映画「カツベン!」(2019)を見た。MOVIXさいたま(初日9:00~)。監督は「Shall weダンス?」(1996)の周防(すお)正行で「舞妓はレディ」(2014)以来5年ぶりの作品。
主演は「スマホを落としただけなのに」の成田凌とテレビドラマ「時をかける少女(2016)」の黒島結菜。映画初主演の成田とヒロインを健気に力強く演じた黒島のコンビがすばらしい。主演2人の子供時代を演じた子役も自然で印象に残る。
共演には、竹中直人、渡辺えり、小日向文世をはじめとする周防作品おなじみのキャストに加えて、永瀬正敏、高良健吾、井上真央、音尾琢真、竹野内豊といった実力派俳優が脇を固める。
映画は、今からおよそ100年前の大正時代、映画(活動写真)がまだサイレントでモノクロだった頃を舞台に、楽士の奏でる音楽とともに独自の“しゃべり”で物語を作り上げた活動弁士=通称“活弁”(カツベン)を夢見る青年・染谷俊太郎(成田凌)を主人公に、日本映画の未来を夢見た人々の群像を描いている。
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時は大正4年(1915年)、芝居小屋では「活動写真」(後の映画)が上映されていた。場面は、チャンバラ劇。見学できるのは木戸銭(見物料)を払った大人だけ。そんな中に、木戸銭を払わずに、小屋の裏のわずかに開いた小さな隙間から出入りして、映画を見ていた少女・梅子と、そのあとを付いてきた少年・俊太郎がいた。
俊太郎は、駄菓子屋の主人が居眠りをしている間に「キャラメル」を盗んで、梅子のおかげで映画を見られたからと「キャラメル」を手渡した。梅子にとっては初めてのキャラメルだった。梅子は、あるとき「蜘蛛」が着物について、俊太郎に助けてもらう。梅子は蜘蛛だけは苦手だったのだ。俊太郎は、活動弁士のものまねが得意で、梅子に将来は何になりたいかと聞いた。梅子は「笑わないで聞いて欲しいが女優になりたい」と答えるのだった。
それから10年後、大正末期。
100年以上続く映画館「青木館」では、複数の活動弁士たちがほかのライバルの映画館の引き抜きにあって、活動弁士が不足してしまった。一番人気の茂木貴之(高良健吾)がいて、喋りの途中で流し目を使って、女性たちの人気は絶大だったが、辞めたいという。人気活動弁士が映画を支えているといってもいいほどで、活弁がいないことは死活問題だった。昔一世を風靡した活弁の山岡秋声(永瀬正敏)がいたが、毎日酒浸りで、頼りにならなかった。そんな時、活動弁士を目指す若き青年が小さな町の映画館に流れ着いた。この青年は、染谷俊太郎(成田凌)だった。俊太郎は泥棒からカバンの持ち逃げをしていて、警察や大金を持ち逃げされた泥棒たちから追われていたので、「青木館」の館主に頼み込んで住み込みの仕事をすることになった。弁士の降板で代わりに弁士に立った俊太郎は絶賛を浴びることになった・・・。
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映画ファンにはたまらないようなシーンの連続。映写機を扱う技師は、活動弁士のセリフに合わせて、映写機を手動でハンドルを回すのだ。慣れたもので、ものを食べながら足で回すこともできる!(笑)。お気に入りのフイルムだけを集めて箱に保管もしていた。ある可愛い女優がでているフイルムは時間の空いている時に見ているのだ。
外国のサイレント映画や俳優などへのオマージュ、引用も多い。主なものだけでもサイレント映画「椿姫」(1921)セシル・B・デミルの「十誡」(1923)エルンスト・ルビッチの「結婚哲学」(1924)。さらにサイレント映画のオリジナル「南方のロマンス」や1920年代に何度も映画化された「金色夜叉(こんじきやしゃ)」や「不如帰(ほととぎす)」、役者ではチャールズ・チャップリン、早川雪洲などの名前が出ていた。
フイルムが火災でほとんど消失。別に貯めていたフイルムをつなぎ合わせて映画に。ある意味では「ニューシネマ・パラダイス」にも通じる。
面白さという点では、今年の邦画のNo.1映画だ。「大正キャラメル」が登場するが、これは「森永ミルクキャラメル」(1899年発売)だろう。「青木館」のライバル映画館である「タチバナ館」の館主である橘重蔵の娘・琴江(井上真央)から「幸せとはなんだ?」と聞かれた梅子(黒島結菜)は、少し考えた末に答える。「幸せとは○○○○○です」と。
活動写真時代の撮影風景で、天気が曇ると撮影は中止。役者たちはそのままの体勢で、晴れるまで待つ。晴れると「1・2・3~」と再スタート。
無声映画で、弁士が語り、少人数ながら楽団の楽器演奏者が数人で音楽を奏でるのは、現在のシネマライブのようでもある(笑)。
■主な出演:
染谷俊太郎:成田凌
本作の主人公。活動弁士を夢見て、ある小さな町にやってきた青年。
栗原梅子:黒島結菜
俊太郎の初恋の女性。女優を目指して奮闘する。
山岡秋声:永瀬正敏
映画館「青木館」に所属する活動弁士。
茂木貴之:高良健吾
山岡と同じ映画館に所属する活動弁士。
永尾虎夫:音尾琢真
大金を狙う泥棒。
浜本:成河
俊太郎が働いている「青木館」の映像技師。
梅子の母親:酒井美紀
無声映画「南方のロマンス」ヒロイン:シャーロット・ケイト・フォックス
本作のために作られた無声映画である「南方のロマンス」のヒロイン。
お宮:上白石萌音
アルマン:城田優
無声映画「椿姫」の登場人物。
マルギュリット:草刈民代
無声映画「椿姫」の登場人物。
映画監督。二川文太郎とともに日本映画の黎明期を支えた。
二川文太郎:池松壮亮
映画監督。日本映画の黎明期を支えた無声映画演出のパイオニア的存在。
青木富夫:竹中直人
山岡や茂木が所属する映画館「青木館」の館主。
青木富夫の妻。
橘琴江:井上真央
「青木館」のライバル映画館である「タチバナ館」の館主である橘重蔵の娘。
橘重蔵:小日向文世
映画館「タチバナ館」の館主。
木村忠義:竹野内豊
ニセ活動弁士逮捕に執念を燃やす警察関係者。
監督:周防正行
脚本・監督補:片島章三
音楽:周防義和
エンディング曲:奥田民生「カツベン節」
【蛇足】
「カツベン!」を見たあと、「カツ弁当」にかけて「和幸」の一番人気「ひれかつ御飯」を食べた。お気に入りのトンカツで美味しかった(890円)。