「誰も守ってくれない」(2008,2009年1月公開)は、殺人犯の妹になった少女と、彼女を保護する刑事の逃避行を通じて日本社会の理不尽さを問う硬派の社会派ドラマで見ごたえがあった。第32回モントリオール世界映画祭にて最優秀脚本賞を受賞した。
手持ちカメラの擬似ドキュメンタリー手法が非情な社会感情を浮き彫りにし、観る者の心に迫る(Yahooより)。
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この映画は、犯罪を犯した家族が、マスコミやネットの悪意に満ちた書き込みでバッシングを受ける様子を描いているが、ネットの2チャンネルや過剰なマスコミの加害者家族への取材などは、精神的な暴力といっていいほどだ。
平凡な4人家族の船村家で、ある日、一家の未成年の長男が小学生姉妹殺人事件の容疑者として逮捕される。東豊島署の刑事・勝浦(佐藤浩市)は容疑者家族の保護を命じられ、保護マニュアルに従って15歳の沙織(志田未来)をマスコミの目、そして世間の目から守るため、ホテル、アパート、マンションと逃避行を始める。
かつて幼児を殺害されたことがトラウマになっている中年刑事と、殺人犯の妹になってとまどう少女のぎこちない逃避行がスリリングに展開される。
驚いたのは、沙織の両親が警察および裁判関係者の指導で離婚届けに署名し、妻の旧姓で改めて婚姻を結び、名字を変えて、マスコミや世間のバッシングをかわそうとするエピソードだ。そこまでするかという印象だが、現実にそういうケースがあるのかどうか。
人間は戦う相手の実体がよく見えないときに恐怖を感じるが、沙織が信頼していたボーフレンドまでが、沙織のホテルの居場所をネットで公開してしまう恐ろしさ。ネット社会の怖さ。
ここには誰がいつ勝浦や沙織になるかもしれないという恐ろしさがある。
報道や表現の自由とプライバシー保護の問題は、どちらにも言い分があるので境界線を引きにくいという事実がある。
勝浦刑事(佐藤浩市)が、沙織を保護し、かくまう場所として、訪れたペンションは、勝浦の家族が毎年訪れる場所だった。このペンションのオーナー夫婦(柳葉敏郎、石田ゆり子)は、3年前に、勝浦が追っていた少年によって、幼い一人息子を亡くした過去があり、勝浦は責任も感じていた。
この夫婦は被害者だが、勝浦が滞在させてほしいと連れてきたのは別の事件とはいえ加害者の妹だった。複雑な思いや精神的な葛藤も描かれる。
この映画は結論を出していないが、他者の痛みを少しでも理解しようと努力することで、かすかな希望を抱かせている。
加害者家族にも、人権があるという視点で描いたところが新鮮に映る。
ネットの怖さ、行き過ぎたマスコミの怖さ、などを浮き彫りにしている。
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