哀歌」とあり、メロドラマ風と誤解しそうだ。映画は、家族が崩壊しそうな中で、主人公が祖母の言葉や行動により、再生にチャレンジして行く。原作本のタイトルは、「 A Memoir of a Family and Culture in Crisis」(家族の思い出と危機に直面する文化)。

原作者の祖母の出身地は、ケンタッキー州で古き良きアメリカの暮らしがあった。そこには、開拓時代から受け継がれた助け合いの精神が今も生きている。

しかし、家族は石炭産業の繁栄につられてオハイオ州に移住、次第に産業が寂れ失業者も続出。麻薬や暴力の問題が蔓延する場所に生きることになった。

そこにはかつてあった人々のつながりは薄れ、日々の不満だけが渦巻き、そんな社会を作り出したのは金満主義の政治や財界であり、かつての米国人が持っていた寛容さや共同体の意識は失われ、成功することだけが社会の目的と化しているというのが根底にある。

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薬物から抜け出せずに、半狂乱の演技を見せるエイミー・アダムスがこれまでの役柄とまったく違った一面を見せる。役作りで、別人のようにかなり太っている。救いようがないほど、精神を病んでいる。

 

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その母親で主人公の祖母を演じるグレン・クローズは「危険な情事」は怖かったが、この映画では、家族の中でもっともまともに現実を見ている。

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     祖母(グレン・クローズ、左)

家族を救うのはお前しかいないと子供である孫(主人公)に期待する。それに応えようともがく姿も描かれる。この映画の一般的な評価は低いようだが、演技達者な女優を見るだけでも価値がある。