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「名作に進路を取れ!」…映画とその他諸々のブログです。

映画「半世界」(2018)を見る。阪本順治監督。

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半世界」(2018)を見る。脚本・監督は「北のカナリアたち」の阪本順治監督。主演は稲垣吾郎。共演は長谷川博己池脇千鶴ほか。第93回キネマ旬報ベスト・テン「読者選出日本映画ベスト・テン第1位」。日本映画ベスト・テン第2位助演女優賞池脇千鶴)・脚本賞阪本順治)受賞。

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【あらすじ】

とある地方都市(三重県)。そのまたさらに郊外に暮らす高村紘(稲垣吾郎)と妻の初乃(池脇千鶴)、息子の明(杉田雷麟)の家族は、父から受け継いだ山中の炭焼き窯で備長炭を製炭することを生業としている。

ある日、中学からの旧友で、自衛隊員として海外派遣されていた沖山瑛介(長谷川博己)が突然、町へ帰ってきた。

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どうやら瑛介は妻子と別れて故郷に一人戻ってきた様子。紘は、同じく同級生で中古車販売を自営でやっている岩井光彦(渋川清彦)にも声を掛け、十数年ぶりに3人で酒を飲むことになった。

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翌日、廃墟同然だった瑛介の実家を掃除し、住める状態にする3人。海外での派遣活動で瑛介が何か心の傷を負ったのか。それが妻子と別れ、故郷に戻ってきた原因になったのではないかと、感じる紘と光彦だが、直接聞くことも憚られ、どうすることもできない。

紘の息子、明は反抗期の真っ最中で、どうやら学校でイジメも受けている様子だが、紘はそれに頓着していない。「おまえ、明に関心もってないだろ。それが、あいつにもバレてんだよ」と鋭いことを光彦に言われハッとする紘。 

数日後。「オレの仕事、手伝えよ」過去から脱却できずにいた仕事のない瑛介を巻き込んで一念発起する紘。炭材のウバメガシをチェーンソーで伐採し、枝打ちし、短く切断する。

窯に火を入れ、炭を掻き出しては灰を掛け、それを何度も繰り返す。出来た炭を段ボールに詰め営業し、新規の顧客開拓を目指す―。 

「こんなこと、ひとりでやってきたのか」と紘の仕事ぶりを見て驚く瑛介。これまで感じたことのない張り合いを感じ始めた紘。そんな父を見る明の目にも、変化が現れかけ、それは何もかも順調に向かい始めているように見えていた・・・。

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題名の「半世界」は日中戦争に従軍し、中国の庶民を撮った写真家・小石清の写真展の題名からとった。紛争地で過酷な体験をしたせいか、瑛介は紘に「おまえらは、世間しか知らない・・・世界を知らない」と言い放つシーンがある。監督は、それでもこの炭焼きの里にも「見失いがちなもう一つの世界がある。そういう人たちにカメラを向ける」という意志をこめた。

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稲垣吾郎が主演だが、監督によると、稲垣はキャッチャーのような存在で、どんなピッチャーが来ても受け止める度量があるという。確かに、稲垣演じる主人公は、前面にぐいぐい出るタイプではなく、抑えた演技が自然体で職人の雰囲気をかもし出している。炭火の木炭の作り方などおもしろい。

脇役にまわった長谷川博己だが、見せ場がある。同級生の息子・明が数人の生徒からいじめにあっているときに、明に「相手のリーダー格の男を倒せば、あとはどうにでもなる」とアドバイス自衛官として護身術などを身につけているだけあって、親指を立てて、相手の喉に当てれば、相手は失神する」(笑)というのだ。

不良グループの生徒たちにいじめられている明を見た時に、生徒たちに「本物の銃を撃ったことがあるか。どうなんだ!」と凄みを利かせるシーンは圧巻。少年たちもちじみ上がるほど迫力がある。

反抗期の明に食事を用意して渡す母・初乃(池脇千鶴)が、高校には絶対に行ってもらうというと、明は「勉強はしない。高校には行かない」というので、初乃は、明が食べていた豚の焼き肉を「豚に食わせる」といって取り上げてビニール袋に入れてしまう。明は「豚は、豚を食わないっしょ」と反発するので、「根性があれば食う!根性なし!」と一喝するのだ。

木炭をあるホテルの宴会用に売り込みに行った夫が失敗したので、初乃が改めて売りこみに行くのだが、ホテル担当者とのやり取りは、抱腹絶倒まではいかないが、あはは、かクスクス笑いものだった(笑)。

地味な映画だが、見どころのある映画だった。

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主な出演者:

高村紘:稲垣吾郎 (地元で30年来の炭火焼き職人)

沖山瑛介:長谷川博己(都会へ出て自衛官となり海外にも派遣される)

高村初乃:池脇千鶴(紘の妻。中学生の息子の進路に悩むが、肝っ玉がある)

岩井光彦:渋川清彦(中学時代の3人仲間の一人でひょうきん者。親の自動車販売会社を引き継いでいる)

岩井麻里:竹内都子(売れ残りと揶揄されていたが結婚が決まりはしゃぐ)

高村明:杉田雷麟(中学でいじめにあっているが、逆らえずにいる)

岩井為夫:石橋蓮司(光彦の父。ややボケが始まっている)

大谷吉晴:小野武彦

 

脚本・監督:阪本順治

119分、2019年2月公開

興行収入:1億2,000万円