「かくも長き不在 (1960)は、モノクロ映画では、大傑作の1本だと信じている。
この映画を観たときの衝撃は大きかった。リバイバルか、名作の2本立て上映だったと思う。およそ40年くらい前だったろう。
その当時みたモノクロ映画では、「シベールの日曜日」「野いちご」と並ぶモノクロ映画ベスト10の上位に入るほど、感動した。
なにがそれほど感動させたのだろうか。
一言でいえば、戦争によって人々が受けた深い心の傷を重厚に描いた心理ドラマと言ったところか。
地味な映画だ。とかくインパクトのある映画というのは、物量作戦でオールスターを投入し、派手なアクションがあり、製作費をふんだんに使った映画、たとえば、「タワリング・インフェルノ」「大脱走」「史上最大の作戦」など・・・。
「かくも長き不在」はその対極にある映画だった。
なぜなら、浮浪者風のこの男は、16年も前に戦場に行ったまま行方不明になっていた彼女の夫・アルベールに瓜二つだったのだ・・・。
浮浪者は過去の記憶を全て失っていた。
女主人は、なんとか思い出させようとするのだが・・・。
下町の空を通過する軍用機の編隊のショットが、死への不安感を象徴して鮮烈。
テレーズは、あるとき言葉を交わすが、もしやという気持ちがだんだんと確信に変わっていく。夫の記憶を取り戻す術はないのか。背を向けて立ち去ろうとする男に、思わず叫んだ。
「アルベール!」
聞えなかったかのように歩み去る男に、それまでの一部始終を伺っていた近所の人たちも、口々に呼びかけた。瞬間、男は立ち止った。記憶が甦ったのか?
一瞬、彼は脱兎の如く逃げ出した。その行く手にトラックが立ちふさがった。あっという間の出来事であった。目撃者のひとり、ピエールのなぐさめの言葉に、テレーズは一人言のように呟いた。
「寒くなったら戻ってくるかもしれない。冬を待つんだわ」
この浮浪者の男が本当に夫だったのかどうかは、映画では明らかにされていない。
アリダ・ヴァリは「第三の男」に劣らぬ名演を見せた。
余韻のある映画だった。
|
|
☆☆☆☆