町の仕立て屋と常連客たちとの織りなす日々を描いた池辺葵の同名人気コミックを実写映画化。祖母が始めた小さな洋裁店を継いだ2代目の店主・市江を主人公に、洋裁を通してとりまく人々との交流を描く。地味な映画で、ミニシアター系で公開された。
時代が移りゆく中で祖母の意思を受け継ぎ「一生添い遂げられる服」にこだわって、女性でありながら”頑固ジジィ”と揶揄されながらも、その人だけの服を作り続けていく。
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神戸の街を見渡す坂の上にある仕立て屋「南洋裁店」。
祖母が作った服の仕立て直しやサイズ直しをし、祖母のデザインを流用した新作を作る日々に、市江は十分満足していた。しかし、自分がデザインしたドレスを作りたいはずという藤井の言葉が、市江の心を動かす・・・。
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母親(余貴美子)からは「洋裁以外は何もできないんだから」と言われると「夢見る洋服を作っているんです。生活感を出してたんるもんですか」と言い返すのだ。デパートの企画担当の藤井(三浦貴大)からは「もったいない。オリジナルのデザインでブランド化にすればビジネスになる」と勧められるも断り続ける市江(中谷美紀)。
市江が、先代である祖母のデザインを踏襲して、それを全うしていくのには理由があった。年に一度、南洋裁店が主催する「夜会」というイベントがあり、これには南洋装店で仕立てられた洋服を着て年配者など(原則30歳以上の参加が許される)が参加しダンスパーティが開かれる。
長年の仕立て品の愛好家の年配者が言う。
「服が人に寄り添って作られている。二代目になっても先代を寸分たがわず服を作ってくれる。十年、二十年と連れ添ってくれる。これ以上の幸せは無いよ。」
この言葉を聞いた藤井(三浦貴大)は、「きょう、わかりました。そのままでいい。変わらなくてもいい」と市江に告げた。一方、百貨店での洋服のリフォームの仕事は激減。藤井は、自ら会社に移動を申し出て、東京の家具部門に転勤してしまう。
百貨店の衣服のリフォーム部門を請け負う橋本テーラーの橋本店主が「いずれ廃止になる部門なので、看板を下ろしてもいいと思っている」と市江に言うと「引導を渡されるまでは逃げ出さないでください。私はそれが仕立て屋だと思っています」と引き留めるのだった。
夜会の出席者の孫の女子中学生たちに、「一生着られる服を作るよりも、仕立て直しを作るのは難しい。祖母のような、いえ、祖母を超えるような存在になっていきたい。今生きている人には、私しか作れないのですもの。私にあなたたちのドレスを作ら瀬てください」と、市江自身のオリジナルのデザインの洋服を作る決心をするのだった。
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地味であっても、印象に残るシーンやセリフは多い。
サンパウロというコーヒー店が登場する。市江はそこの常連。いつもチーズケーキを注文している。ある時、コーヒー店の店主に「このチーズケーキ、味が変わりました?」と聞くと「いえ、創業以来一度も変わっていません」という返事が返ってきた。市江は「そうですか」とつぶやいたが、その時に洋装の仕立ても同じと感じたのか。変わらぬ伝統を守るべきと思ったのか・・・。
藤井は、市江のブランド立ち上げの説得に足しげく通うが、そこでは市江の母・広江から毎回、ダンゴを出される。ダンゴのくしだけ残っていると、「藤井さん、まだいたの」と市江から言われることも。広江には内緒で、藤井は「実はダンゴは嫌いなんです」と市江に言うところがおかしい。
南洋裁店の客が亡くなり近所の人たちが霊柩車を見送るシーンがモノクロになったり、主人公がミシンで縫う作業をしている後姿だけでとらえたりするシーンも印象に残る。
映画のラストでは、黒木華が、藤井の妹役で出ているが、幼い頃に怪我をして車いすに依存。兄から市江のことをかねがね聞いていて、ウエディング衣装を市江に依頼すると、「ぜひ作らせてほしい」と市江。市江が、オリジナルを手掛けると決めた瞬間だった。
主な出演者:
脚本:林民夫
音楽:小林洋平 (作編曲家、サックス奏者)
撮影:阿部一孝
配給:ギャガ
このチーズケーキを市江がうまそうに食べるシーンがあるが、レアチーズケーキを食べたくなる?(笑)。
映画は物語の起伏に欠け、全体的に単調。ドラマ性がほしいところ。
★★
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