fpdの映画スクラップ貼

「名作に進路を取れ!」…映画とその他諸々のブログです。

映画「あなたになら言える秘密のこと」(原題:SECRET LIFE OF WORDS、2005、スペイン)を見た。

 f:id:fpd:20191115093329j:plain

     f:id:fpd:20191115093404j:plain

あなたになら言える秘密のこと」(原題:SECRET LIFE OF WORDS、2005、スペイン)を見た。重い映画だがこんな名作があったとは。タイトルが軽いので「死ぬまでにしたい10のこと」のイザベル・コイシェ監督作品だけに、同類の作品と思われて見逃してしまうのも無理はない。甘ったるいラブコメではありません。

クロアチアの紛争難民の話が背景にある。クロアチア紛争とは、1990年代初頭にが行われ、大量虐殺、集団レイプなどで、およそ20万人もが亡くなったという衝撃の事実が明かされる。静かな物語の中に、その厳しかった現実が突きつけられる。映画は、ラストに明るい希望があるので救われる。

出演はカナダ出身の女優、監督のサラ・ポーリー。どことなくユマ・サーマンに似た雰囲気。共演は、ティム・ロビンスジュリー・クリスティーほか。 

・・・

イギリスのとある街にある工場で働くハンナ(サラ・ポーリー)は、働き者ではあるが誰とも口を利かず、孤独な毎日を送っていた。彼女の過去は誰も知らない。時々どこかに電話をかけるが、相手が出ても何も話さずに切ってしまう。

   f:id:fpd:20191115095033j:plain

  f:id:fpd:20191115093719j:plain

全く休まないハンナを見た上司は、彼女に無理にでも休暇を取るように勧める。組合からの突き上げでもあったようだ。ハンナはある港町にやって来る。しかし休暇など欲しくなかった彼女はとりたててすることもない。

そんな時に入った中華料理屋で、至急看護師が欲しいと携帯で話す男を見かけ、ハンナは自分は看護師だと告げる。ある海底油田掘削所で火事が起こり、重傷を負った男性を看護する人が必要だという。ハンナはすぐにヘリコプターで採掘所に向かう。

 f:id:fpd:20191115093958j:plain

患者のジョゼフ(テイム・ロビンス)は重度の火傷(やけど)を負っており、さらに火事のせいで一時的に失明していた。火事の時、ある男が火の中に飛び込んで自殺したが、ジョゼフは彼を助けようとして重傷を負ったとハンナは聞かされる。

 f:id:fpd:20191115094025j:plain

ハンナは黙々とジョゼフを看護する。ジョゼフは時には強引に、時には冗談を交えて何とかハンナ自身のことを聞き出そうとする。そんなジョゼフや、採掘所で働く心優しいコックのサイモンに、徐々にハンナは心を開いていく。

・・・

自国の内紛に巻き込まれた心の傷を隠し、絶望し生きるハンナの隠された過去が次第に明かされていく。海の孤島と化した閉ざされた建物では、ベッドにいたのはジョセフも周りの人もそれぞれに秘密を抱えていた。

陽気な料理人サイモンのつくる料理を口にし、美味しいと感じたときから、何かが変わり始めるのだった。ハンナに「髪は赤毛か?どこの出身か?好きなものは何か?」など会話を投げかけ続けるジョセフ。それらの質問には答えず、黙々と世話をするハンナだったが、やがてジョセフの言葉と心に触れ、ハンナは自分の中で今まで封印していた気持ちが湧き上がってくるのを感じていく…。

・・・。

重苦しさの中にも時々ユーモアや、ちょっとしたセリフがあって面白い。

ジョセフは、ハンナに自分の秘密を話すから、そばに来てといい、話したのは「私は、実は泳げないんだ」だった。ここで二人は大笑い。「明日に向って撃て!」のサンダンスのセリフではないか!(笑)。ドルチェ・ビータ(映画「甘い生活」の原題)のエピソードなどもある。

しかし、この映画のタイトルにある「秘密」は、ハンナから語られるもので、内容は壮絶。そのシーンのハンナの表情がすごい。それまでの隠してきたことを一気に語るのだが、別人のような迫力がある。料理人が、患者のジョセフに対するある一言で、ジョセフの顔が一変し「出て行け!」というシーンもすごい。触れてはいけないことを言われたからだ。

劇中、「ヒトラーが、ユダヤ人虐殺を前に、協力者を集めて語った言葉に、アルメニア人の虐殺を誰も覚えていない。(今回のこと=アウシュビッツも)10年後は誰も覚えていない」と語られていたのは痛烈だ。

ジョセフは、病院で手術を受けて、火傷のあとはほとんどなくなり、視力も回復した。ジョセフは、ハンナのカウンセリングを担当していた女性に会いに行き、ハンナとクロアチア紛争のことについて聞く。クロアチア人のビデオテープが記録として保存されていた。残酷な記録だが、それを見るか問われるジョセフ。

ジョセフは、それを見ることは控えて、自分を親身に看護してくれたハンナに会いにいくのだが・・・。

・・・

目の見えないジョセフが、ハンナの「衝撃の告白」の後にハンナの顔に手をやると、ハンナは、ブラウスのボタンを外していく。ジョセフの手の感触に、衝撃の触感(食ではなく)が走る!ジョセフは号泣するしかない。映画的な宣伝文句で言うと、”傷”を持った孤独と孤独の魂の激しいぶつかり合い…とでもなろうか。

 

   f:id:fpd:20191115094047j:plain

■キャスト:

サラ・ポーリー…ハンナ

ティム・ロビンス…ジョセフ

ハビエル・カマラ…サイモン

ジュリー・クリスティー…インゲ

■スタッフ

監督・脚本:イサベル・コイシェ

■日本劇場公開:2007年2月10日

■115分、配給:松竹