アラン・ドロン主演の「パリの灯は遠く」(原題:仏-Monsieur Klein、英-Mr.Klein 1976)を見た。原題のミスター・クラインが、この映画の「核」となっているが、邦題を「パリの灯は遠く」としたのは引き込まれ、いいタイトルかと思う。
1976年度のフランス・セザール(アカデミー)賞作品賞、監督賞、美術賞を受賞。

出演はアラン・ドロン、ジャンヌ・モロー、シュザンヌ・フロン、ミシェル・ロンダール、ジュリエット・ベルトなど。ドロンが40歳の時の作品で、もっとも円熟期だったかもしれない。ジャンヌ・モローは、後半に数分登場するだけで、やや残念。
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1942年3月、ドイツ軍占領下のパリ。独身の美術商ロベール・クライン(アラン・ドロン)にとって、この時代の方がむしろ商売になる。
ロベールはユダヤ系の人々が手放す先祖伝来の美術品を安く買いたたいてはもうけていた。その朝もロベールのアパートに男が美術品を売りに来る。愛人ジャニーヌ(ジュリエット・ベルト)をベッドに残し、取引するロベール。
そして、その人間とまちがわれて自分がユダヤ人として登録されたら・・・、ロベールを襲う不安な焦燥。そんなある日、一通の手紙が届いた。
恋人との約束をうながす口説き文句。事実を知ろうとしたロベールは、手紙の指示通り汽車に乗り、郊外へ向かう。そしてある城へと案内された。そこは晩さん会。
ロべールは疑惑の中、身の潔白を証明するため、父の元に急いだ。
父はカトリック系、母はアルジェ生れの、共にフランス人。彼は友人の弁護士ピエール(ミシェル・ロンダール)に証明書類の作成を依頼する。
しかし、アルジェもドイツ占領下のため手続きは困難を極めた。
不安の日々は続く。ついに警察の手入れでロベールは全財産を失ない、ジャニーヌまでもがロベールから去って行った。「きっと奴(=別のロベール・クライン)を探し出してやる!」。

彼はある貴族に名を変え、執拗に追跡を始める。汽車の中で偶然に別のロベールを知っている女に出会うロベール。このことをピエールに電話で知らせ、彼がアパートに帰った時は、もう1人のロベールは警察に連れ去られた後だった。
通報したのはピエールだった。6月16日、朝、パリのユダヤ人大検挙が行なわれた。
郊外に集められた人々。中にロベールもいた。

郊外に集められた人々。中にロベールもいた。
「ロベール!」氏名を発表するアナウンスに、ロべールはわが目をうたがった。何と、もう1人のロベールが挙手しているのだ。しかし人波はゆれた。
出生証明を手にしたピエールの声を後に、ロベールも人混みの中をもまれていく。そしてアウシュビッツ行き収容列車に乗り込んだ時、ロベールの目前でその扉は重苦しく閉ざされた(MovieWalker)。
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医者が全裸で小太りの中年女性の身体を検査している。身体の一部に”ユダヤ人的な”特徴がないか、一人一人チェックされていたのだ。口の中の歯から、アゴ、頬骨の骨格、目などそれこそ隅々までチェックされ、ハダカで歩く姿まで検査されるのだ。
本人がアルメニア人と称しても、先祖がユダヤ系の可能性があるかまでが対象となる。その女性が検査が終わって、衣類を着て出てくると、やはり検査を終わった夫が待ち構えていた。「結果は?」と聞く夫に「大丈夫、何も」と答える女性だが、その態度から不安げな雰囲気が漂う。そうした疑わしき人物たちの長蛇の列。
主人公の「ミスター・クライン」も、当局の調査対象となる。
両親は生粋のフランス人なのだが、その”人種”について、祖父母の出身証明を要求されるという徹底ぶり。映画は、ユダヤ人差別を描いたものというよりも、むしろ、もし自分自身が命にもかかわるような人物と間違われたら・・・という恐怖を描いたサスペンスといえる。
街の店のウインドウには「ユダヤ人おことわり」の文字が見える。
映画は、やや眠気をもよおすようなシーンも多く、中ダレ感があるのと、説明不足もあって、今一つすっきりしないという消化不良の印象もある。ドロンのイメージであるフイルム・ノワール(暗黒映画)の雰囲気からは離れ、イマイチ感はぬぐえない。
ドロン映画の中では、マイナーな部類に属する映画かもしれない。
ロベール(ドロン)が、顔なじみの新聞売りから新聞を買うと、そこには、名前も知らぬ犬がいた。この犬が、ドロンの行くところどこまでもついていくのだが、「来るな!」と足蹴りにして追い払っても、ついにはドロンのアパートまで。
いつの間にか、ドロンの飼い犬になってしまうのだが、ドロンが列車に乗るときに、おそらく二度と戻らないかもしれないので、見送りの友人に「一つだけお願いがある。この犬を大事に引き取ってくれ」とリードを渡し、託すのだ。”忠犬ハチ公”のようなこのワンコの運命は・・・。
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