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「名作に進路を取れ!」…映画とその他諸々のブログです。

映画「羊の木」(2018)を見た。仮釈放の受刑者6人が地方都市に移住してきたら…。

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羊の木」(2018)を見た。Netflixにて。監督は「桐島、部活やめるってよ」(2012)「紙の月」「2014)の吉田大八。実はあまり期待しないでみたが、アイデアのある脚本で面白かった。全体的に、北陸を舞台にし偽装無理心中を描いた「ゼロの焦点」のような雰囲気があって見応えがあった。主人公の名前が「月末(つきすえ)」。映画を見たのは月末(げつまつ)。

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日本海に面した富山県の寂れた港町、魚深市。ここで、政府の極秘プロジェクト「地方都市移住による更生および社会復帰促進計画」が実行されようとしていた。市役所の課長・神崎良作(鈴木晋介)のパソコン画面には(秘)「取り扱い注意」とある。

人口減少が著しい地方都市へ、仮釈放された受刑囚を仕事・住居付きで移住させることで、刑務所のコスト削減と過疎対策を実施しようという”一石二鳥”の政策だ。

市役所職員の月末(つきすえ)(錦戸亮)は、上司の課長から元受刑囚の新規転入者たちの受け入れ担当係を命じられた。出迎えの方法も、新幹線、在来線、車、刑務所とまちまちだった。

個性的でどことなく危険な香りのする6人の元受刑囚の転入と定住手続きを進める月末だったが、6人ともが元殺人犯だったことを知り、愕然とするのだった。

ある日、月末は、市役所内でかつてのバンド仲間で、同級生だった石田文(木村文乃)に出会う。都会の生活に疲れて田舎へと出戻ってくるため、転入手続きをしていたところだった。

昔から文に片思い中だった月末は、同級生の須藤も誘い、文と再びバンド活動を始めることにした。

6人の元受刑囚のうち、月末と年が近く、一番気が合いそうだったのが、魚深市で宅配業者として働き始めた宮越一郎(松田龍平)だった。宮腰は、勤務中、月末や文のバンド練習中に偶然通りかかったことで、彼らのバンド練習に加わることになった。しかし新たに加わった宮越と急速に仲良くなっていく文を横目に、月末は複雑な心境だった。

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受刑者たち6人は、互いに面識はなかったが、小さい町だけに徐々に交錯するシーンがあるだろうというサスペンス的な要素もあった。元受刑者同士の一触即発の場面もあったが、地元の「のろろ祭り」と呼ばれるイベントがスタートするのだった。

「のろろ祭り」の記事が大手新聞に掲載され、その中の参列者の写真が出たことで、その中の一人に「息子が世話になった」とその父親が探し回ってくるところから、一気に不穏な空気に包まれていくのだった…。

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6人の受刑者のキャラクターがそれぞれ個性的で面白い。元ヤクザの鉄砲玉(田中)、スキがありすぎる看護師(優香)、飲むとキレる理容師(水澤紳吾)、不思議キャラな清掃員(市川実日子)、全く更生していないチンピラ釣り船屋(北村一輝)などだ。一方で、田舎の平凡な青年そのものである月末を演じる錦戸亮おなじく役所の職員を演じた「県庁おもてなし課」(2013)の延長のようで自然体だった。

■主な出演者:

月末一(つきすえ・はじめ):錦戸亮 - 富山県魚深市の職員。元受刑者の受入れ窓口。バンドが趣味で、ベースを担当。

石田文:木村文乃 - 月末一が思いを寄せる同級生。バンド仲間でもあり、ギターを担当。千葉県で医療事務の仕事をしていたが、地元の魚深市に戻ってスナックに勤める。

杉山勝志:北村一輝 - 元受刑者。傲慢で粗暴な釣り船屋。傷害致死、懲役8年。アウトローの世界にいたためか勘が鋭く、宮腰が同じ元受刑者であることや、目黒が復讐のために人探しをしていることを即座に見抜く。刑務所内に「カメラ」部というのがあり、カメラが趣味。

太田理江子:優香 - 元受刑者。介護士。夫とセックス中に勢い余って絞殺してしまう。殺人、懲役7年。恋愛体質で介護施設に入っていた一の父親・亮介と恋仲になる。

栗本清美:市川実日子 - 元受刑者。人見知りの清掃員。酒乱でDVの彼氏を殺してしまう。殺人、懲役6年。

福元宏喜:水澤紳吾 - 元受刑者。気弱な理髪師。職場のいじめに耐えかねて上司を殺してしまう。殺人、懲役7年。酒乱で祭りで大暴れをしたことで元受刑者同士の接点を作ることになる。

大野克美:田中泯 - 元受刑者。寡黙なクリーニング屋。元暴力団員で、顔に傷がある。殺人、懲役18年。

宮腰一郎:松田龍平 - 元受刑者。宅配業者。街で因縁をつけられ逆に殺してしまい、過剰防衛と認定される。傷害致死、懲役1年6か月。一(はじめ)と初対面から妙に心を開いており、過去の罪状を打ち明けたりギターを始めたりするなど友人関係を築こうとする。少年院にいたことがある。

雨森辰夫:中村有志 - 福元の働く理髪店の店主。元受刑者で、前科を知ったうえで福元を受け入れる。

内藤朝子:安藤玉恵 - 大野が働くクリーニング屋店主。

田代翔太:細田善彦 - 一が勤める市役所の後輩。元受刑者の受け入れプロジェクトのことを偶然知り好奇心から元受刑者たちのことを調べ始める。

月末亮介:北見敏之 - 一の父親。理江子と恋仲になる。

須藤勇雄:松尾諭 - 一の同級生。一と文のバンド仲間でドラムを担当。家庭が忙しくなり、バンドをやめたがっている。

志村妙子:山口美也子 - 一の叔母。亮介と理江子の関係を良く思っていない。

神崎良作:鈴木晋介 - 市役所の課長。一の上司。

目黒厚:深水三章 - 息子を殺した宮腰を探し魚深市に来る。

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タイトルの「羊の木」の意味は何かを象徴しているのか。オープニングの画面で「その種子がやがて芽吹き タタールの子羊となる 羊にして植物 その血 蜜のように甘く その肉 魚のように柔らかく 狼のみ それを貪る」(「東タタール旅行記」より)とあった。

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元受刑者の中で、一番怖いのが宮腰一郎(松田龍平)。普段は物静かで話し方も普通だが、その裏の顔が恐ろしい。親しくなった月末(つきすえ)に対して、友人としてか市役所としてか…と迫る。月の景色がいいから見に行こうと断崖絶壁の場所に連れ出すシーンなどはサスペンスタッチだった。

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優香は、テレビではバラエティなどでコメディエンヌの印象があるが、この映画では別人のような独特の色気のある恋愛体質女を演じている。アル中でもあった福元宏喜(水澤紳吾)に、宴会の席で、隣の人が酒を勧め、最初は断っていたが、少し飲んでから一升瓶をがぶ飲みして、凶暴な性格が現れるシーンは度肝を抜く。松尾諭木村文乃など、楽器演奏が本物らしく見えたが特訓の成果のようだ。役者も大変だ。