直参旗本・早乙女主水之介(さおとめ もんどのすけ)を主人公とする痛快時代小説。昭和4年(1929年)4月の「文芸倶楽部」に初登場し、以後11作が発表された。サイレント時代から昭和中期まで30本映画化され、テレビドラマとしても何度もリメイクされている。
第一回作品の「旗本退屈男」は、映画初登場の無声映画で、無声映画時代のフイルムで現存するのはこの1本だけだという。フイルムはマツダ映画社が所蔵していて、第713回無声映画鑑賞会の「第29回澤登翠リサイタル」の中の3本上映のうちの1本。
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映画の上映前に楽団(カラード・モノトーン)による演奏があった。
これが感動!なんとあの”ニューシネマ・パラダイス”の音楽でスタートしたのだ。
ピアノ、ヴァイオリン、フルート、パーカッション、楽長などの演奏だが、見に来て良かったと思った瞬間だった(笑)。2曲目は原節子、佐野周二主演の「お嬢さん乾杯!」(1949)だった。3曲目は美空ひばりの「港町十三番地」(1957年リリース)だった。
澤登さんは「歌うつもりはなかったが、楽団の楽長から、歌ってみては、と言われて得意ではないが歌うことにした」という。弁士は、声優のようなしごとの一方で、ミュージカルスターのように歌うのにも驚き。
澤登さんが「旗本退屈男」について概略を説明する。
「この映画は1930年(昭和5)の作品で、今日いらっしゃている方々が誰も生まれていません」と言うと場内から、笑いが起こった。1930年生まれというと、87歳になるわけで、さすがに会場にはいないようだった(笑)。俳優・女優で言えば、高島忠夫、岸田今日子、中谷一郎、監督では深作欣二などがこの年の生まれだ。
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幕間に、売り子が「御煎(おせん)にキャラメル」と座席まで売りに来たのもびっくり。250円で、袋には「キャラメル」1個ととせんべいが入っていた。40数年前までは、映画館や、駅などで聞いたことはあるが・・・。
サイレント映画の時代の雰囲気を味わってもらおうというのか、「最後の5個です。
1個です」と女性がアピールした成果もあって完売だった(笑)。
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戦前・戦後期の時代劇スターとして活躍。同時代の時代劇スターである阪東妻三郎、大河内伝次郎、嵐寛寿郎、片岡千恵蔵、長谷川一夫とともに「時代劇六大スタア」と呼ばれた。歌舞伎役者から映画俳優となり、美剣士役で人気を得た。当たり役の「旗本退屈男」の早乙女主水之介(さおとめ・もんどのすけ)で、30本のシリーズ作品を生み出している。1966年に引退。映画主演総数は300本を超える。
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「旗本退屈男」(1930)は、額に三日月の傷があり、決め台詞は「この眉間に冴ゆる三日月形は天下御免の向こう傷、直参旗本早乙女主水之介、人呼んで旗本退屈男」。後の水戸黄門の葵(あおい)の紋章や「月光仮面」の三日月のようなものの原点かも知れない。
物語は盗人を捕らえてみたら、前に悪事を働いていた男と分かり、主水之介が「この三日月に身をぼえがあるだろう」というもの。原作は佐々木味津三、監督は古海卓二。出演は市川右太衛門、大江美智子など。上映時間は15分。
1964年に開館した。