「かくも長き不在」(1961)は再見したかった映画。たまたまGyaoの配信リストで発見(6月1日まで配信)。半世紀というかくも長い時間経過の後、再見することができたのはラッキーだった。
ゲシュタポに囚われたまま戻らぬ夫アルベールを10数年以上も待ち続けるカフェの女主人テレーズが、ある時アルベールに瓜二つのホームレスに出会うが、その記憶喪失の男は本当にアルベールだったのかどうか曖昧だったので、確認したかった。
テレーズは、アルベールに違いないと確信しているが、結局映画では、どちらとも結論付けていない。モノクロームの映像がすばらしい。静かな中にも、戦争の傷痕も描く、まぎれもない名作中の名作だ。カンヌ映画祭パルム・ドール受賞。
監督:アンリ・コルピ。主人公テレーズを演じるアリダ・ヴァリの名演と、記憶喪失の男を演じるジョルジュ・ウィルソンがすばらしい。
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映画の冒頭から引き込まれる。空に航空機の一群が飛び、花火が打ち上げられ、凱旋門を背景にシャンゼリゼ通りには、戦車と軍隊のパレードが描かれる。
カメラは、そのまま移動して、パリ郊外のうらびれた街角でカフェを映し出す。
時は1960年、その日は巴里祭だったのだ。カットは変わって、カフェの中で女主人テレーズ(アリダ・ヴァリ)が、カウンターの隅の男ピエール(ジャック・アルダン)からバカンスを一緒に過ごそうと誘われている。夫アルベールを待ち続けるテレーズは店を離れる気になれない。
そんな時テレーズは店の前で歌(「セビリアの理髪師」)を口ずさみながら通り過ぎるみすぼらしい身なりの男(ジョルジュ・ウイルソン)をみて強く衝撃を受け胸騒ぎを覚える。
その男が今から16年前に、第二次世界大戦中、出征し、ナチスドイツに拉致されてから行方知れずとなっていた彼女の夫アルベールにそっくりだったからだ。
テレーズは男のあとをつけていくと、男が住んでいるセーヌ河沿いに建てられたバラックにたどり着く。
テレーズはそこから立ち去ることが出来ず夜を明かし、朝、小屋の中を覗いて男の寝顔を見つめる。男が顔を洗う姿など一挙手一投足を見つめるテレーズ。始めて言葉を交わす。
テレーズはカフェに夫の叔母と甥を呼び、店内に夫の好きなオペラの曲をかけて、男に雑誌を渡す口実で呼び寄せる。
男が店内にいる間、テレーズは男に聞こえるように叔母らとかつて住んでいた場所や家族の話をする。その雰囲気に漠然とした不安を感じた男は雑誌を置いたまま店を後にする。叔母らは別人だというが、テレーズは夫だと確信していた。
テレーズは、過去の記憶を失ったホームレスの男性と寄り添うように交流しながら、なんとか彼の記憶を蘇らせようと懸命に努力を続けるのだが・・・。
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戦闘シーンなどの派手な演出は一切ないが、戦争で生き別れた男女の悲しみがひしひしと伝わってくる秀作。
テレーズは、男と食事をして、ジュークボックスの前でオペラを聞き、そしてかつてアルベールと踊ったことがあるダンスを踊る。そのとき、鏡に映った男の後頭部の大きな傷跡を見て衝撃を受ける。記憶を失う原因となった頭の傷に気付いてしまうのだ。収容所でゲシュタポに拷問されたための傷だったのだ。残酷な現実が2人の間に横たわり、男によると、医者からは回復する見込みはないと言われたという。
ジュークボックスの曲が終わり、こらえきれず涙するテレーズと感謝の思いをこめた握手をかわした男は店を出る。
店を出た男を追ってテレーズは夫の名を呼びかける。
「アルベール!アルベール・ラングロワ!!」
無反応な男の様子を見ていた近所の人々が口々に夫の名を男に一斉に呼びかける。「アルベール・ラングロワ!アルベール・ラングロワ!!」
するとその時、突如浮浪者は歩みを止め、ゆっくりとホールドアップするのだった。収容所での悪夢が蘇ったのだ。
しかしその後、我に返った男は怯えたようにその場から走りだす。そんな男を近所の人々が追って行くと、男の目の前にトラックヘッドライトが迫る。
大きな衝撃音にショックを受けたテレーズは呆然とするが、男は無事だと聞かされテレーズは安心する。男は町を出て行ったから諦めろというジャックに、自分は性急過ぎたのだと話すテレーズ。放浪の季節が過ぎた冬にまた男は戻ってくることを信じて待つのだった。
テレーズのカフェ周辺に限定された場面設定、テレーズと過去のアルベールとの関係などの説明もほとんどなく一体この男は何者なのか、アルベールなのか、もあいまいなまま。ドライな感覚といえばドライだ。アラン・レネの「去年マリエンバートで」ほどでは内にしても、説明を省いているところは、想像するしかない。
ロッシーニのオペラ「セビリアの理髪師」という浮浪者が口ずさむメロディがうまく使われている。
主な出演:
■テレーズ(アリダ・ヴァリ)
パリの下町でカフェを営む中年女性。16年前に夫のアルベールがゲシュタポに不当逮捕され、その後消息不明になってしまった。それ以来、ひとりでカフェを切り盛りし、夫の帰りを待ち続けている。
■男(ジョルジュ・ウィルソン)
ホームレスの男性。セーヌ河岸の粗末な小屋で寝泊まりしている。テレーズの夫のアルベールにそっくりだが、記憶喪失になっているため何も思い出せない。後頭部に痛々しい拷問の傷跡がある。
■ピエール(ジャック・アルダン)
テレーズの恋人。トラックの運転手をしている。テレーズが夫だと言い張る男の出現により、彼女から別れを告げられる。
■マルティーヌ(ディアナ・レププリエ)
テレーズのカフェで働いている娘。店の近所で暮らしている。
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