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「名作に進路を取れ!」…映画とその他諸々のブログです。

映画「グッバイ、ゴダール」(2017)を見る。

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グッバイ、ゴダール」(原題:Le Redoutable、2017)を見た。フランス・ヌーベルバーグの巨匠ジャン=リュック・ゴダールの性格や考え方、人物像を知るには打って付けの作品。

ゴダールの2人目の妻、アンヌ・ヴィアゼムスキーによる自伝が原作。実話という仮面に隠された愛憎劇をユーモアタッチで描いている。

監督は「アーティスト」(2011)でアカデミー賞作品賞に輝いたミシェル・アザナヴィシウス。アンヌを演じるのは「ニンフォマニアック」で衝撃的なスクリーンデビューを飾ったステイシー・マーティンミュウミュウのフレグランスの広告塔を務めるなどでも注目を集める女優だ。ゴダールを演じるのは、名優ルイ・ガレル。ルイの父は映画監督のフィリップ・ガレル

当時「勝手にしやがれ」「軽蔑」などを撮ったあと、ゴダールはどんどんと政治闘争へ身を投じていき、ついには物語の前半で「商業映画との決別宣言」をする。フランス人にとっては、この映画はシュールでコメディと捉えられているようだが、ゴダールとアンヌの史実を元にした映画でカリスマ監督と駆け出し女優のラブ・ストーリーでもある。

 

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 パリで暮らす哲学科の19歳の学生でゴダールの2番目の妻となるアンヌ(ステイシー・マーティン)のナレーションで始まる。

「彼(ゴダール)の将来は前途洋々。世界が彼を尊敬していた。ジャン・ルノワールフリッツ・ラングストーンズまで誰もが彼の才能を認めた”ヌーベルバーグ”の申し子ジャン=リュック・ゴダール。映画の概念を変えて男だ。野放しの独創性が放つ魅力。予期せぬおかしさで裏をかく。物語をずらし 政治を語る面白さ。つまり若さと自由だ。最初は彼が私を意識し、次第に私も尊敬と」愛を抱いた。10年前に映画を革新した男は私の人生をも大きく激変させた。今の彼は自分の改革へと浸走る」

アンヌは20歳を前に人生を変える出会いを果たす。映画界に変革をもたらしたとされ、世界中から注目される気鋭の映画監督ジャン=リュック・ゴダールルイ・ガレル)と恋に落ちる。

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さらに彼の新作「中国女」(1967)で主演を飾ることになった。これまでになかった、新しい仲間たちと映画を作る刺激的な日々やゴダールからのプロポーズなどなど、生まれて初めての体験が続く。

アンヌはあらゆるものを夢中で吸収して魅力的な女性になっていく一方で、パリの街ではデモ活動が日に日に激しくなり、社会も変化の兆しを見せる。

ゴダールは次第に革命に傾倒していき、そしてついに1968年の五月革命の勃発を期に、二人の関係も様相を変えていくのだった。

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ゴダール語録とも言えるような言葉が随所に登場する。ゴダールに、映画ファンを名乗る男が質問を投げかけると「映画は死んだ。君は生きているゾンビだ」カメラ目線で「”俳優はバカだ”と言えるのが俳優だ」「映画に夢を求めるなんてヘドが出る」などとそれまでの自身の映画を全否定したりするのだ。

また五月革命のさなか、クロード・ルルーシュ、フランソワ・トリフォーらと「カンヌ映画祭」を中止に追い込んだりした。映画は、小さな小見出し(章)分けされていて、「毛沢東はちんぷんかんぷん」「政治に参加せよ」「マオで全てが明確」「軽蔑ピエロ」など。

ベルナルド・ベルトリッチ監督との意見の衝突も描かれた。これについてはゴダールはあとから、謝っておきたいとフォローするシーンもある。壁の落書きで「ゴダールは中国のクソ・スイス人だ」と書いてあるのを見たゴダールとアンヌのシーンが、突然モノクロネガフィルムに反転してしまう。しばらくネガのシーンが続き、カラーとモノクロが交互になる。

映画のタイトルの「グッバイ・ゴダール!」は、原作者で妻だったアンヌの言葉だがその決別の時が最後に描かれる。

お互いに会話を交わしているのだが、表面的な言葉と、腹で思っていることとの違いが、二重で字幕に出る。

女優の道を進みたかったアンヌに対して「向こう側に行った、女優なんてくだらない」と突き放すのだ。涙を見せるアンヌにさらに「女は泣けばすむと思っている。ワケがあるなら信用する」と。

ゴダールが読んでいた本のタイトルは「一触即発」「暴力戦法」「ひと荒れするぜ」「欲望と渇望」「逆境」等だった。ちなみにアンヌは「怒りの葡萄」を読んでいた。

「エピローグ」では、自殺未遂をしたゴダールは一命を取り留める。毎朝、格闘しているという。映画を無視して革命に生きるか。革命を諦め映画を取るか。仲間たちから「政治か映画か」の二択を問われ、多数決に従うとしたゴダール。最後に再びナレーション。「いつ脱線したのだろう。ゴダールも、ジャン=リュックも死んだ。答えはない」

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商業映画への決別と同じタイミングで、作品に「ジャン=リュック・ゴダール」の名前を冠することをやめ「ジガ・ヴェルトフ集団」を名乗って活動をおこなった(1968年-1972年)。ソビエト映画作家ジガ・ヴェルトフの名を戴いたこのグループは、ゴダールマオイスト政治活動家であったジャン=ピエール・ゴランを中心とした映画製作集団。ゴダールが再び商業映画に復帰したのは1979年の「勝手に逃げろ/人生」。1980年代のゴダールは「パッション」「ゴダールのマリア」「カルメンという名の女」などの話題作を次々に発表した。

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主な出演者:

ジャン=リュック・ゴダールルイ・ガレル - 映画監督。

アンヌ・ヴィアゼムスキーステイシー・マーティン - 現役大学生の若手女優。

ミシェル・ロジエベレニス・ベジョ - ファッションジャーナリストでデザイナー。

ジャン=ピエール・バンベルジェ: ミシャ・レスコー - ミシェルの夫。実業家。

ミシェル・クルノーグレゴリー・ガドゥボワ - ゴダールの友人の映画評論家で映画監督。

ジャン=ピエール・ゴラン: フェリックス・キシル - 若い雑誌編集者。ゴダールの仲間に。

ジャン=アンリ・ロジェ: アルトゥール・アルシエ - ゴダールの仲間になる若者。