「グッドモーニングショー」(2016)を見た。MOVIXさいたまにて。
先入観で、コメディ映画かと思ったが、やや違っていた。コメディ要素もあるものの、ワイドショーやテレビそのもののあり方などを問うメッセージのある映画だった。
お気楽映画と思っていたが、意外と骨のある映画だった。
特にキャスターと犯人(立て籠もり犯)の迫真のやり取りなどでは胸が締め付けられる場面もあった。
報道、スポーツ、芸能、さらにファッション、グルメや人気動画まで、視聴者が興味を持つものなら何でもネタにするのがワイドショー。
そのワイドショーの顔であるキャスター澄田真吾(中井貴一)が次から次へと降りかかる災難に翻弄されるワイドショーのキャスターを演じ、その波乱の一日を描くコメディ。同僚女子アナからの告白、番組打ち切りの危機、立てこもり事件の現場取材など、度重なるピンチに挑む男の奮闘をつづる。主人公に迫る勘違い女子アナを長澤まさみ、立てこもり事件の犯人を濱田岳が演じる。
テレビ・ニュース、報道業界の裏側を描いた作品は、アメリカ映画などには多い。古くは「ブロードキャストニュース」(1987)から最近の「ニュースの真相」(2016)まであるが、日本映画では珍しい。
単なるドタバタコメディにならなかったのは、人質を取り、立てこもり犯に扮した濱田岳の怪演ともいえる一人芝居の演技。立てこもった動機、その目的などが明かされていく。足元に爆弾を準備し、ライフル銃を所持。一触即発の緊迫した状況での濱田岳のセリフや動きは、あの「狼たちの午後」のアル・パチーノをも連想させた。
澄田真吾(中井貴一)は、朝のワイドショー「グッドモーニングショー」のメインキャスター。かつて報道番組のエースキャスターだったが、ある震災現場からの現場リポートが世間から非難を浴びて番組を降板。(そのシーンの真相が後に明かされる。)
以来、現場からのリポートが怖くてできなくなり、同期入社のプロデューサー石山聡(時任三郎)に拾われ今に至っている。ある日、いつものように深夜3時に起床した澄田は息子と妻・明美(吉田羊)の言い争いに巻き込まれる。
逃げるようにテレビ局に向かう途中、今度はサブキャスターの小川圭子(長澤まさみ)から連絡が入り、二人の交際を今日の生放送で発表しようと迫られる。彼女は澄田と付き合っていると勘違いしているらしい。放送中のタイミングを見て、澄田が発表しないなら、自身で”暴露”をもくろんでいたのだが・・・。
”放送事故”になりかねないシーン。
さらに石山からは番組の打ち切りが告げられ、新番組への登板もないことも伝えられ、踏んだり蹴ったりの事態に意気消沈するばかり。そんな中、都内(品川区大崎)のカフェに銃を持った男(濱田岳)が人質を取って立てこもっているという速報が飛び込んでくる。
芸能ゴシップや政治汚職、行列スイーツ特集を押しのけ、立てこもり事件をトップのネタに番組はスタートするが、その直後、立てこもった犯人が、澄田を現場に呼べと要求していることが分かる。
現場での過去のトラウマもあり困惑して拒否する澄田だったが、警察からの依頼を受けた石山からの命令、番組視聴率のため、そして圭子の暴露から逃げ出したいために澄田は現場へと向かうのだった。
やがて、防弾チョッキにカメラとマイクを仕込ませたワイドショーのキャスターが、銃と爆弾を持った犯人と向き合うという前代未聞の生放送が始まった・・・。
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前半は、キャスターである主人公が朝の3時に目覚めてから本番までを、ディテール豊かに描いていくが、あさ6時くらいからの報道ニュース番組では、その前の1時間~1時間半くらいは、報道の順番、V(=VTR)の挿入、テロップの手配、CMの挿入、ニュース原稿の下読み(練習)などてにゃわんやの状況。
テレビ局内部の現場がリアルに再現されていて、カメラの裏側が興味深い。
報道・情報番組などでは、各紙の一面トップページが壁に貼られているシーンがあるが、新聞にはアイロンをかけ、その日の話題の順番を決めるため、無駄のない打ち合わせなどがリアルに映し出される。
出演者が読むカンペの文字サイズ、フォントから出し方、さらにここで”テロップの発注”といった言葉が飛び交う。この映画のワイドショー番組の臨場感が出せせたのは、スタッフがテレビ出身だからであろう。空気感とディテールがすごい。
現場のキャスターと制作担当者の本音である「視聴率を取りたい」というのは、どことなく視聴率競争で敗北を続けるフジテレビの問題点を浮き彫りにしているようだ。
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「踊る大捜査線」では、”事件は現場で起きているんだ”という言葉が流行った。
「グッドモーニングショー」では、”澄田(キャスター)さんは言葉で戦っているんだ」か。
小道具がおもしろい。爆弾、銃弾除けの防弾チョッキ、特殊ヘルメット、☆印の大きなバッジに隠されたあるものなど。犯人が立て籠もった喫茶店に、犯人の要求(キャスター・澄田を連れてくるようにという要求)に応じて警察の責任者・黒岩(松重 豊)が、澄田に「☆のバッジはなんだ?」と聞くと、「勇気のしるしです」(澄田)が笑わせる。
即刻入ってくるニュースの最新情報などは、担当者がホワイトボードに、簡潔に担当者が手書きで書いて、アナウンサーが読んだり、カンペ文字が用意され、女子アナがなどが言葉を追いかけていた。ニュースの画面上にテロップや文字が現われるが、「ここでテロップを発注!」などという言葉が飛んでいた。文字を入力するのはパソコンの担当者。テレビ局内部の、ワイドショーと報道の部門との対立、力関係などにも触れられたていた。報道>ワイド、という意識が社内では支配的なようだ。
かつては報道を担当していた澄田は、現在ワイドショーを担当しているが、「ワイドショーは一時的で、すぐに忘れ去られてしまう。しかしそこに何かを残す」などと語っていた。
極論すれば、濱田岳の演技に頼った感のある映画だった。
勘違い女を演じたら、なかなか決まっている長澤まさみもよかった。
子役のイメージが付きまとっていた志田未来だが、実年齢23歳で、アシスタントアナを堂々と演じていた。吉田羊は、夫の浮気を疑って睨む表情だけで存在感がありあり。ほかに林遣都、梶原善など。時任三郎と中井貴一のツーショットは「ふぞろいの林檎たち」(テレビドラマ:1983年~)のコンビ。時の流れを感じさせる。
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